第24話 体をシェアするって難しい
海水浴場に到着した俺たちを迎えたのは、水着を買いに出かけた時と同じようにまるでこの日を祝福するかのような晴天。
まさに海日和としか言えないほどに雲ひとつない青空は、今年の初海である俺と莉緒にとっては逆に肌を痛めること必死で、事前のお買い物ではSPF50の+がいっぱいついたやつを莉緒は選んでいた。
逆に俺はこんがり焼けるタンニングオイルを選定。そんな俺を、莉緒は半目で呆れたように、
「信じらんない。将来、シミだらけになるよ?」
「若者はね、〝今〟も大事なんだよ」
「……ま、わからなくもないけどね。ってか、今、なんのために焼くの」
「色黒のほうが、莉緒が俺の男らしさに惚れるかなって」
「……別にこだわり無いけど」
「えーっと。やっぱさ、黒い男ってカッコよくない? そういうのに憧れるんだよね」
「……そっちだろ目的は最初から」
莉緒は、はぁっ、と大きなため息。まるで低級人種を見るかのような目で俺を一瞥する。
結局、黒い男になるためのオイルを選んだのは俺だけで、和也も結衣さんも限界までUV性能を求めたものを持参していた。
和也はすらっと背が高くて細身で色白。肌を焼くつもりなんて全くなさそうだ。
そのスマートな様子は風華ちゃんが惚れるのもよくわかる……って俺は絶対にこいつのことは認めないからな!
「悠人くん、そんなの使ってたら将来シミばっかできちゃうよ?」
「わかってますよ、もう莉緒から聞きましたよその話は。高校生はこういうのに憧れるんすよ」
できるだけムスッとして答えてやる。莉緒と同じことを言われると、まるで和也と莉緒の息がピッタリ合っているかのように思えてマジで気分が悪い。
そういや、この人は何歳なのだろうか。ぱっと見の感じでは大学生くらいかと思うけど、別にこれといった興味もないしあえて聞こうなんてモチベーションは起こらない。
とりあえず、この青天の中で直射日光を浴び続けるのはきついので、タープテントと椅子をレンタルし、お天道様の視線をしっかり防ぐ手立てを整えた。
そういう準備を進めつつも俺の頭を占めていたのは、莉緒の水着姿。
和也は知らないのだ、どんな水着を莉緒が着るのかを。俺だけが知っている。てか、俺が着せて視姦──もとい、
なんとなく莉緒のことを、俺が独り占めしている気分になれて、少しだけ気分がよくなった。
水着への着替えは、全員、海の家ですることにした。
俺たちは、いったん解散して更衣室に入る。
「……じゃ、着替えてくるね」
俺に小さく合図して、「莉緒」の人格のまま着替えに行く莉緒。
「莉緒」の人格に対してメインでリアクションをするのは俺の役目である。和也も結衣さんもがそのあたりは心得ているようで、莉緒のこの合図には二人ともノーリアクション。
当然だ。ここに割り込んでくるようなら「ルール違反だ」って叫んでやるぞ俺は。
俺と和也は、莉緒と結衣さんよりも先に着替え終わって、外に出たところで鉢合わせた。
俺は気まずくてあまりそっちを向かないようにしていたが、イケメン和也は何も遠慮することなく俺にこう言った。
「風華の水着、悠人くんが選んだんだって?」
「……ええ、そうですけど。もちろん風華ちゃんじゃなくて莉緒と買いに行って、ですよ」
こう言うことによって、「莉緒には絶対に近づくな」と暗にアピールしたつもりだった。
なにせ、
別に莉緒を信じていない訳じゃないが、風華ちゃんとこいつならやりかねない。俺を傷つけまいとして莉緒が嘘をつくこともあり得るのだ!
そんなこんなで、目線すら合わさずに「話しかけんな」って心情がまともに出てしまう俺。
そう簡単に打ち解けるなんてできそうにない。
「だとしても風華もずっと見ていた訳だから、選んだのは絶対にビキニだろうね」
「……ご名答です。よくわかりますね」
「はは。楽しみだよ。君のセンスが」
ニコニコと癇に障る笑顔を向けてくる和也にイライラしながら、「なんでお前に試されなきゃならんのだ」と心の中で毒づいた。
全然意識していなかったが、女性は莉緒と結衣さん、男性は俺と和也なのだ。着替えのシーンでは常にこの状況が作り出されてしまう。
そう考えると、俺は「うわっ」ってなった。
和也と二人、微妙に喋りにくい雰囲気のまま海の家の前で待っていると──
「……お待たせ」
「……おおっ!!」
莉緒の姿を見た俺は、思わず感嘆の吐息が漏れる。
やはりこの水着は
キワど過ぎず、しかし胸の谷間のボリューム具合は手加減なしに強調させる絶妙な形状。
毛が見えそうなほどではないが、思わずジッと見てしまう程度には肌がよく見えるローライズ設定されたパンツ。
うむ。これ以上のセレクトは困難だったであろう。てか、莉緒はお尻と太ももがしっかり肉付きの良いタイプだから、正直、何を履いてもエロい。その上、おっぱいがデッカいからどんなブラでもエロい。
そう、結局はいかなる水着でもエロ水着に変身させてしまうのだ。だから、あくまで俺はそれを最大限に活かせるモノを選んだだけだ。
この水着によって莉緒の魅力はMAX中のMAX……!
どうだ和也、俺のセンスは──!
と、俺はふと和也の様子をうかがったのだが、
「すっごい可愛いよ、莉緒ちゃん! もう完全にビーチの天使だね」
本当なら、莉緒を褒めた和也の言葉は、水着選びにおける俺の勝利を意味していたはず。
そして、俺の彼女を褒める喜ばしい言葉だったはず。
だけど、和也が「風華ちゃん」ではなく「莉緒」を褒めたことで、俺の感情は不意にコントロールを失って別の方向へ勢いよく振られた。
その反動で、敵意丸出しの言葉を和也へぶつけることになる。
「……和也さん。莉緒は俺の彼女なんで、あんまそういうこと言わないでもらえますか」
「ん? ああ、ごめんね。ほんとに可愛いから、つい」
「……だからそれをやめろって言ってんだこのスケコマシが」
「悠人! やめて」
俺は、瞬間的に溢れた感情が止められなくなっていた。
余裕がなくなってる。それは俺もわかってる。
こいつの存在を知ってから、何もかもがモヤモヤしてるんだ。
和也は無言で俺を見つめる。
敵意ある視線ではないし、もちろん臆しているわけじゃないだろう。
しかし、そのどれより俺をイラつかせる感情が秘められているかのように思った。
哀れんでんのかよ?
感情的になって、余裕がなくなって、莉緒のことで必死の俺のことをよ。
先に莉緒の体をモノにして、莉緒のことをこうやってシェアする悩みなんかも既に知っているから、先輩面して余裕ぶっこいてんのかよ?
「悠人……」
和也を睨みつける俺の手を、莉緒はぎゅっと握る。
ダメだダメだ。落ち着け。これじゃせっかくの海なのに空気が悪くなってしまう。
莉緒を不安にさせるな。
俺は気を取り直し、莉緒の手を強く握り返したが……。
突然に莉緒の顔が仁王のような覇気を宿した。
「……オラァ! てめぇ、いい加減にしやがれコラっ」
「ひっ」
いきなり真近くで怒鳴られて俺は飛び上がる。
莉緒の顔をした雷人くんは、俺の股間を下から片手でぎゅっ! と握って、
「莉緒を泣かせたらぶっ殺すって言ったろうがテメェ。莉緒が悲しんでんだろうが、こんなの泣かせてんのと変わんねえんだボケ! これ以上莉緒を悲しませやがったら握り潰すぞコラ」
「ごっ、ごめんなさいっ」
やっぱこの人、苦手だ。
俺の股間を乱暴に弄る
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