第21話 高高度対応の無人偵察機で男を見張る香奈葉

 京都にある名門。

 正門のプレートには、“姉小路あねやこうじ女子高等学校” とある。


 敷地内には、名前の通り、制服を着た女子ばかり。


 気品ある女子高生たちが規則正しく並ぶ、教室。

 黒板の前に立つ女教師は、カッカッという音で、数式を書いていく。


「このように――」

 ビービービー!


 聞いただけで、異常と分かる警報音。


 普通ならば、クラス中がざわめき、慌てるが――


「あの……。天賀原あまがはらさん?」


 動きを止めた女教師は、恐る恐る、話しかけた。


 けれど、自分のスマホを取り出した天賀原香奈葉かなはは、その画面を見たまま。


駿矢しゅんやの心拍数が、上がっているのでー!」


 急いで、画面に触る。


(((男のバイタル確認を始めたよ、こいつ……)))


 クラスの全員が、心の中で突っ込んだ。


 女教師はくじけずに、指摘する。


「授業中ですから――」

「早退するのでー!」


 ガタタと、椅子を後ろへずらした香奈葉。

 立ち上がれば、一瞬で地味な色をした和装へ変わる。


 西園寺さいおんじ睦実むつみと同じ、天装だ。

 左腰には、御神刀。


 どよめく、クラスの女子たち。


「おおっ!」

「私、初めて見た……」


 諦めた女教師が、叫ぶ。


「窓を開けなさい! 早く!!」


「は、はい!」


 ガララ


 窓に接している席の女子が、慌てて動いた。


 サーカスで空中の輪をくぐる動物のように、香奈葉が飛び出す。


 彼女がそのまま空中を走れば、同時にビリビリと窓ガラスが揺れ始めた。

 低空をパスする航空機による振動だ。


 飛び上がった香奈葉は、通過した航空機のフックに引っかかる。


 それは小型のジェット機といった形状で、払い下げられた高高度対応の無人偵察機をデチューンしたもの。


 ジェットエンジンの音を響かせつつ、剣術娘になった香奈葉をつままれストラップか物干し竿の洗濯物にしたまま、目的地へ飛んでいく。



 静かになった教室で、窓が閉められつつ、誰かが呟く。


「あの無人偵察機、200億円はするらしいね?」


「はい! 授業を続けますよ?」


 女教師は、何事もなかったように説明へ戻った。



 ◇



 俺は、風鳴かざなり学院の久世くぜ果歩かほを連行した警察署で粘っていた。


「そう言われてもねえ……。彼女が第一発見者で、殺されたダイバーも刀によるものだし」


 内容が内容だけに、ここは取調室だ。


「ところで、君も久世さんと同じ防人さきもりだよね? そういう意味では、君も被疑者の1人――」


 ガタガタガタ


 窓が振動する音と、警察署の全体が揺れた。


 ドラマと同じ、中央に固定された事務デスクを挟んでいた刑事は、周りを見る。


 けれど、1つある窓には鉄格子で、外は見えない。


「な、何だ?」


 シュゴオオォッ! ドオオォンッ!


 航空機が飛び去る音に、重いものが落ちた音。


 やがて、廊下が騒がしくなり――


 ガスッと金属音がして、刀の切っ先が見えた。


 ジュ―ッと、鉄板で焼肉をしているような音も。


 じきに、切っ先を中心に色が変わり、内側へ膨らんでいく。


 思わず立ち上がった、若い男の刑事。


「はぁ!?」


 すると、赤黒い切っ先が動き出す。


 熱したナイフでバターを切るように、その切っ先は取調室の扉をなぞった。


 ガンッ バターン


 外から蹴られた扉は、新たな床のオブジェクトとなり、侵入者を受け入れた。


 和装の女子高生が、右手で赤黒い刀身になっている御神刀を下げたまま、ジャリジャリと歩いてくる。


 天賀原香奈葉だ。


 御神刀の八面玲火はちめんれいかを刀剣解放したまま、笑顔で……。


 上着の裾を払った刑事が、腰のホルスターから拳銃を抜いた。

 シュホッと、こすれる音。


 両手でリボルバーを構えた刑事が、警告する。


「う、動くな! 武器を捨てろ!!」


 けれど、笑みを浮かべたままの香奈葉は、そのまま近づく。


(俺でもビビる霊圧だ……)


 警察署を襲撃された以上、そっちの権威は通じず。


 となれば――


 パンッ!


 パンパンパンパンッ!


 カチッ カチカチカチッ


 初弾をかわされ、パニックになったのか、残弾を撃ち切った。


 最小限の動きで全ての弾丸を避けた香奈葉は、俺のほうを向く。


「久しぶりなのでー!」


「ああ……。実は――」


 端的に伝えれば、頷いた彼女が、後ろで遠巻きにしている警官たちを見た。


「駿矢ともう1人の女子を解放するか、今の発砲を含めて上に告発されるか、30秒以内に選ぶのでー!」


 慌てたように、警官たちの視線が後ろへ集まる。


 ここの署長と思しき男は、息を吐いた。


「2人を解放しろ! うちを破壊した分の賠償は?」

「天賀原家に連絡してください」


 納得した署長は、周りに指示する。


「分かった……。2人を連行した記録は、全て破棄しろ!」

「は、はい!」


 頭痛に耐えるように首を振った署長を後目に、元の刀身にした御神刀を納めた香奈葉。


 彼女は、俺と一緒にドアを失った取調室を出た。


 事態を理解できないままの久世果歩と共に、警察署の正面玄関から脱出。



 香奈葉は、こちらを向いた。


「あとは?」


「防人の女子を殺しまくった野郎どもを斬り捨てる! 俺たちだけでいい」


 頷いた香奈葉は、自分の考えを述べる。


「御神刀を持っている睦実むつみがいるのなら、大丈夫でしょう! せいぜい、この国を消さないように」


「努力するよ……」


「わたくしは、授業がありますのでー!」


 スマホで無人偵察機を呼んだ香奈葉は、天装のまま、一瞬で上空へ。


 そのまま、フックに引っかかり、凄まじい速度で遠ざかった。


 やれやれ……。

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