第6話 そりゃ本音は…ね? 麗奈

「え? 何? なんなの? 連続でうちに病人が転がり込んでくるっておかしいでしょ? ネタ切れなの? 」

「幸ちゃん、誰に喋りかけてるの?」

「なんでもないから。麗ちゃんは、静かに寝てなさい」

「大丈夫だよ~朝起き上がるのがつらくて、お腹の痛みと体全体の不快感が酷いだけだから」

「それ完全に生理痛だから、それも重いやつ」

「ごめんね。迷惑かけに来たかったわけじゃないから…」

「わかってるから。無理しないで、横向きで膝を曲げて寝てて」


 さてこの場合も確か場所が変わってなければ…あったあった、母さんがつらい時にって姉貴に飲ませてたやつ。低用量ピルと漢方…どっちがいいんだっけ? ピルがホルモンバランス改善で、漢方が体の冷えに効くって言ってたな。


「麗ちゃんこれ飲んで、漢方」

「ごめんね…いただくね」

「ほいほい。それと毛布だけだと足りないだろうからホッカイロを…」


 麗ちゃんの服の上から、お腹と腰にペタリペタリと。


「なんかして欲しいこととかある?」「う~んと、あんまりない…かな」

「そっか」「………」

「幸ちゃんはさ…」「ん」

「こんなめんどくさい私なんて…きらい…だよね」

「どうしてそう思うの」

「だって私がそう思うから…」「………」

「いっつもお世話してるつもりで、迷惑かけてて、そんな自分が嫌で…」

「………」

「でも幸ちゃんのそばにいたいの。嫌なの、離れちゃやなの…」

「どこにもいかないで…幸ちゃん」

「ずっといっしょに…いて…よ………」

「………寝ちゃったか。寝れるならまだ良い方だよな」


 たまに昔に戻っちゃうよなぁ…それでも相当強くなったけど。見掛け倒しのハリボテどころか、引っ込み思案の八尺様なんて言われてたのが、今じゃ本物の頼れる姉貴分だもん…頑張ったよな麗奈。




「ん…うぅん……あれ幸ちゃん?」

「あいよ、幸ちゃんですよ~」「フフ…なにそれ…」

「少しは良くなった?」「うん、さっきよりは…」

「そっか、じゃあちょっと試してみようか」

「試すの?」「そ」


 姉貴がつらそうだった時に、やってあげてと母さんに仕込まれた生理痛を和らげるツボ押し、その他いろいろ。


「麗ちゃん動ける?」「大丈夫だよ」

「よかった。じゃあゆっくりでいいから、うつぶせになって」

「うん」「ありがと。まずは足のくるぶしを…」


 心臓から一番離れた場所から、アキレス腱周りにある三陰交さんいんこう。ふくらはぎ、腰のチョイ上にある腎兪じんゆ、背中全体を揉み、肩回り、首、頭も軽めに揉んでいく。


「少しポカポカしてきた気がする」「そりゃよかった」

「自分でもツボ押したりするんだけどね~」

「人の手ってのは頼れるもんだよな」「幸ちゃんの手だからだよ~」

「嬉しいでございますですよ」「ふふふっ」

「それじゃあ麗ちゃん体育座りできそう?」「体育座り? できるけど…」

「よかった…じゃあゆっくりでいいからやってみて」


 体育座りに体勢を変えてくれた麗ちゃんの後ろに回って座り、俺にもたれかかせる。


「え? え? 幸ちゃん、な~にこれ?」

「この方がやりやすいからさ、足をらくにしていいよ。おへそを中心に『の』の字を書くように揉むんだよ。関元かんげんだったかな」

「へ~、幸ちゃんよく知ってるね~」

「そぉね~」


 麗ちゃんのお腹をキャンバスに、『の』の字を描くように優しく揉みほぐしていく。

 ゆっくりと丁寧に、優しく優しく、痛みが止まりますようにと何度も何度も。昔もよくやってたっけ。


「いたいの、いたいの、とんでけ~」「幸ちゃん、私もう子供じゃないよ~」

「そうだな…子供が持つには凶悪すぎるもんなぁ」「えっち…」

「ナニヲイッテルノカワカリマセン」

「幸ちゃんなら…いいよ?」「未来の彼氏のためにとっときなよ」

「じゃあ幸ちゃんだ。はい、どうぞ」

「………これだけで我慢しとこ」


 そう言って子宮に当たる場所の素肌に、手のひらを当てる。暖かいかどうかも分からない俺の手だけど、今だけでいいから、この瞬間だけでも麗ちゃんの苦痛を少しでも和らげてくれと…。


 自我ができる前から、お隣さんだったな。どっちが年上かわからないくらい、持ちつ持たれつで…姉貴はいるけど、もう一人の姉なのか妹なのか。いるのが当たり前、でもいないと困るんだわ。隣がスース―して、落ち着かない。


 ずっとこうしていたい。こんなに好意を持ってくれて、好きだと言ってくれる女の子。離れたくなんてない…ずっといっしょにいたいさ。いたいに決まってる。



幻なんかじゃない…


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