ダウナー系三重人格エスパー美少女がツンツンしながらデレデレしてくる。
翔龍LOVER
第1話 電気を操る少女
弱そうに見えるのか、それともただ運が悪いだけなのか、理由はわからないが俺はよく不良に絡まれる。
この前も絡まれたばかりだ。
通学途上にある道路上に止められていたガラの悪い車。怪しいとは思ったが、そこから出てきたのは金髪でジャラジャラとアクセをつけた男。助手席にはケバい女が座っているのが見えた。
「おい。財布出せ」
男は面倒臭かったのか、タバコを吸いながら端的に用件だけを告げてきた。
俺もまた、カツアゲに遭った場合の段取りを早々に理解し慣れた手つきで財布を渡す。
喧嘩で勝てるわけもないし、喧嘩などしようとも思わない。怪我をするだけ損だ。
それに、どうせ財布には三千円しか入っていない。
高校一年生の俺にとっては虎の子の三千円だったが、歯が折れたり失明したり、場合によっては死亡する危険性を鑑みれば安いものだと言えるだろう。
……と、こんな目によく遭う俺は、登校時に通る路地で、今日もまたろくでもない不良に絡まれていた。
かなりガタイが良くて到底敵いそうにないこの男子はおそらく高校三年生くらいの印象。
例の如く速攻で財布を献上して無傷で脱出しようと思っていたのだが──
「うぐぁ……っ」
今日の不良は一味違う。無言でぶちのめしてから戦利品を奪うタイプの奴だったらしい。
強烈なボディブローをかまされた俺は地面に倒れ、体を丸めながら痛みに耐える羽目になった。
「金出せや」
ここでようやく要件を言い渡される。
殴られたくないから、初めから財布を出すつもりだったのに。
なんで先に殴るんだよ、このバカ……。
「……やめなさい」
幻聴だろうか……? こんなことを言う女の子の声が聞こえるんだけど。
正義感あふれる強そうな男子なら、こんな登場の仕方も理解できるんだけどなぁ。
とりあえず、顔を上げて声のするほうを見る。
そこには、紛れもなく同じクラスの女子、
……なんで、天堂さんが?
地面目線で天堂さんを見上げながら、俺の頭には疑問符しか思い浮かばなかった。
彼女と俺にはほとんど接点というものがないのだ。
確かに同じクラスだし、何だったら隣の席なのだが、話したことすらない。
警察を呼ぶならまだしも、こんなふうにリスクを冒して俺を助けに入る理由が思い浮かばなかった。
天堂さんと話したことがないのはきっと俺だけではないと思う。
彼女はクラスの中でも浮いていて、性別を問わず友達というものがいない印象だった。
引っ込み思案で、自ら誰かに話をしにいくという場面を見たことはない。
元来の性格なのか、はたまた過去によほど辛い思いでもしたのか、彼女は徹底して人と話すのを避け、決して自分を出すことはない。
人生に見切りをつけたような顔をして、お昼のお弁当もずっと一人で食べている。
ただ、皮肉なことに天堂さんは自然と目立ってしまう。それはひとえに彼女のルックスに原因があるだろう。
セミロングの黒髪からのぞく途轍もなく可愛い顔は、男子たちが勝手に作った校内特選推しの美少女ランキングによると上位四人に入っているらしい。
加えて、高校一年生としては平均をはるかに超える胸のデカさ。思春期の、性に目覚め始めた男子諸君からすれば、すくすくと成長した彼女の体は凶器の塊と言って差し支えない。
誰とも接点を持とうとしない天堂さん。
俺もまたその他大勢の連中と同じく、彼女が放つ強烈な拒絶のオーラに阻まれて話しかけたことすらなかったのだが。
仮に俺と接点があるとすれば、一ヶ月くらい前のことだろうか。
遅めの春に行われるうちの学校の文化祭。
俺のクラスの出し物は「子猫カフェ」で、その実行委員に選ばれていたのはクラスの中心人物の一人である神田という女子だった。
既に女の子のキャストは神田を含めたクラスの中心人物から強引に何人か選ばれていたが、そいつらより明らかに顔の良い天堂さんに、クラスの男子たちがおずおずと白羽の矢を立てた。
誰とも馴染まない天堂さんはそれを辞退したのだが、男子の人気で負けたのが気に入らなさそうだった神田は、協調性を理由にして天堂さんに絡んだのだ。
「文化祭なんだから、みんな適材適所で仕事を分担してやろうって言ってるだけじゃない。別にあたしはどうでもいいけど、うちのクラスの男子たちが、天堂さんが衣装着たほうが客が増えるって言うからさぁ、それに協力してって言ってんの」
「……やりたい人でやったらいい。あなたたちで十分お客は来るよ」
「へぇぇ……自分は出るまでもないって? あのね、この際だから言っておくけど、あなたいい加減、協調性ってものを身につけようとか思わないわけ? いっつも一人でいるし、そんなことじゃ社会に出たら仕事なんてできないよ?」
「そうだぜー? 神田の言う通りだよ、それぞれやれることをやって良いものを作ろうって言ってるだけじゃん。なのに〝勝手にやって〟みたいなこと言ってさ、自分一人で生きてると思ってるんかって話。積極性も協調性もない奴とかマジでこっちもやる気無くすしウザいわー」
自分だって社会人のことなどろくに知らないだろうに社会人としての素養を偉そうに説教する神田と、神田への恋心を原動力として同調圧力を掛けてくる陽キャ男子の上田。
このクラスのリーダーシップをとる二人の言いように、他の奴らは口をつぐんで「反論しないモード」に入ってしまった。
いつもなら敢えて目立つような行動はしない普通オブ普通の俺。
だけど、俺はこいつらに、いつの間にかイライラしていた。
俺の弟は天堂さんと同じように自分を出さないタイプで、学校で過ごすことに苦しんで不登校になっている。
そんなところを、無意識のうち天堂さんと重ねてしまったのだろうか。俺は考える前に口が先に出た。
「ねえ、そういうのやめない? 性格なんて人それぞれだからさ。むしろ余計に空気悪くする案件だよ」
「青島くん? 今、あたしは天堂さんと話してるの。それにね、あたし何か間違ったこと言ってる?」
「別に間違いだなんて言ってないけど、本人の意思は大事でしょ?」
「でも……みんながそんなこと言い出したら、文化祭なんてできないし」
「おい青島、お前なんで天堂の肩持つんだよ? ああ、わかった! 天堂のこと好きなんだろ? だから正義の味方みたいなカッコつけしてんだ。うわー、うっざ」
「神田のことが好きだからって平気で他人を攻撃する奴もいるけどね」
「あっ……ああっっ!? なっ、なっ、何言って……話をすり替えんじゃねえよ! 客観的に見てどう考えても神田の言う通りだろ。協調性のねー奴放っておいたら秩序もクソもねえだろうが。なぁみんな!」
「自分の意見を押し付けるのが秩序だとは知らなかったよ」
「……んだてめぇ、ちょっと調子に乗ってねえか?」
「待って! 喧嘩しないで!!」
最初に火種を起こした神田は、自分のために上田の立場が悪くなるのを憂慮したのか、言い争いを止める側に回る。
ついついヒートアップしてしまった俺も、自分で自分を諌めるタイミングだった。
全くもって俺らしくない。どうしてこんなこと言っちゃったんだろう?
俺はもちろん神田と上田から恨みがましい目つきで睨まれたが、どうしてか、かばったはずの天堂さんからも奴らを超えるイカつい目つきで睨み倒された。
黒髪の隙間から見える鋭い目でガッツリ刺されて、あれ、余計なことだったのかな、と俺は助けに入ったことを少しだけ後悔したのだが。
それと、今、助けに入ってくれたこと、関係あるのかな…………
「んだぁ? こいつの彼女か?」
不良は、手を伸ばせば届く距離まで天堂さんへと近づいた。
きっと物凄い圧迫感だろう。男の俺がそう思ったのだから。
なのに、背の低い天堂さんは、背が高くてゴツい体格のこの不良を、たじろぐこともなく冷静極まりない無表情で見上げていた。
怖くないのだろうか?
あんなに強そうな不良相手に──……。
助けてあげたいが、さっきのボディブローがガッツリ効いている。
体が動かない。仮に動いたとして、俺にどうこうできる相手でもないのだけど……。
地面に這いつくばりながら状況を見守ることしかできずにいると、天堂さんは、スッと不良へ突き出した手で、人差し指をピンと立てた。
瞬間、バリバリっ、と電気が飛び散ったようになって、不良が喚き散らす。
「グアアああああっっっ」
痙攣した不良は、全身カチコチに力が入った様子でその場に倒れ、陸に揚がった魚のように地面の上でピクピクしていた。
何が起こったのかわからず唖然とする俺に、天堂さんは悠々と近づいてくる。
彼女は、倒れている不良よりもヤンキーらしくナチュラルに表情を歪めて、呆れたようにこう言った。
「おい。お前、男のくせにだらしねえな。ちゃんと
声は可愛いのに野郎の気配がプンプン漂うセリフを吐いて、天堂さんは俺を見下すような表情をした。
あまりにも男らしすぎる。教室ではいつも無口で影があるような表情ばかりしているから、どう考えてもその印象と一致しない。
俺は上半身を起こしてなんとか地面に座り込んだ。
「……すご、今のどうやったの? なんかバリバリって」
「ああ。俺はいつもスタンガンを持ち歩いていてな」
「ス、スタンガン……それは……また」
そんなものを常時持ち歩いてんの、この人。
あれ? でも、そんなのさっき持ってたっけ?
ってか、天堂さんって、一人称「俺」なんだ。
あまりにも状況がわからなさすぎて正直パニックだった。
が、とりあえず助けてもらったお礼はしっかり言っておくべきだろう。俺は震える足に力を込めて立ち上がる。
「……ごめん。本当にありがとう。でも、どうして? こんな危険な不良に立ち向かうなんて。俺、君と話したこともないのに……」
「気にするな。莉緒はお前と交尾したいと思ってるみたいだからな。ああそうだ、ゴムだけはつけてやれよ」
…………は?
「……待て。わかったわかった、そんなに怒るなって。妊娠の可能性もあるし、一応言っといてやった方がいいかと思って俺は──」
訳のわからん独り言を喋ったかと思うと、天堂さんは唐突に無表情になる。
かと思うと、直後に彼女は顔を真っ赤にして、歯まで剥き出して、まるで親の仇でも見るかのような顔をして俺を睨んだ。
ツカツカと、俺に近寄り胸ぐらを掴む。
「さっき言ったのは全部嘘だから! 〝
えーと…………
どういうこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます