0004・盗賊終了と森を脱出
死体を全て喰らったミクは血の一滴までも全て吸収し、この場を完全に綺麗にしてしまう。
今までの小部屋も同じ様に、死体があったと分かるような証拠は残していない。彼女にとっては食料なのだから、あまさず食すのがミクの礼儀である。
ちなみにボスが着けていた革鎧や斧などは既に回収し、娼婦が使っていた服も回収した。ワンピースみたいな服だったが、すぐに脱ぎ着が出来る為だろうか? その一枚しかなかった。もしかしたら娼婦の正装なのかもしれない。
ミクは気にせず本体の空間に送り、持ち物として溜め込む事にした。何処で何が役に立つか分からないのと、要らないなら売って金銭を稼ぐ為だ。この星に関する常識は多少教えられている為、言葉は分かるし文字も書ける。
この星では識字率が低いらしく、文字を書いたり読んだり出来る者は多くないらしい。他にも銅貨や銀貨に金貨など、色々学んだので特に問題無く生きられるだろう。その中でも必要なのが貨幣だというのは、ミクもよく理解している。
誰も彼もを喰らうと神の連中に消されると分かっているミクは、少なくとも神々に目を付けられる行動をする訳にはいかない。そうなると普通の人間種のように生きるしかなく、それには金が必要であるという、分かりやすい答えが出る。
盗賊のアジトを物色し、銅貨を38枚、銀貨を26枚、金貨を7枚見つけたミクは、それらを全てリュックに詰めて洞窟を出た。多少は肉を食べる事は出来たが、所詮は11人分である。本体からすれば大した量ではない。というより、少なすぎた。
「次は村か町に行こう。ゴミが居れば夜に忍び込んで食べればいい。ゴミを間引きする事に関しては、アイツらも文句は言ってこない筈。まずは洞窟を出て人の多い所へ行こう」
洞窟から出たミクは【気配察知】を使い、周囲約3キロを調べる。その結果分かったのは、周囲3キロには人の住む村や町は存在しないという事だった。困ったミクは洞窟を離れ、元々行こうとしていた方角に向けて歩いて行く。
ミクは人間種ではない為、幾らでも歩けるし走れる。そもそも彼女に疲労というものは存在していない。そのうえ眠る必要も無ければ、食事をする必要も無いのだ。これこそが星を滅ぼす怪物であるという理由であり、答えでもある。
そんなミクは軽快な足取りで進むと、襲ってくる狼の魔物や、緑色の人型の魔物を殺して喰らっていく。大した強さも無く喰われに来てくれるのだから、ミクにとってはありがたい限りである。しかし、そんな状況も長続きはしない。
森の魔物も愚かではない為、ある程度の者が殺されれば、手を出してはいけない相手だという事が分かる。それが理解されると、進路上に居る魔物は
ある程度の場所まで進むと、何やら急に雰囲気が変わる。何か周りの生物が怯えている様な印象を受けたミクは、しかしそれを無視して真っ直ぐ歩く。すると、突然前方から咆哮が浴びせかけられる。
「グルルルルァァーーーッ!!!!」
ソレは大きな熊型の魔物であった。二本の足で立つその姿は目算で4メートルを超えている。非常に大きな熊がミクを威嚇しているのだ。
ミクが立ち止まり何もしない事に気を良くしたのか、ニヤリとした顔を見せながら、四つ足状態に移行する為に前足を地面に下ろす。その瞬間ミクの首から白い物が射出され、頭を貫き脳をかき回した。
あっさりと絶命した熊に近付いたミクは、右腕を狼形態に変え、熊の魔物を貪っていく。なかなか喰い応えがあるのかミクは上機嫌であり、鼻歌が聞こえる程だ。ちなみにだが、ミクの声もまた、魅了される者が後を立たないであろう程の美声である。
「ふふふーん♪ ふーん♪ ……食べ終わると少し悲しい。とはいえ、終わるのは仕方のない事。綺麗に片付けたし、そろそろ進んで行こう」
熊を食べて気を良くしたミクは、再び同じ方角へと歩きだす。周りの生物は熊の魔物の時以上に声を殺し、じっと動かずに暴虐が去るのを待っている。本能が動くべきではないと警鐘を鳴らしているのだ。アレは怪物であり、同時に絶対者であると。
そんな事には
ミクの前には道があり、馬車が通ったであろう
誰かが移動しているのなら、そちらに進めば何処かには着くだろう。そう思い、気配の主を追いかけていく事にした。ここからは誰が見ているか分からないので、普通の人と同じぐらいの速度で移動する事に決めたようだ。
「私が肉塊だと知られたら面倒。特にアイツらが何をしてくるか分からないのが面倒くさい。いちいち神の相手なんてしたくないしね」
そう呟きながら歩く事1時間ほど、ミクの前には石壁で守られた町が見えてきた。そこへと歩いて行き、中に入ろうとすると門番に話しかけられる。
「おいおい、美人さん。サラっと金も払わず入ろうとしないでくれ。俺達が怒られっちまう。冒険者証があるなら提示してくれ、もしくは大銅貨1枚だ」
「冒険者じゃない。だからお金払う。……これで銅貨5枚。通っていい?」
「………あ、ああ。ようこそ、バルクスの町へ」
鈴を転がした様な、それでいて相手を甘く痺れさせるような声で話し掛けられた門番は、一瞬で思考停止した。しかしそこは長く門番をしてきた者だ、すぐに復活し、受け取った銅貨を確認して挨拶をする。
それでも後姿を目線で追いかけてしまう辺り、見た目と声でやられてしまったのだろう。美の女神は流石である。
ミクはその辺りに居た老人に話しかけ、お薦めの宿や食堂、それと冒険者ギルドの場所を聞く。老人は流石に動揺もしていないと思いきや、単に鼻の下を伸ばしているだけであった。美の女神は流石である。
お薦めの宿に行き、入り口の扉を開けると、それなりに清潔感のある内装が見てとれた。そんな中をカウンターまで歩き、店主であろうスキンヘッドの男に話しかける。
「ここに泊まりたい。一泊幾ら?」
「美人さんは一人か? それにしても俺と同じ身長とは驚いたな。……おっと、ウチは一人部屋なら大銅貨3枚。つまり銅貨15枚だ。メシは一律大銅貨1枚だ。皆に同じ物しか出せねえんでな。色々食いたいなら酒場に行ってくれ」
「別にいい。銅貨15枚、ここに置く。それと、これから冒険者ギルドに行くから、まだ部屋には行かない」
「毎度。ウチの部屋は閂だけだから、鍵は無いんで何時でもいいぜ。美人さんの部屋は一階の奥な。ちょうど其処しか空いてないのと、美人さんは危ないからな。奥の方が良いだろう。冒険者には余計な世話かもしれんが、気をつけてな」
「ありがとう」
そう言ってミクは宿の外に出た。ミクは外を歩きながら首を捻っていたが、実はミクの背は高い。身長は188センチ、体重は73キロ。そして、上から98・61・92となっている。筋肉質な見た目の為、体重は重く”設定”された。美の女神に。
それでも人外の美しさを誇るのだが、幾らでも体を変えられるミクからすれば、人間形態も一つの姿でしかない。
町の外側に位置する建物は幾つかあるが、その一つが冒険者ギルドなのは有名な事だ。これはギルドの解体所に獲物を持ち込むので血の
どの町でも変わらない事であり、冒険者からは、むしろ分かりやすいと喜ばれている始末だ。
そんなミクにとっては嗅ぎなれた、美味しい匂いのする建物へと近付き、大きな扉を開ける。
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