モデルハウス

佐々井 サイジ

第1話

 僕がここに家を建ててからも、はす向かいの家は一年くらいモデルハウスだった。白を基調とした家で屋根にはソーラーパネルが設置されている。駐車スペースは二台ほどあってわりと大きな車でも余裕をもって停められそうだった。一から建てずにモデルハウスを買い取る方がお金がかからないから良かったかもねと妻に言うと「どんな人が来たのかもわからないような家に住むのは嫌」と一蹴された。

 土日にはスーツを着た男と若い男女や中年の男女がよく出入りしているのを見かけた。スーツの男はハウスメーカーの営業マンで、男女は夫婦だと推測がつく。この地域は駅からは少し離れているが、徒歩圏内にスーパーやコンビニ、最近はジムができて人気なのかもしれない。確かに自分のときにも営業マンが「ここは近い将来もっと便利になる」と言っていた。

 二週間ほど前に引っ越し業者のトラックがモデルハウスの前に止まっていた。とうとうモデルハウスが買われた。僕は目覚めると二階のベランダに出て背伸びして体を起こすルーティンがある。そのときに上下青い作業着を着た男二人が、ドアからやけに長い段ボールをトラックに積んでいるところを見た。僕の性格が悪いのか、長い段ボールが一瞬棺桶のように見えてしまった。

 早朝から大変だと思ったが、僕が引っ越しのときには、業者を利用せずに自分の車に荷物を積んで、アパートとこの家を何往復もした。それだけで朝から夕方までかかったし、なんならそのあとに家具を設置しなければいけなかったので、二日間くらいかかった。しかも本棚を二階に運ぶ途中、壁にぶつけて壁紙は少しはがれてしまった。お金はかからなかったけど専門の業者に任せた方が良かったかもしれない。

 作業着の男の一人が見上げたとき、目がった気がしたのでとっさに頭だけ軽く下げると、男も同じように会釈した。

 外出の準備を終えた妻と近くのスーパーまで車で買い物に行ったのだが、帰ってくる頃にはすでにトラックはなくなっていた。やっぱり多少お金をかけてでも引っ越し業者を利用すべきだったと今になって後悔した。

「もしかしたら近いうちに引っ越してきた人が挨拶に来るかもしれないな」

「そうだね」

 しかし一週間経ってもそんな人は来なかった。

 よく考えると、モデルハウスだった家は今でも生活感が全くない。車もなければ自転車もない。窓にはカーテンもなくて、部屋の中が明るかったところも見たことがない。家財道具を入れただけで人が住むのはまだ先なのだろうか。それとも引っ越してきたわけではなく、モデルハウスの部屋の中を模様替えしただけだったのか。そんなことをいろいろと考えていたのだが、よく見ると〈NAKANISHI〉という表札があり、引っ越してくる人がいることは確実だった。

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