第5話 メイドギルド
「メイドギルドか……」
俺が呟いた、ちょうどその時だった。
向こうから、一頭の馬がこちらへ走ってくる。
もちろん、馬だけじゃない。
その背中には、一人の少女が乗っていた。
粗末な服を着た少女だ。
旅の途中なのか、大量の荷物も馬に載せている。馬の乗りこなし方はかなり慣れているようだ。
彼女は道端の俺たちの前で馬を止めると、声をかけてきた。
それも、馬に乗ったまま上から見下すような目線で。
「ねー、そこの汚ない農夫さん?」
なんだこいつ?
いきなり無礼な話しかけ方するなあ。
汚い農夫ってなんだよ。
確かに俺は今土で汚れた服を着ているけどさ、もうちょっと言い方ってもんがあるだろ。
「は? なんです?」
俺も少しぶっきらぼうに答える。
礼儀には礼儀で返すが、無礼には無礼で返すのが俺のポリシーだ。
見たところ、魔族でも亜人でもなく、純粋な人間族のようだった。
メロは人見知りなので、俺の背中にしがみつくようにして隠れている。
少女はケッ、と顔をしかめて不快そうな顔をすると、
「この辺りにダイバクローナ族の長の城があると聞いたんだけど。どこ?」
「はあ?」
城?
城ってなんだおい?
俺らそんな城を立てるほどの魔族じゃないんだ。
ま、村の辺境に千年前の砦のあとはあるけど……あそこは山と川に挟まれて不便だから今はだれもつかってないし。
でもこんな奴と長く会話なんてしたくないし、族長のおじさんに用があるってなら勝手にいけばいいさ。
「この道をまっすぐいって分かれ道を左。突き当りの家。城じゃないよ」
とにかくこの少女、感じが悪いので俺も丁寧に話す気がなくなる。
「家!? 支部長に騙された……。そう……ケッ、思ったよりしけた村ね……」
礼も言わず、なんだかぶつくさ文句を垂れながら、教えられたとおりに馬を走らせていく。
「……なんだあれ……」
「目つきが怖かったぞ! きっとダークネスドラゴンファイヤーデストロイヤー騎士団の団長である我の命を狙ってきた刺客に違いない……くっくっく、よかろう、我が右手に眠る
「おお、消化とか知ってるのか、メロはちゃんと勉強してて偉いなあ!」
「くっくっくっ、我が叔父よ、我をそんなにほめたたえてもよい。……褒美にギュー、してもいいぞ?」
「しょうがないなあ」
俺はメロをぎゅっと抱きしめてやる。
メロは「ふにー」とか変な声を出して抱きしめ返してくる。
この叔父と姪のスキンシップ、メロの奴は大好きなのだ。
ま、こんなふうにギューするのも、そろそろ終わりかな? もう十一歳だもんな。
そのうち思春期も佳境に入って口も聞いてくれなくなってしまったりして……そうなったらおじさんは寂しいなあ……。
そのあとも、俺たちはしばらくおしゃべりして時間をつぶしていた。
あんまり早く家に帰って、さっきの無礼な女がまだいたらいやだからな。
★
「あーあ、しかし畑作業すると泥だらけになっちゃうなあ……シャワー浴びてえ……」
この世界には魔石というものが存在し、それを使って比較的簡単に大量の湯を沸かせるので、温かいシャワーも一般的だ。
水を上までくみ上げるのが大変なのでシャワー室自体は半地下にあるのだが。
換気も魔石で簡単にできる。
ちなみに村の真ん中には公衆浴場まである。
ここ南に位置するマルファ―地方って日本に似た気候をしていて湿気が高いからか、この辺りの住人の清潔意識は高いのだ。
さてそれはともかく。
今日も朝から剣を振るい魔法の練習をして、そのあと農作業。
もう全身汗だくでグチャグチャだ。最高に腹減ってるし。
まさに汚い農夫かもな、それにしてもあの言い方はない。
シャワーを浴びたらおばさんの作るおいしいごはんを食べて寝る。
人生においてメシと睡眠は最優先事項だからな。
とりあえず俺はメロとともに家のドアを開ける。
開けた瞬間、俺は驚愕した。
目の前に、メイドさんがいたのだ。
信じられないほどの美少女、まるでお人形だ。
レースとフリルにまみれたヒラヒラフリフリのメイド服、彼女はスカートをちょんと摘まみ上げて素晴らしく綺麗なカーテシーで俺に挨拶した。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
何か知らんけど、すごくいい匂いがする。
そして優雅に顔をあげるメイド、俺たちの顔を見て「あ」と声を上げた。
そいつはさっき道端であった、あの感じのわりー女だったのだ。
「なにこれどういうこと?」
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