東京ツチノコミステリー
「もにもに」
東京ツチノコミステリー
「東京を走る地下鉄のどこかにツチノコがいるんだって!」
飲み会の席で同僚のケイゴが言った。その真面目なトーンに私達は一瞬静まり返る。
数秒後「なんやねんそれは!笑」と東京生まれ東京育ちの奈緒が笑いながらツッコんだ。
「なんでやねん」と「なんやねん」くらいは、もう関西弁ではなく全国共通の標準語扱いにしてほしいものだ。
「だからさ探そうよ、ツチノコ!」
ケイゴは普段から「可愛い系男子」である。それにしても、そんなにキラキラした目で私と奈緒に「ツチノコ探し」を一緒にしてほしいと打診するのは、いささか良くないと思う。
奈「てかそれって何情報なの?」
ケ「都市伝説系ユーチューバーが言ってた」
私「思ってたよりちゃんとしたソースで草」
奈「まぁ、じゃあこの同期会の中でお遊戯程度にやってみよっか。笑」
ケ「割と真面目なんだけどなぁ」
私の名前は美鈴。東京にある銀行の社員、銀行員だ。先述のケイゴと奈緒はそこで一緒に働く同僚で、3人は職場以外では下の名前で呼び合い、毛並み(けなみ)という同期会を毎月第3金曜日に開催している。
その後のらりくらりと話は進み、最終的に私達は東京の地下鉄に潜む?というツチノコを「割と真面目に」探すことになった。某探偵アニメの少年探◯団のようなことを26歳になった今からやり始めるなんて、大人と友人と飲み会と勢いは怖いものである。
割と深酒をして帰宅した私は、最低限の化粧を落とし、最低限の保湿をして倒れるように眠りについた。するとその晩、ものすごく変な夢を見た。
失恋などをした時にその人の夢を見たり、彼氏と喧嘩をした直後に仲直りの夢を見たり、おじいちゃんが亡くなった時には、おじいちゃんが1週間くらい夢に登場し続けるなど、私は割とリアルで起きた出来事やマインドが見る夢とリンクするタイプである。が、それにしても出来過ぎというか何というか…。私が見た夢は、それはもう「ツチノコを追いかける夢」だった。しかも不気味なことに、ツチノコの存在に近づけば近づくほど周りの人がいなくなっていく。最終的にはケイゴも奈緒も消えてしまい、一人孤独になるという「悪夢」であった。ツチノコからの警告夢とでもいうのだろうか。
翌朝、冷や汗をビッショリかいて起床した私は、不気味で怖いと思う半面、2人に話したくて仕方なかった。
「こんな夢みてさぁ」
「やばwww」
「あんなこといって美鈴も単純じゃんかー」
そんな笑い話を提供…というよりは、描写が割とリアル過ぎたので、話すことで怖い気持ちを消化したかったのだと思う。そして翌月曜日に話は進む。
私達には格好良く言うと「ルーティン」がある。出社すると毎日朝礼があり、それが終わると始業まで割と空き時間ができるのだが、その時に喫煙ルームの横にある自販機あたりで数分間「報告会」という雑談をする。これが3人のルーティンだ。この会合がないと私達は、毎日の業務において「持てる力」を存分に発揮する事ができない。だからこれはもうルーティンと言う他ないのだ。
ここで「大人になると自己弁護と正当化の術がみるみる上達するもの」という事実がある事だけはお伝えしておこうと思う。
話を戻すと、いつもケイゴがタバコを吸うので、彼が喫煙ルームから出てきたところを私と奈緒が待ち構えていて雑談スタート、という流れがある。そしてその日も「いつものシチュエーション」になってから、私は先日見た夢の話を切り出した。
一通り報告をした後「やばくない?笑」と二人に投げかけた。奈緒のいつもの「なんやねん!」が飛んでくることを期待していたが、何故か二人は神妙な面持ちになり顔を合わせている。そして奈緒は「実は私達もその夜に同じ夢を見たんだよね…」と言った。
「そ…そ、そんなことある?苦笑」
さすがに背筋が凍るような感覚をおぼえた。だが、既に「探偵団」と化していた私達にはツチノコ探索を辞めるという選択肢はない。これに関しては3人の共通認識であった。
私は3人のグループトークの名称を「毛並み」から「東京ツチノコミステリー」に変更した。そしてその週末から私達は本格的にツチノコ探しをスタートさせる。得体も知れない「ツチノコ」に翻弄され、その存在に近づけば近づくほど全てが狂っていく…などとは知りもせずに。
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