第15話 全身黒タイツ!? こんな夜更けに、妙だな……

 風鳴かざなり学院の水島みずしま空太くうたは、掻きこむように食べ、席を立った。


 ロッジ竜宮りゅうぐうは、リビングからダイニングまで一部屋だ。

 個室を出れば、他の利用者と交流しやすいシェアハウス。

 食事をするスペースは、飲食店のように複数のテーブルがある。


 同じ高校の奴にもバカにされた形で、空太はロッジから外に出た。

 しばらく時間を潰してから、戻るつもり。


 沼の近くにあるロッジから、唯一の灯りが照らしている。


 観光客のために整備された土道を進み、ピタリと立ち止まった。


 こっそり持ってきた箱を取り出し、1本を取り出す。

 シュボッと火をつけ、煙をくゆらす。


「ったく! やってらんねえよ……」


 暗闇に目が慣れてきて、夜空からの月光を意識する。


 すると、ロッジから出てくる人影が……。


(こんな時間に?)


 気になった空太は、ちょうど終わりかけた1本を地面に落とし、靴底でジャリジャリと踏み潰した。


 怪しい人影をこっそりと尾行する。



 ◇



 女子2人と同室で、ソファーベッドに寝た。


 外は、鳥の鳴き声。

 ロッジ内は、人のざわつき。


 上体を起こして、女子2人が着替えられるよう、共用スペースで時間を潰す。


「おはようございます!」

 

 見れば、風鳴かざなり学院の久世くぜ果歩かほだ。


「おはよう……」


「あの! うちの水島を見ませんでしたか?」


「いや、見ていないけど……」


「見かけたら、うちの誰かにお願いします!」


 焦っている果歩は、歩き去った。



 ――1時間後


 緊張した空気の中で、朝食。

 焼いたトーストなど、洋風の軽いメニューだ。

 ビジネスホテルのように、セルフサービスでとっていく。


 学校ごとに集まり、誰もが不安な表情のまま。


 身繕いをした後で、水島空太を除き、全員が集まる。


 真剣な表情の久世果歩は、早口で告げる。


「昨日の夜、私たちが夕飯をいただいた後から、水島くんが行方不明です! ロッジの管理人に伝えましたが、現状で警察や学校には教えません。理由は、彼がふてくされて逃げた可能性と、事件や事故に巻き込まれた可能性が半々だから」


 呼吸を整えた果歩は、こちらを見る。


「恐縮ですが、水島くんを見つけるまで、私の指示に従ってください」


「あ、うん……。それはいいんだけど……」


 相良さがら音々ねねは、困惑している。


 その間にも、果歩が話を続ける。


「2人1組で分散するつもりでしたが、予定を変えます! ひとまず、学校別で固まりましょう! 私たちは沼から始めて、周りの聞き込みをします」


 ジッと見つめられた音々は、自分の考えを述べる。


「じゃあ、私たちは……」


 困った音々が、俺のほうを見た。


「そっちが人魚を調べるのなら、俺たちは銀山があった渓谷のほうへ行ってみる」


 頷いた音々が、答える。


「ウチは、そういう方針で!」


「分かりました。ランチタイムか、遅くとも夕飯で情報交換を」


 言うや否や、果歩は残った男女を率いて、立ち去った。


 今の風鳴学院は、女子2人、男子1人だ。

 本来なら、水島空太を含めて、男女それぞれにコンビを組むつもりだったか?


 俺は、同じ東京国武こくぶ高等学校の生徒を見る。


「相良先輩?」


 考え込んでいた音々は、俺を見つめた。


「君が指揮をして! 風鳴のリーダーと仲がいいし……」


「分かりました。先輩が、それでいいのなら」



 ロッジの正面玄関から出れば、大学生グループが出発するところ。

 細長いボンベなどを荷台に乗せて運び、ワンボックスの後部にどんどん積んでいる。


 今から工事現場へ向かうような光景。


「忘れ物をするなよ?」

「わーってる!」


 ワンダーフォーゲル部の連中だ。


 男女ともにテレビでよく見たダイバースーツで、その上からウィンドブレーカーを羽織っている。


 西園寺さいおんじ睦実むつみが、人の良さそうな、メガネをかけた男子に話しかける。


「泳ぎに行くの?」


 手を止めた男子は、笑った。


「ハハハ! 泳ぐって言えば、そうなんだけど……。酸素ボンベを背負って潜るスキューバダイビングだよ! 渓谷のほうに水中洞窟があるらしくて――」

「おい! もう行くぞ!?」


 片手を振った男子は、ワンボックスの後ろをバムッと閉じて、慌ただしく乗り込んだ。


 ブロロと、ワンボックス2台が走り出した。


 それを見送った俺たちも、住宅が集まっているほうへ歩き出す。


 睦実がスマホで検索すれば――


「廃坑や鍾乳洞が水没しての、水中洞窟……」


 気になった俺と音々が彼女のスマホを覗き込めば、水中ライトで照らされた幻想的な写真。


「狭そうだ」

「綺麗……」


 前を見て歩き出した、俺たち。


「あいつらは、そこに入る気か……」


「内部の構造とか大丈夫? 普通の洞窟みたいに整備しているとは思えないし」


 音々は、首をかしげる。


 同意した睦実も、疑問を口にする。


「風や水による浸食だよね? そもそも、人が入れる大きさ? 廃坑は補強もあるだろうけど……」


 洞窟内に灯りはないだろうし、方向すら見失う。


 水で満たされた暗闇。


「俺は、御免だね!」


 その発言に、女子2人は力強く頷いた。

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