第18話 「もう、終わりにしてくれませんかね?」(前編)
地上で待機していた男子大学生は、片手で無線のマイクを握りしめ、絶叫する。
「おい! 誰か、返答してくれ!!」
しかし、ザザザという雑音だけ……。
「
「うん、分かった!」
スマホを取り出した相良
「電波が届く場所まで、行ってくる!」
瞬間移動のように、彼女が消える。
傍にいる
(どうする? 助けようか?)
少し悩んだが、ここで手の内を明かせば、もう終わりだ。
(ダメだ! 俺たちが水中でも動けると知られれば、犯人に逃げられる!)
唇を噛んだ睦実は、無言で頷いた。
こいつも、さっきの無線が誘い、という可能性に気づいているはずだ。
しかしながら、良い気分ではない。
(銀山にいた遊女の亡霊という線もあるが……)
そう思っても、俺たちの本命は過去に
(
これまでの情報というか実行できる立場として、ロッジ
この水中洞窟で大学生を殺したのも奴とは、限らない。
ロッジには、果歩たちがいるはず。
そちらのアリバイで引っかかれば、本人に追究しようかな?
「僕が潜る!」
「ダメ! 誰かに襲われているのなら、ケン君まで危ないよ!?」
「くそっ! 何で、こんなことに……」
俺が考えている間にも、パニックになった男子たちと一時的に離れていた女子大生で大騒ぎ。
殺人でなくても、危険だ。
狭くて暗い水中洞窟に死体が沈んでいるか、まだ暴れていたら、救助に行った人間が被害に遭う。
下手すれば、中で詰まっているんじゃないかな?
観光用に整備されていない、ただの浸食。
そもそも、人が通る前提にあらず。
仕方なく、俺と睦実も止める側へ。
(先輩、早く戻ってきてくれー!)
――数時間後
サイレンを鳴らした覆面パトカーと白黒のパトカーが停車。
中の操作で、サイレンが止まった。
途方に暮れていた救急隊員と一緒に、そちらを見る。
水中洞窟に潜れないから、引継ぎのために待つしかないわけ。
そっちの水難救助隊が、ヘリか車で向かっているようだ。
ガチャッ バムッ
車のドアが開閉する音が、重なった。
いかにも刑事、という白髪の男が、指示を出す。
「どーも、どーも! お待たせしました。県警の
人の良さそうな、老齢の男は、待ちくたびれていた救急隊員へ歩み寄った。
いっぽう、救急サイドも、声をかける。
「ご苦労さまです! こちらは――」
警察と救急の責任者が、今後の対応を話し合う。
「ここは、普通のダイバーには無理です!」
「……うちの水難救助隊でも、厳しいようですね」
「事件の可能性があるから、引き取っていいですか?」
「ええ、もちろん! とりあえず、外にいた人を確認するんで」
どうやら、救急隊員は帰るようだ。
レスキューは――
「可哀想ですが、たぶん手遅れだと思います……。私、ここらへんが地元でね? お宅の救助隊が着くのは、ヘリでも1時間はかかるでしょ? 潜る準備でさらに数時間だ。おまけに、彼らが巻き上げたシルトで視界ゼロ! 落ち着くのは、数時間から翌日です。酸素がもたない! 中で殺人が行われた可能性を考慮すれば、尚更だ」
「そ、そうですか……。最終的な判断は、上がしますので」
困惑した救急隊員は、無線で報告するのみ。
話がついたようで、救急車は引き上げていく。
残った三船が、やっぱり陽気な声を上げる。
「さて、皆さん! お疲れのところ悪いですが、車の中での事情聴取にお付き合いください」
1人ずつ呼ばれて、車内で話し合う。
俺は、一番最後に呼ばれた。
覆面パトカーの後部座席に座り、ドアを閉める。
運転席にいる三船が、振り向く。
「お待たせしました……。じゃ、身分証明書からお願いします」
東京
三船は、顔写真があるページを開き、こちらと見比べる。
本人だけが知っている情報をいくつか聞いた後で、事情聴取へ。
現場へ来た時間や状況、その他に気づいたことを聞かれる。
開いたメモ帳に書き込む音が、続く。
パタンと閉じた後で、三船が顔を上げた。
「ま、こんなところでしょう! ご協力、ありがとうございました」
俺に隠すことはなく、そのまま答えた。
笑みを浮かべたまま、生徒手帳を返却される。
それを受け取るも――
「
「分かりました」
助手席にいた刑事が、外へ出ていく。
それを見届けた三船は、おもむろに内ポケットから黒い手帳を取り出した。
上下に開き、中を見せる。
“警部補 三船
「さっきも言いましたけど、私はここが地元です。
パタンと警察手帳を閉じた卓見は、内ポケットに戻しつつ、声のトーンを落とした。
「守れなかった……。ご立派な手帳を持っていて……。この村に来た風鳴の女子は、もう3人も行方不明になっているんだ! 私の半分も生きていない年で!」
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