第13話 ただのエロ猿・悠人(莉緒視点)
「パス1」を宣告する雷人の声が、死に一歩近づいたことを意識させる。
このエロデスゲーム、やはり恋愛初心者には刺激が強すぎるのでは?
やばい。やばいよ。このままじゃ──……。
悠人がどんな水着を選んでいるのか気になりすぎて、またもやカーテンから顔だけ出して私は売り場を覗いた。
どこかな……と視線を這わせる私の視界に、悠人を確認。すぐさまあいつの手にある水着に意識を向けた。
悠人は、ハンガーにかかったままの水着を手に持っていたのだが。
その水着を一目見た私は、一瞬、今が現実なのかどうかを疑うほどのショックを受けた。
悠人が持っているのは紛うことなきビキニだ。だが、その布面積ははっきり言ってただの紐だった。
胸を覆う部分など、ここからでは紐部分との違いが全くわからないほどに少ないマイクロビキニ。いや、パンツにしたって、あれじゃ────!
私はカーテンを閉め込んで、口を手で押さえて堪らず試着室の床にしゃがみ込んだ。マジで体がガタガタ震える。
あいつ、こんな場所でいったい私のことどうするつもりなの!?
『ありゃあ、きっとこのチャンスを一切無駄にせず莉緒のカラダを最大限に堪能するつもりだね……』
【さすがの俺たちも奴の胆力には心底感服した。自分の欲望のためには一切の妥協をするつもりがないらしい】
「なに呑気なこと言ってんの! ここままじゃ、今から私あいつにガッツリ視姦されちゃうよぅ……ってか、なんであんな水着が置いてあんの!? あんなの通販でしか売ってないんじゃっ」
【なかなかの品揃えには恐れ入る。まあ現実としてそれを試着しようとする輩もいるわけだから──】
「あんたらのせいだよ今から私が着させられんのはっ」
【まあ待て。あいつがあれをそのまま持ってくるとは限らんだろうが。手にとってみたはいいものの、さすがに莉緒を辱める罪の意識に耐えられず、別のやつに変更するやもしれぬ】
「辱められてんのわかってたんだ。へぇー、そうなんだ。お前も風華と一緒で私のこといじめ抜くつもりなんだ」
『莉緒。違うよ、誤解だよ、落ち着いて。風華たちはあなたのためを思ってるの。莉緒が悠人と幸せになってほしくて、だからつい必死になっちゃって……。ね、莉緒は悠人と幸せになりたいでしょ?』
「……それはそうなんだけど。でも、いくらなんでも過激すぎない?」
【前にも言ったが、ライバルが現れた時には俺たちに感謝することになる。あの時に頑張っておいてよかった……とな】
「その真面目な空気感、もうあんまり信用してないんすけど……」
外から声が聞こえた。
「莉緒? 持ってきたよ」
鼓動が飛び跳ねる。
運命の一瞬だった。今、私にできることは悠人を信じることだけだ。
それか、神に祈ることくらいしかできることはない。人は、自分自身の力ではどうしようもない事態へ追い詰められた時、神に祈るのだと私は実感した。
私はおずおずとカーテンを開ける。
悠人が手に持っていたのは、紛れもなくさっき手に持っていたビキニだった。
「…………」
「あっ……いやね、誤解しないで。莉緒の魅力を最大限に引き出せる水着ってどれだろう、って、俺、ずっと悩んでたんだ。そしたら、なんか気がついたらこれを持っててさ……」
バカ言ってんじゃないよ……いや完全にバカだこいつは。まだ出会ったばっかの女の子によくこんな水着を着させようと思えんな。確かに胆力は半端ない。胆力ってか、ただの発情猿だ。「こんなの持って行ったら嫌われちゃうかも」って発想が欠落している。ハダカを見ること以外何も考えてねーなこりゃ。
私はこれでもかと言うほどに悠人のことを睨みつけ、またもや水着を悠人の手からひったくるとカーテンをシャアアッと勢いよく閉める。
ハンガーに掛かったままの水着を、試着室の中にあるフックに掛けて眺めた。
見れば見るほどヤバい。完全にただの紐だ。
よく見ればこれTバックじゃないか!
試着室の壁に手を突き、うつむきながら呼吸を整える。
そんな私に、無責任な神様二人が声をかけてきた。
【さあ。次の世界への扉を開けるんだ、莉緒】
『悠人が欲望に忠実なお陰で、きっとこれでトドメになるよ。これでもう、あいつは莉緒のことしか頭になくなる。こんなことやってくれる女の子、他にそうそういないからね』
なんか上手く乗せられてる気がするが……。
確かに、それはそうだろう。私だって、こいつらがいなかったら絶対にこんな水着を着たりしなかった。
覚悟を決め、服を脱ぐ。
心が震えるほどに体を隠す布が少ない。ほとんどハダカだ。
自分で言うのもなんだが、おっきい胸はプルンプルンと柔らかい。そもそも出しちゃダメな部分がギリギリ隠れるかどうかのキワドイところなのに、ちょっとでも体を動かせば変幻自在に動き回るおっぱいが位置ズレしてピンク色のやつが見えてしまう。
毛は、かろうじて隠れてくれた。こちらも動き方次第で簡単に飛び出してしまいそう。それに、お尻に食い込む水着が気持ち悪いし。
よくこんなの着れるな……というかこれ、絶対に海で遊ぶ人が着るタイプのやつではない。ただのエロ水着だ。このお店のラインナップのコンセプトを私は疑った。
静かに、目立たないようにカーテンを開ける。
勢いよく開けて通りすがりの人に注目されたりしたら死ねるからだ。絶対に二度見されること請け合いだ。
カーテンを開けた直後、私の姿を見た悠人は、中ば呆然としていた。
何度飲み込むんだと突っ込んでやりたくなるくらいに生唾を飲み込みまくり、ほとんど露わになった胸と、あと少しでモザイクを入れないといけないくらいの下腹部と、鏡に映った私のお尻をひたすら無限ループで眺め続ける。
「……もうっ。そろそろ──」
たまらず私が地獄のショータイムを終わらせようとすると、すぐ近くで男性の声が聞こえた。
悠人はハッとしたようになり、急いで試着室の中へ入るとカーテンを閉める。
が、フロアと土禁エリアの境目にある段差でつまづき、彼は私のほうへと寄りかかった。
悠人は、尻餅をつく私に覆い被さるようになる。
転んだ時に手を突いた私は、胸を手で覆うこともできずに……
「ごっ、ごめっ………………あ」
「…………っっ!!」
悠人の妙な声で我に帰った私。
彼の視線の先にある自分の胸が視界に入った瞬間、背筋にビリッと電気が走る。
ちょっ……、
「早く出てって!!」
「あわわわっ……」
見た!? 見えた!?
「あ」って言ってたもんね!? 絶対見たよね!?
悠人のほうを向いても、背を向けても、鏡があるから何かしら見れてしまうのだ。
私は急いで悠人を試着室から追い出し、胸を両腕で隠したまま座り込んでしまった。
パニックのまま、無心で服に着替える。
この水着をまた悠人に手渡すのは気が引けるが、もう今さらどうにもならない。
私は、カーテンを少しだけ開けた。
彼は、どうしていいかわからない、って顔をしている。
いや自分で持ってきといて何そんな顔してんの?
とんでもないデートだ。なんだこれ。みんな、絶対こんなことやってないよね?
なんだか恥ずかしさで目に涙が溜まっちゃう。
水着を悠人に手渡しながら、なんとかして声を絞り出した。
「……次のやつ、持ってきて」
「……うん」
目をウルウルさせながら睨む私の視線に反省したのか、悠人はバツが悪そうに後ろ頭を掻いて、また売り場に戻っていく。
放心状態の私の頭の中に、風神様の声が響いた。
『パス2、だね』
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