2-4.
『―――公園で客となる男達を待ち続ける未成年の彼女達。どうして彼女達はそこで待つのでしょうか?』
『居場所なんてないです。誰もわかってくれないし。そういうのとか、考えるの面倒くさいし。てきとーに集まって喋って。深いところなんて聞かない。だって意味なくないですか?』
『ここに居場所があるってわけじゃなくて。みんないるから、なんとなく居られるってだけで。入れ替わりっていうか、あの子見ないねーみたいな。でもちょっと経てば忘れるし。そういうもんですよ』
『稼ぎ方?とか、教えてもらって。だって楽しいですよ。優しくしてくれるし。本気になるかは人それぞれだけど』
「くだらん」
また朝のニュースに呟いてしまった。
変わり映えしない朝食を義務的に口に運びながら、傍らの新聞に目を走らせながら、見るともなしに見ていたテレビに向かって呟いてしまった。
今流行りの家出少女の特集だった。未成年が街にたむろして、それだけに飽き足りず売春行為などをして金を稼いでいるという。その金を何に使うのかというと、ホスト遊びに使うと言う。
「くだらん。実に、くだらん」
考えるに値しないような、若者特有の甘い考えに頭痛がしそうだ。こいつらは社会の大変さを知らなすぎる。
だいたい『帰る家がない』とは一体どういう意味なのか。未成年である以上、保護者となる親が存在するに決まっている。とすれば、借家か何か分からないが家という場所があるのは必然だ。昔は不良だって家に帰っていた。ただそこに帰ればいいだけのものを、今の時代の若者は格好つけてそのように言ってるだけに見える。いや、実際そうなんだろう。
『性被害? 親から受けてるんですよ? お客さんの方が優しいに決まってますよ。お金くれるし』
『おじさんとするのは嫌だけど、ショウマくんが癒してくれるから生きていけます』
ホストが優しい、とは。食い物にされているのが分からないのか。大人の言うことは聞けないのに、ホストの言葉には妄信的になっているこいつらの、なんと浅はかで愚かなことか。
「世も末だな」
だいたいなんだこの特集は。朝の時間帯にふさわしくない。テレビ局にクレームでも入れるべきか……。
「あなた!」
美智子がヒステリックな声で俺を呼んだ。
どうせまたくだらないことで騒いでいるのだ。放っておけばいい。
「あな、あなた! ココネがいないんです!」
「学校にでも行ったんだろう?」
「部屋に制服がかかったままなんです!」
「コンビニにでも行ったんじゃないのか?」
「そんなことないですよ。お小遣い渡してないんですよ?」
「それでも多少はあるだろう。それか部活の朝練なんかじゃないのか?」
「ココネは部活に入ってません!」
「それなら朝の散歩にでも行ったんだろう」
三歳児でもあるまいに、何をそんなに心配することがあるというんだ。
いちいち耳障りな甲高い声を上げる美智子にうんざりしていた。
「今までこんなこと、一回だってなかったんです」
「もう小さくて手のかかる子供じゃないんだ。高校生だぞ」
「それでも、心配じゃあありませんか」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ。お前も子離れしなさい。いつまでも子供の世話を焼いているんじゃない」
「あなたは心配じゃないんですか!」
ひと際大きな声で美智子が叫んだ。
「この前だって、夜中にあなたが連れて帰って来て! あんな治安の悪い街に居たって言うじゃないですか! またあそこに行ったらと思うと、私、心配で心配で」
「遊ぶ金は取り上げた。その後だってしっかり叱ったんだ。そんなこと気にすることないだろう」
あの日は帰宅してから、散々怒鳴りつけた。
あんな場所で、俺の娘が遊んでいるなんていう話が会社で回ったりしたら……。今この生活を作っているのは俺なのに、美智子も娘もそれが当たり前だと思っている節がある。俺がどれだけ身を粉にして働いていると思っているんだ。
「あなたが叱りすぎたから、ココネは飛び出して行ったんじゃないかって、私は心配なんです!」
「なんだと? お前がちゃんと育てなかったのがそもそも悪いだろう。自分に都合の悪いことは全て俺のせいだって言うのか?」
「だってあなた、あんなに怒ったじゃないですか」
「叱って躾けるのが男親の役目だろう。そもそも、家に帰って来ないのはお前の接し方が悪いんじゃないのか?」
「そんな……。私だって一生懸命なんですよ」
「お前がどれだけ一生懸命だとしても、努力の仕方が間違っていれば結果は出ないだろうよ」
「…………」
美智子は静かに涙を流していた。
女は楽でいい。都合が悪くなれば、涙を流して俯いていればいいのだから。
男はそんな訳にはいかない。考え、苦しみ、答えを出さなければならない。
「話はそれだけか?」
「…………」
「とにかく小学生でもない、高校生の、年頃の娘が、朝部屋に居なかったというだけで騒ぎ立てるお前がおかしいんだ。まったく、これから仕事だっていうのに」
俺は盛大な溜め息を吐いた。
いつまでも子離れできないとは。溺愛するのは構わないが、こう、どうでもいい話で毎回ヒステリックになられるのは本当に頭が痛い。美智子にはいい加減、現実というものが見えるようになってほしいもんだ。
「行ってくる」
もう一度溜め息を吐いて、俺は家を出た。
美智子のヒステリーと安いコーヒーの酸っぱさが、喉に張り付いて不快だった。
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