第17話 ここを殺人事件の現場とする!

 早足で歩けば、追いついた相良さがら音々ねねが怒る。


「ねえ!? 2人だけで訳知り顔するの、本当にやめてよ!」


 仕方なく、渓谷のダイビングスポットへ向かいつつ、説明する。


「この柳ヶ淵りゅうがぶち村の天女伝説、ロッジの傍にある石碑を見ました?」


「あ、うん……。最後は人魚になったやつ?」


「ええ! あれ、昔にここを訪れた防人さきもりの女が村に捕らえられ、孕まされたあげくに殺されたって話です。死体はたぶん、ロッジにある沼の底」

「はぁあああっ!?」


 相変わらず、うるさい先輩だ。


「今、俺たちは危険なエリアにいます! いちいち騒ぐのなら、もう喋りません」

「……ご、ごめん! 続けて?」


「防人の風鳴かざなり学院を除いて……。村が全て敵! 以上」


 反射的に叫ぼうとした音々は、ハッと気づき、両手で口を押さえた。


(この任務に一番向いていない人が来たな……)


 呆れつつ、立ち止まる。


 釣られて、女子2人も。


「1つずつ、説明しますね?」


 コクコクと頷く、音々。


 それを見ながら、解説する。


「村で言っていた『御供ごくうさん』は、人身御供のことです。『昔の防人の女が湖に住み着いた水龍を倒した』というくだりは、たぶん本当」


 しかし、それだけで終わらない。


「立ち去ろうとした女は、理由は不明ですが、村に住み着いた」

「村としては、水源をどうにかするため、だろうね?」


 西園寺さいおんじ睦実むつみが突っ込んだ。


 首肯しつつ、現代の説明へ戻る。


「同じ防人なのに、俺を無視して……。というより、後回し! 対して、先輩と睦実には異常なまでの歓迎ぶりだった。その理由は、初代の天女と同じ目に遭わせるから。つまり、お供えだったわけです」


 ポカンと口を開けた、音々。


 我に返って、反論する。


「で、でも! 今は、昔と違うよ!? そんな馬鹿なこと――」

「先輩? この村を見て、どう思った?」


 睦実の指摘に、音々は黙り込む。


「昔みたいと思ったよね? そういうことだよ」


「でも! よ、呼び方だけで、大げさな……」


 睦実は、音々に向き直った。


「相良先輩……。そのセリフ、風鳴の人に言える? 地元でずっと事件解決を目指していて、女子3人が行方不明なんだよ?」


 頭を殴られたような感じの音々は、ショックを受けたまま。


 片手を頭に添えたまま、ボソリと呟く。


「じゃあ、行方が分からない水島みずしまって男子も? 警察を呼んだほうが……」


「残念ですが、この村に関わりたくない方針だそうで! 隣の佐木霜さぎしも村の駐在が言っていたよ。だから、風鳴の被害も泣き寝入りだとさ」


 小さく震え出した音々は、思わず言う。


「う、嘘でしょ!? 現代の日本で、そんなことが……」


 パニックになりかけた彼女のため、要点を言う。


「県警を動かしたければ、死体が必須」

「すぐに見つかる場所とは思えないけど! 原型を留めていないだろうし」


 睦実が、あっさりと切り捨てた。


 落ち込んだ音々に、俺たちの覚悟を告げる。


「いいですか? 俺と睦実は、必要があれば、この村を消します」


 音々は、反論せず。


 凄みのある笑顔で、睦実も念押し。


「ボクと駿矢は、いざとなれば地形ごと潰すから! 先輩は巻き込まれないよう、隣村まで逃げてください。御神刀を完全解放した後は、そちらを気にする余裕がないから」


「……分かった」


 音々は、しょんぼり。


 睦実が、指摘する。


「先輩が『説明しろ』と言ったから」


「それね? ごめん! 私、ちょっと怖い……。怖いよお……」


 耐えきれなくなったようで、目を閉じたまま、深呼吸する音々。


 やがて、パンパンと自分の頬を叩いた。


「よしっ! 君たちは犯人も目星がついていそうだけど、これ以上は教えないで! 私、ぜったいに警戒しちゃうから……。今後も、氷室ひむろくんがリーダー」


「了解……。先輩には、全てが終わり、国武こくぶへ帰ってから」


「うん! そうして」


 緊張したまま、3人で歩きだす。



 やがて、見覚えのあるワンボックス2台。


 メガネをかけた男子が、機材が置かれた場所でチェアに座っている。


「やあ! こんな場所まで、どうしたの?」


 彼と話していた睦実が、答える。


「やっほー! 暇だから、ホラースポットの見学だよ」


 首をかしげた男子は、すぐに思いつく。


「ああ、銀山で働いていた鉱夫と遊女を始末したって……。僕は、同じサークルの人がピンチになった場合の備えだよ」


「よく、こんな狭くて暗い場所に潜るね?」


「そう言われたら、終わりだけどさ……。やっぱり、ロマンがあるんだよ」


 明るい雰囲気に、音々も加わる。


「どうやって、潜るんですか?」


「普通のスキューバダイビングの装備と、ライト……。それに、入口へ戻ってこられるように水中のロープであるガイドラインを辿っていくか、繋ぐのさ!」


 俺たちが聞き入っていることで勢いがついたのか、平べったい無線機を見せる。


 さらに、小さな装置も。


「これ、何だと思う? 水中通話だ! ダイバーは頭にこの装置をつけて、骨振動による通話さ! 従来の水中ヘルメットなしで使える。僕が見せた無線機からケーブルを伸ばして、こちらとも通話可能――」

『き、聞こえるか、平沢ひらさわ!?』


 鬼気迫った声が、いきなり飛び込んできた。


『みんな、殺された……。ちくしょう! ボボボ……。俺は何とか脱出でき……ザザザ ブクブクブク』


「おい! どうした!?」


『くそっ……。離せ、この……』

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