初恋は望まない

蒼麻悠利

初恋は望まない

〇〇Mは、上に名前が書いてあるキャラのモノローグ。Tはテロップです。


登場人物

柳田 優希(やなぎだ ゆうき)(17) 私立五月雨高等学校に通う二年生。

立石 晃(たていし あきら)(18) 私立五月雨高等学校に通う三年生。

望月 桂子(もちづき けいこ)(17) 私立五月雨高等学校に通う二年生。優希の親友。

美香(みか)(17) 私立五月雨高等学校に通う二年生。優希のことが好きな女の子の内の一人。


【1ページ】

○私立五月雨高等学校・昇降口(朝)

   朝の挨拶や生徒の雑談でザワザワと騒がしい昇降口に柳田優希(17)は

   親友である望月桂子(17)と共に登校して来た。

桂子「さて、今日も優希の下駄箱には、ラブレターが入ってるのかな〜?」

優希「……入ってると思うけど?」

桂子「お〜! 流石、そこらの男よりも圧倒的に女の子にモテる女の子! 柳田

   優希ちゃん! 自信満々ですねぇ!」

優希「いや、自信って言うか……もう、見えてるんだよね」

   優希が指を指した先には扉付きの下駄箱があり、その下駄箱の一つの扉に

   は、『柳田』と優希の苗字が記載されており、扉の上には手紙の端と思わ

   れる白い紙が少しだけ飛び出していた。

【2ページ】

桂子「おぉ〜! 最近は飛び出すことなんて無かったのに、今日はちゃんと飛び

   出してるね〜」

優希「(引き攣った笑顔で)そ、うだね……」

優希M「雪崩だけは起きませんように……!」

   覚悟を決めた優希は自分の下駄箱の扉を開ける。すると下駄箱の中に入っ

   ていたのは五枚の手紙だけだった。

桂子「あれ? 飛び出してるから、また雪崩が起きるかと思ったのに……ザン

    ネーン」

   優希は下駄箱の中に入っていた五枚の手紙を取り出し、安堵した表情で自

   分の通学鞄に入れる。

優希M「……よかった、雪崩が起きなくて」

【3ページ】

   通学鞄の中に手紙を入れ終えた優希は、隣に居た桂子を見て笑顔で話しか

   ける。

 優希「さ、早く教室行こう? 朝のホームルーム始まっちゃうよ?」

 桂子「そうだね〜面白いもの見れたし、さっさと行こ〜」

 優希「(苦笑い)桂子……私は結構困ってるんだけど……」

   優希と桂子は会話しながら昇降口を抜け廊下へと歩いていく。後ろを一度

   も振り返らなかった優希と桂子は気づかなかった。自分たちの後ろ姿を見

   つめている立石晃(18)の姿に。

【4ページ】

○私立五月雨高等学校・教室

   一時間目の授業が終わり、休み時間に突入した時。桂子はクラスメイトの

   友人の所へと行き、優希は、下駄箱から取り出した五枚の手紙を鞄から取

   り出し、手紙の中身を一枚一枚確認していた。

優希M「これは、明日の放課後に校舎裏……こっちは、今日の放課後に体育館

    裏……これには『返事はいらない』って書いてある。だから呼び出し場

    所が書いてないんだね」

   一枚、また一枚と確認していって、最後に残った手紙に目を通す。すると、

   その手紙には『今日の昼休みに屋上で待ってます』と書かれていた。

優希M「ん? 今日の昼休み? ……桂子にお昼一緒に食べられないって言わな

    いと……」

   最後の一枚を確認した後、優希は顔を上げて桂子を探す。すると、クラスメ

   イトの男子と談笑している桂子の姿が目に入った。

優希M「桂子、楽しそう。もしかして、あの男子のことが好きなのかな?」

【5ページ】

優希「(申し訳なさそうな顔で)あ〜……ごめん、桂子。今ちょっとだけい

   い?」

桂子「ん? 何なに、どうしたの〜?」

優希「その、今日は一緒にお昼食べられなくなっちゃったってことを伝えたく

   て……」

桂子「ん? そーなの?」

優希「うん。ほら、今日貰った手紙の中に……」

桂子「あ〜! 告白ね! オッケ〜今日は他の人と一緒に食べるわ!」

優希「(申し訳なさそうに微笑みながら)ごめんね、桂子。ありがとう」

   優希が桂子に謝った直後に、二時間目の授業開始の五分前を知らせる予鈴

   が教室内に鳴り響く。

【6ページ】

桂子「(焦った顔で)あ、やば! 何も準備して無い!」

   急いで自分の席に戻ろうとしている桂子が、何かに気づいたような顔をし

   て優希の前に来る。

桂子「あ、そうだ! 優希、謝らないでいいからね! ちゃんと返事を返して来

   なさい!」

   優希の肩に勢い良く手を置いて、桂子は歯を出して笑う。

優希「(感動して泣きそうな微笑みで)桂子……ありがとう」

【7ページ】

○私立五月雨高等学校・薄暗い階段上の踊り場

   立ち入り禁止の立札が横にズレている。その奥には、屋上へと続く扉があ

   る。優希は立ち入り禁止の立札を横目に、覚悟を決めた顔をして屋上への

   扉を開けた。


○同・屋上

   人気のない屋上に、肩甲骨の辺りまで伸ばされている茶色の髪が、風に靡

   くのを抑えながら、屋上の扉を出て真正面にある古びたフェンスに手を置

   いている美香(17)の姿があった。扉に背を向けていた美香の耳に、微

   かに扉が開く音が聞こえてくる。

優希「……貴女が、美香さん?」

美香「……うん、そうだよ。急に呼び出してごめんね」

   美香が覚悟を決めた顔でくるりと優希の方へと振り返る。

【8ページ】

優希「……大丈夫だよ。慣れてるし」

美香「慣れてるって……ふふ。柳田さんって、面白いこと言うのね」

優希「え? ……ごめん! 今の発言、デリカシー無かったよね……!」

美香「(綺麗な微笑みを浮かべて)別に構わないわ。だって、本当のことだから

   ね」

優希「で、でも……」

美香「私が良いと言っているのですから、良いのですよ」

【9ページ】

美香「それでね、柳田さん……私が貴女のことを好きになったきっかけは、私の

   好きな子が貴女に顔を真っ赤に染めて、告白している現場を見た時だった

   わ」

優希「……え?」

美香「……あの時は、貴女のことが酷く羨ましかったわ。貴女で良いなら私でも

   良いじゃないって、そう思ったから」

優希「そ、の……」

美香「(困ったような表情で)……ごめんなさい、柳田さん。勘違いさせてしま

   ったようね。大丈夫よ、私は貴女を恨んでいる訳では無いから」

【10ページ】

優希「(困惑した不思議そうな顔で)……美香さん。私は、貴女にとって邪魔者

   だったのよね? なら、どうして私に告白して来てくれたの? どうし

   て、私のことを恨んでいないの?」

美香「そうね……まず、この高校に入って……私は人生初の『一目惚れ』を経験し

   たわ。その相手が、貴女だったの」

優希「(呆然とした顔で)人生初の、一目惚れ……」

   美香と優希の間に、さぁっと小さく音を立てて風が吹く。その風で舞い上

   がった髪を抑えながら、美香は優希に向かって話を続ける。

美香「私が貴女に一目惚れしたのは、入学式の時。でも、私は貴女に告白しなか

   った。貴女に脈が無いなんて、分かりきっていたから」

【11ページ】

優希「美香さん……」

美香「それで……貴女への気持ちを必死に諦めて、同級生の仲良くなった子のこ

   とが好きになり始めて来た頃に、その子が……貴女へ告白する現場に遭遇

   してしまって……」

優希「(複雑そうな表情)…………」

美香「(諦めたような笑顔)まさか、あの子が貴女に告白するなんて、全く思わ

   なかったわ……でもね、その子が貴女に顔を真っ赤にして告白している様

   を見て、過去に貴女への告白から逃げた自分が酷く惨めに思えて……」

優希「だから、告白してくれたの?」

美香「(優しい笑顔)ええ。それから、二つ目。貴女のことを恨んでいない理由

   だけれど……実は、ね? (照れ笑い)今、私……さっき話に出ていた好

   きな子と付き合っているの」

【12ページ】

優希「(目を見開いて驚きの表情)……それなら、なんで私に告白を?」

美香「……さっき、言ったでしょう? 私は過去に貴女への告白から逃げて、そ

   れが惨めに思えて仕方無かったって。だから、この告白は私なりのケジメ

   のようなものなの」

優希「……今、付き合っている子は……この告白を許してくれているの?」

美香「(微笑んで)ええ。しかも、しっかりと振られて来なさい、って背中まで

   押して貰ったわ」

優希「(優しげな微笑みを浮かべながら)……そっか。それなら良かったわ。

   あ、それと……美香さん。好きな人と付き合えて良かったわね。本当に、

   おめでとう」

【13ページ】

美香「(少し泣きそうな微笑みを浮かべて)柳田さん……ありがとう」

   美香の笑顔をみて微笑ましそうにしていた優希の後ろで、屋上の扉がギィ

   と開く音がする。

立石「(不思議そうな顔で)あれ? 先客が居るなんて珍しい……美香ちゃん?」

美香「え? ……立石先輩?」

優希M「ん? 立石先輩……って、何処かで聞いたことあるような……?」

   美香の言葉に優希が首を傾げながら振り返る。

【14ページ】

立石「(驚いた顔で息を飲む)……ッ!」

優希M「この人が、立石先輩? 綺麗な人……」

優希「(微笑んで)……初めまして、立石先輩」

立石「(少しだけ頬を赤く染めながら微笑んで)……初めまして」

優希M「……? なんだか、心臓の鼓動が早くなったような……?」

   少しだけ首を傾げて、優希は自分の胸に手を持っていく。

美香「立石先輩、この人は……」

立石「知っているよ。確か……柳田優希さん、だよね?」

【15ページ】

   立石に話しかけられて、優希はパッと手を胸元から離し、手を後ろに回す。

優希「え? 私ってそんなに有名なんですか?」

美香「いえ、多分……立石先輩は女子人気が絶えませんから……それに、周りに

   女の子たちを侍らせて居る時もあるので、その時に聞いたのでは?」

立石「侍らせてるって……俺、そんなことしてるかな?」

美香「私の目から見ると確実にしていらっしゃると思うのですが?」

立石「そうかな……これでも結構少なくなった方なんだけど……」

   立石と美香の楽しそうな声が屋上に響く。

優希M「なんだか、二人とも楽しそう……あれ? なんだか、胸が痛む気がする

    わ……」

【16ページ】

優希「……あの、美香さん。私、もうそろそろ戻るわね」

美香「あ、ごめんなさい! 長々と引き留めてしまって……!」

優希「(微笑んで)私は全然大丈夫よ」

美香「……改めて、ありがとう、柳田さん。それと、戻るなら私も一緒に戻って

   いいかしら?」

優希「ええ、もちろん。一緒に戻りましょう」

【17ページ】

立石「二人とも戻るんだね? どうせなら、お昼一緒に食べたかったけど……」

美香「そんなことしたら、私は恋人に怒られてしまいますからお断りです。それ

   に、私も柳田さんも、お昼を食べるために屋上に来たわけでは無いので。

   お先に失礼しますわ」

立石「それくらい分かってるよ。それじゃあ、二人とも、またね」

美香「ええ、また」

優希「えっと……はい。お邪魔しました」

【18ページ】

○私立五月雨高等学校・薄暗い階段

   優希と美香は二人並んで屋上からの階段を降りている。

優希「美香さんは、あの……立石先輩と、仲が良いのね?」

美香「え? ……ああ。立石先輩とは腐れ縁みたいなものですよ。兄が立石先輩

   の幼馴染でして……昔から、よく家に遊びに来てくれていたの」

優希「(少しだけ眉を顰めながら)そう、なんですね……」

優希M「……どうして? なんで、こんなに心が落ち着かないの? 少しだけ話

   しただけなのに、なんであの人の顔が頭から離れないの……?」

   悶々としている様子の優希を、隣を歩いている美香は少し微笑ましそうな

   顔で見ていた。

【19ページ】

○私立五月雨高等学校・二年二組教室

優希「ただいま、桂子」

桂子「あ、優希〜おかえり〜結構遅かったね?」

優希「その……色々話し込んじゃって……」

桂子「ふーん? てか、早くご飯食べなよ! 昼休み終わっちゃうよ〜?」

優希「うん、そうだね……」

優希M「……この、落ち着かない気持ち。桂子に相談してみようかしら? なん

    だか、思考もふわふわしている気がするし……」

【20ページ】

   優希は自分の席に座って大人しく、若干俯きがちに昼ごはんを食べ始め

   た。その様子を見兼ねた桂子が優希の席に近づいてくる。

桂子「……優希、なんか……朝より元気ないね? どうしたの? もしかして、

   嫌味とか言われた?」

優希「(首を振って)……違うよ」

桂子「なら、どうして?」

優希「(困ったような微笑みで)……あとで、ちゃんと話すよ。だから昼ごはん

   先に食べさせて?」

桂子「……りょ〜かい。なら放課後に聞かせてもらおうかな〜」

優希「うん。ありがとう桂子」

【21ページ】

   その日、最後の授業が終わり放課後になり、クラスメイトたちが帰った

   後。優希と桂子は、二人で教室に残っていた。

桂子「それで〜? 今日、告白受けてから元気なかった理由を、教えてもらおう

   か!?」

優希「えっと……私にもよく分からないんだけど、なんか……屋上で立石先輩って

   人に会ってね?」

桂子「え? 立石先輩に?」

優希「う、うん……桂子も知ってるの?」

桂子「知ってるに決まってるじゃん! 立石先輩って、この学校一番のイケメン

   って呼ばれてるんだよ? そんな存在、知らない訳……」

優希「……ごめん、私……なんか、どこかで聞いたことあるような、程度の認識

   だった……」

桂子「あ〜……そっか。優希って誰がモテるとか余り興味ないもんね」

【22ページ】

桂子「で、その立石先輩がどうしたの?」

優希「……自分でもよく分からないんだけど……立石先輩のことを考えると、気

   分がふわふわするんだよね……」

桂子「……気分がふわふわ?」

優希「(頬が赤く染めて)うん……あとは、頭から立石先輩のことが頭から離れ

   ないと言うか……」

桂子「……立石先輩のことが、頭から離れない……そ、それって……」

優希「え、もしかして理由分かるの? 教えて、これは一体なんなの……?」

【23ページ】

桂子「……優希。それは、多分……恋だよ」

優希「(ポカンとした顔で)……コイ?」

桂子「そう、恋……あと、一つ聞きたいんだけど……優希、もしかして、これが

   初恋なの……?」

優希「(呆然とした顔)………(耳まで真っ赤に染めて)こっ、これが

   恋……!」

   優希は真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠す。

桂子「えっ……優希、大丈夫?」

優希「……まさか、恋を自覚するのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった

   わ……」

【24ページ】

桂子「……そんなに恥ずかしがってるってことは、マジで初恋なのか〜」

優希「(顔を覆った手を外しながら)うぅ……そうよ。初恋、なのよ……」

桂子「……う〜ん。……優希、知ってる? 初恋は叶わないって言葉」

優希「知ってるけど……もしかして、立石先輩、彼女居るの?」

桂子「噂、だけどね……なんか、すっごく可愛い彼女と楽しそうにショッピング

   してる姿が、今までに何度も目撃されてるらしいよ……?」

【25ページ】

優希「……そう、なの」

優希M「ああ……なんだか、心臓が張り裂けてしまいそうだわ。でも……先に彼

    女が居るんだったら、仕方ないわよね」

桂子「優希……大丈夫?」

優希「……大丈夫よ。心配してくれてありがとう、桂子」

桂子「優希……ごめん、噂のこと言わなければ良かったね。本当に、ごめん」

優希「謝らないで、桂子。それに……私ね、桂子のお陰で覚悟を決められたわ」

桂子「え? 覚悟? 一体なんの……」

優希「(しっかりと正面を見据えて)振られて玉砕する、覚悟よ」

【26ページ】

 T「三日後……」

○私立五月雨高等学校・屋上

   緊張した面持ちで屋上に佇む優希の隣に、桂子の姿がある。

桂子「大丈夫? しっかり深呼吸して?」

優希「(深呼吸)……大丈夫よ、桂子」

桂子「……ホントに大丈夫? なんか、今にも倒れそうで心配なんだけど……」

優希「大丈夫よ! それに、振られたら一緒にカラオケに行ってくれるんでしょ

   う?」

桂子「そりゃ〜もちろんよ! 私の美声で優希の心を癒してあげるわ!」

優希「ふふ……それなら、安心ね。しっかりと振られてくるわ!」

【27ページ】

   優希と桂子が話し込んでいると、屋上の扉がギィと開く音が聞こえる。

立石「(戸惑ったような笑みを浮かべながら)……えっと、この手紙をくれたの

   は柳田さん、だよね?」

   手紙を手に持って見せてくる立石に、桂子は声を掛ける。

桂子「大丈夫よ、私はもう退散するから。……優希、しっかりね」

優希「うん……!」

   桂子は、優希の隣を離れて、屋上の扉の前に立っている立石の前に近付い

   ていく。すると、小声で立石に一言だけ声を掛けた。

桂子「立石先輩。私の親友、泣かせないでよ」

立石「! ……うん。分かってるよ」

   桂子の言葉に立石も小声で返して、目の前に佇む優希を見る。

【28ページ】

優希「(大きく深呼吸をして、覚悟を決めた表情で)……立石先輩!」

立石「(優しく微笑んで)はい」

優希「(顔から首までを真っ赤に染めながら)私ここで初めて会った時に、立石

   先輩に一目惚れしました! だから……好き、です! 付き合ってもらえ

   ませんか!」

立石「(とても幸せそうな顔で)うん。喜んで」

優希「(泣きそうな顔が徐々に驚きの表情に移り変わって)……え?」

【29ページ】

   驚きの表情のまま固まってしまった優希に立石は一歩ずつ近付いていく。

立石「まさか、柳田さん……いや、優希から告白して貰えるとは思わなかったよ」

優希「えっ、えっと……!?」

立石「あ、突然呼び捨てはダメだったかな? なら、優希ちゃん?」

優希「ちゃん付け!? ゆ、優希でお願いします!?」

立石「分かった。なら、優希」

優希「は、はい!!」

【30ページ】

立石「俺も、優希のこと好きだよ」

優希「……え?」

立石「俺もね、優希と同じように一目惚れしてたんだ。まぁ、俺の場合は……優

   希、偶に中庭でお昼食べてるだろ? その時に、その……あの親友ちゃん

   に向けている笑顔に惚れたんだ」

優希「(呆然と)桂子に向けている、笑顔に……?」

立石「うん。信じられない、かな」

優希「……だって、立石先輩には可愛らしい彼女が居るんじゃ……?」

立石「可愛らしい彼女? ああ、その噂は嘘だよ」

【31ページ】

優希「え!? で、でも……何度もショッピングをしている姿を目撃されている

   って……」

立石「何度もショッピング……ああ、それは全部、俺の幼馴染で美香ちゃんの兄

   の女装姿だよ」

優希「じょ、女装姿……?」

立石「うん。美香ちゃんの兄……湊って言うんだけどね? 湊はアニメとかゲー

   ムとかが大好きでね? よくコスプレをしているんだ」

優希「コスプレを……?」

【32ページ】

立石「そう、コスプレ。でもね、試験とかあるとコスプレ禁止令が湊の両親から出

   るんだよ。それで、試験が無事に終わるとコスプレ欲が抑えられないらし

   くて……」

優希「ま、まさか……そのコスプレ欲のまま、女装するんですか……?」

立石「うん、その通り。で、俺に彼女が居ないことを良いことに、湊は女装姿の

   まま、買い物に何度も付き合わされてるって訳」

優希「そう、なんですか……? なら、本当に……?」

立石「うん。さっきまでの俺に彼女は居なかったよ。だから……優希の告白を受

   けたんだ」

【33ページ】

優希「あっ……なら、立石先輩の今の彼女、は……」

立石「優希だよ」

優希「(顔を真っ赤に染めて息を飲む)ッ!」

立石「(嬉しそうだけど少し不思議そうな顔で)……さっきから思ってたけど、優

   希って随分と耐性無いんだね?」

優希「(赤くなった顔を両手で覆いながら)……だって、立石先輩が……初恋、

   ですから」

立石「え? 初、恋? 俺が……!?」

優希「……はい。私、今まで何人かと付き合った経験はあるんです。でも、なんだ

   か……誰のことも、好きになれなくて」

【34ページ】

立石「(照れて耳が赤く染まっている)そ、それで……俺が、初恋なの?」

優希「(少し不安そうに)は、はい……その、引きましたか?」

立石「(嬉しそうに)まさか! 俺は嬉しいくらいだよ!」

優希「(安心したように)そ、そうなんですか? 良かったです……」

立石「……あのさ、優希。その、せっかく恋人同士になったんだし、一つお願い

   しても良いかな?」

優希「(照れながら)え? は、はい……なんですか……?」

立石「俺のこと、立石先輩じゃなくて……名前で呼んでくれないかな?」

【35ページ】

優希「(少し首を傾げて照れた笑顔で)……なら……あ、晃さん?」

立石「ッ! ……やっぱり、好きな子に名前を呼ばれると嬉しいね」

優希「そ、そうですね……私も……好きな人に名前を呼ばれるの、嬉しいです」

立石「優希……ありがとう。俺に告白してくれて」

優希「い、え。こちらこそありがとうございます。告白を受け入れてくれて……」

【36ページ】

立石「(とても嬉しそうな笑顔で)優希……これから、末長くよろしくね」

優希「(とても嬉しそうな笑顔で)はい……! よろしくお願いします、晃さん!」

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