第4話 生きてた
「……んん」
あれ? ベッド? いつの間に部屋に帰ってきたんだ?
なんか大事なこと……!?
「ああっ! ダークベアッ!!」
いろいろ思い出し、慌ててベッドから起き上がると。
「ゼロ! 良かったぁ」
瞳に涙をいっぱいにためたププが俺に抱きついてきた。
ププの元気な姿を見てホッと安堵するも。
いてて……身体中のあちこちが痛い。
小さな子供に抱きつかれているだけなのに、泣きそうになるほど痛い。
ゴブリンが死ぬ間際に叫ぶ、断末魔のような声が出そうになるのを必死に我慢する。
「ゼロがこのまま目を覚まさないんじゃないかと思って、ずっと心配してたんだよ!うわああああん」
なぜ部屋にいるのか、今の状況が全く理解できないのだが、ププの様子を見て、自分が助かったのだけは理解した。
ププは俺に抱きつき、ずっと泣きじゃくっている。
そんなププの頭をそっと撫でる。
正直なところ、手を動かすだけでも身体中が痛いが、心配してくれるププの気持ちが嬉しいのと、安心させたくて自然と体が動く。
頭を撫でる内、自分も少し落ち着くと、ポム爺さんやネイ婆ちゃんも近くにいて、俺を心配そうに見ていた事に気付く。
「ゼロ、ププを助けてくれて……本当に、本当にありがとうな」
ポム爺さんが俺の両手を握りしめ何度も頭を下げる。瞳からは大粒の涙が流れ落ちている。
「ゼロ……生きていてくれて良かった……」
ポム爺さんの後はネイ婆ちゃんが俺のことを抱きしめながら「私はあなたの事を本当の孫のように思っているんだよ。だから気が気じゃなかった」と言って涙を流してくれた。
「あ、ありがとう……っ」
皆の姿を見て、俺まで泣いてしまった。
なんだか恥ずかしくて、みんなには分からないように手で隠したけど。
だって……よそ者の俺のことを、本気で心配してくれた事が嬉しかったんだ。
★★★
いろいろ落ち着くと、俺が気を失っていた間なにがあったのか教えてくれた。
「え? ダークベアが真っ二つに!?」
「そうだよ! びっくりしたんだからね」
そう言ってププが目を爛々とさせる。
「……Bランク魔獣を討伐できる者はこの村にいない。じゃから、たまたま村に宿泊していた冒険者二人に依頼して、さらに村の自警団五人を入れた七人でゼロのいる場所に向かったんじゃ」
「そうそう、この人数でもダークベアは討伐できないかもしれない。みんなは万が一のことも考えてププの案内の元、緊張しながらゼロがいる所に向かったの」
だが到着したメンバーが見た景色は、気絶した俺の横で絶命しているダークベアの姿だったらしい。
じゃあ俺が……体から出てきた剣でダークベアを一刀両断したのは……現実?
いやいやいや、そんなことあるか? 体から剣て、どう考えてもあり得ない。
あれは殴られすぎて頭がおかしくなって見た幻覚か夢だ。
気絶していたから分からないけど、多分……誰かが助けてくれたんだろう。
「ゼロはね? ダークベアがどうしてあんな姿になっていたのかは分かる?」
「……え?」
ネイ婆ちゃんの質問にどう答える?
正直俺だってまだよく分かってない。殴られすぎて死にかけてた訳だし。
「その、それが……よく分からないんだ。ダークベアに殴られすぎて意識が朦朧としてたし……」
「そうよね。あなた達、ダークベアと遭遇して生きているなんて奇跡よ」
「うん! ププはゼロにいちゃんが助けてくれたもん」
ププが満面の笑顔で「にししっ」と笑いながら再び俺に抱きついてきた。嬉しいんだが、身体中に痛みが走る。
「うむうむ。ププが助かって本当に良かった。ゼロは大切な孫の命の恩人じゃ、一体どうやってこの礼を返せばいいのやら……」
ポム爺さんが俺の両手を握りしめ、再び礼を言ってきたが、俺はププが無事だった。
それだけでいい。本当に。
「礼なんていらないよ。俺だってププが生きてくれた事が嬉しいんだから」
「ゼロ……よし! 次の卵集めの代金は倍額だ」
「そんな事いらないって。いつも通りでいいって」
「じゃって何かお礼がしたい……」
ポム爺さんが眉尻を下げ、上目遣いで必死に俺を見る。
爺さんが可愛いポーズをとってアピールしても、可愛くないぞ?
うーん。だ、け、ど。
これは何かお礼をしてもらわないと終わらないな。
「分かった! じゃあ美味い飯をご馳走してくれ」
「おおっ! そんなのでよいのじゃったら任せてくれ!」
「あら? それじゃあ私のとっておきの料理を作りましょうかね」
この後、俺の家で食卓を囲む。
ポム爺さんやネイ婆ちゃんが用意してくれた飯も美味かったんだが、何より皆でワイワイと飯を食べるのが久しぶりで、それが何より嬉しかった。
「これもオススメなのよ! さぁ食べて」
「いやいや、ワシの魚料理も絶品じゃぞ」
「この野菜の煮込み料理はね? ププが野菜をむいてお手伝いしたんだよ」
皆が自慢の料理を俺にすすめてくる。
「ありがとう。どれも美味しいよ、だけどそんなにいっぱい食えねーって」
体は痛いが、俺はずっと笑っていた。
笑う度に体に鈍い痛みが走るが、妙に嬉しいような懐かしいような気持ちになる。
こんなに楽しい飯の時間は、ロク爺さんが生きていた時以来だな。
俺はロク爺さんの大切にしていた木彫りの像にそっと視線を向け微笑んだ。
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