第14話 チート訓練

 ポヨーンポヨンポヨン。

 ポヨポヨポヨーン。

 大量のスライムが俺の目の前にいた。

 色は半透明の水色、モンスター扱いはされているとはいえ、魔力を含んだ粘液にすぎないから意志もなければ知能も欲求も感情もないし、感覚もないから痛みとかも感じていないはずだ。

 エリシアが召喚したそれを、俺は両手剣に見立てたぼうっきれで叩いて潰して回る。


「おら! おら! おら! おら!」


 俺が棒で叩くたびにスライムはベシャッ、ブシャァ! と音をたてて崩れていく。


「あのー、カルート様? これ、なんの意味がありますの?」


 不思議そうに聞くエリシア。


「いいからもっとスライム出して!」

「……はあ。スライムなんていくら倒しても強くはなりませんよ……?」


 違う、そう思い込んでいるだけだ。

 強くなる。

 それがこのゲームのシステムだからだ。


 強い敵を倒してたくさんの経験値を得てこそ、強くなる。

 みんなそう思っているはずだ。

 経験値システムをとっているゲームのほとんどがそういう作りになっていると思う。

 だから、最弱のスライムをいくら倒しても、効率的なレベルアップにはならない。

 一部のやりこみプレイヤーがお遊びとしてそういうプレイをするくらいだ。


 だが。


 このゲームでは違う。

 剣をヒットさせた回数で剣のレベルはあがっていく。

 強力なドラゴン相手でもこんなスライム相手でも一発は一発だ。


 本来オフラインのソロゲーである【The New Ela Warsザ・ニュー・エラ・ウォーズ Ⅳ Killing Occupationキリング オキュペーション】では、そうは言っても効率よくモンスターを狩ろうとするとダンジョンに潜ったりクエストをこなさなければならない。

 クエストは達成すると次回からは挑戦できないし、ほとんどのダンジョンは攻略すると敵がでてこなくなる。


 だから、このシステムでもゲームバランスがとれていたのだ。

 さっきも言ったけど、自分で召喚したモンスターは倒せないしな。

 他人が出した召喚モンスターなら話は別だが、召喚の魔法はMP消費量が大きいし、こんなスライムばかりを召喚する敵もいない。


 そして重要な点がもう一つ。

 このゲーム、主人公がレベルアップすると敵も強くなるシステムを採用しているのだが。


 俺 は 主 人 公 で は な い の だ 。


 あくまで悪役である。

 だから、俺が主人公と関わり合いのないところでいくら強くなろうと、このゲーム世界の敵がそれに合わせて強くなるということもない。


 要するにこれは抜け道だった。

 俺はひたすらエリシアの召喚したスライムをつぶしてまわる。

 100匹、200匹、300匹。

 体力の続く限りずっとだ。


 同じ光景が続くので、メロなんて見飽きてもうその辺で寝転んで居眠りしている。


 ぶっちゃけエリシアまで飽きてきたみたいで、なんか片手で小説みたいなのを読みながらもう一方の手で召喚魔法を使ってる。


 いや一応お金もらってるんだから真面目にやるフリくらいしてくれよ……。

 と思ったけど、ま、俺は自分が強くなれればそれでいいか。


「うら! ほい! おら! てい!」


 もうスライムを叩きすぎて手がだるくなってきた。

 うーん、これはこれでつらいっちゃつらいなあ。


「はあ、はあ、はあ、はあ……よし、エリシア、今日はこのくらいにしておこうぜ」


 ポヨンポヨンポヨーンポヨン!


「いや、エリシア、もういいって……」


 ポヨンポヨンポヨポヨポヨーン!


「エリシア、おい、もうやめろ、もういいって」


 ポヨポヨポヨポヨポヨポヨポヨーーーン!


「エ! リ! シ! アーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「はっ!?」


 やっと気づいて顔を上げるエリシア。


「すみません、今いいところだったので……」

「ふう、ふう、スライムだらけになっちまったぜ、俺はもうヘトヘトなのにまだこんなに倒さなきゃいけなくなったじゃないか……」

「だって今小説の中で超イケメンの王子様がお姫様と初夜を迎えるところだったんですもの。ケッ、部屋で一人で読んでいればアレができたのに……」

「アレってなんだよっ!?」

「筋トレですわ。ほら、スライムが襲ってきましたわよ?」

「くそ! てや! くらえ! この! うら!」

「じゃあ今日の訓練は終わりですわね。お嬢様、帰りますわよ」


 声をかけられてやっと目を覚ますメロ。


「あれー? 我の訓練は?」

「それはまた後日にしましょう。わたくしはちょっと濡れた下着を替えたいですので」


 そう言いながらメロを馬に乗せるエリシア。


「んー? 我が部下、暗黒メイド騎士ダークエリシア卿よ、おもらしでもしたのかー?」


 エリシアもメロの後ろに乗り、そのまま馬を走らせて家に帰っていく。

 その馬上、


「そうですわね。……女の子はですね、いえ、わたくしは……剣を振るう好ましい男の汗を見ると……いやまあこれはまだお嬢様には早いですわね……これ、カルート様には秘密ですからね」

「なにいってるのだ、暗黒メイド騎士ダークエリシア卿?」


 とかなんとかいう会話をしていたのは、もちろん俺には全く聞こえてなかった。


 さて。


 このゲーム、剣をヒットさせた回数で剣の経験値を得ることができると言った。

 そしてもう一つ。

 魔法は使った回数だけ魔法の経験値を得ることができる。


 この訓練はこの世界にその名をとどろかす、最強のコンビを生み出すことになった。

 ……いや、コンビではない。

 トリオだ。

 なぜなら、大事件がこの後起きるからだった。

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