第4話 シャイニングドラゴンクリスタル
今日も俺は早朝から自主練をし、日中は一日畑の草むしりをしていた。
もうクタクタだ。
おじさんは族長とはいっても、たかだか二千人の部族の代表者。
しかも、二千人といってもそれがみんな集まって一つの町を作っているんじゃない。
数カルマルト(この世界では1カルマルト=1キロメートルだ)ごとに集落があって、全体で二千人なのだ。
族長でも本業は農業。
お城で優雅にお茶していればいい人間の王国の王様とは違って、家族総出で畑仕事だ。
午後の仕事も終わったころ。
夏なのでまだ外は明るい。
そこに、メロが学校から帰ってきた。
「ふわっはっはっは、今日も業務ご苦労であった、我が叔父よ!」
うーん、こいつは元気だなあ。
学校とはいっても村のはしっこに住んでいる賢者と呼ばれる人が開いた私設のもの。
農作業に忙しい村人たちが仕事をしているあいだ、子供たちを預かる保育施設も兼ねている。
だから、夕方まで預かってくれるのだ。
当然、普通の読み書き計算も教えてくれるのだが。
人手不足のこの時代、子供といってもできることはあるし労働力ではあるけれど、この世界には魔法というものがある。
魔法は多感な十五歳くらいまでに訓練を積まなければ才能を開花させることはできない。
この世界の魔法は主に戦闘に使われるものなのだが、将来の兵士としての訓練も兼ねて十五歳になるまでは学校に通って学ぶのが普通なのである。
もちろん俺も記憶を取り戻すまでは学校に通って訓練を行ってきた。
大戦争はなくなっているけど、ちょっとした小競り合いはまだあるっちゃあるし、田舎のこのあたりだとちょっと村を出るとモンスターが
「メロ、今日も一生懸命魔法の勉強してたか?」
「うん! 頑張った! わっはっはっは、我は凍結魔法の才能がある! もう少しで炎魔法も使えるようになりそう! ものすごい才能だから二つ目を教えてあげるって先生が言ってた! 見たことない才能だって!」
そりゃそうだ、こいつは将来世界を滅ぼしかけるほどの魔力をもっているはずなのだ。
「我が叔父は今日も一日草むしりだったか?
「そんなことに魔法を使ったらすぐにへばっちゃうぞ。畑なんてくっそ広いんだからな」
「んーまあ確かに……」
「魔法なんて一瞬の破壊力はあるけど、持続力はないからな……」
そんなわけで畑仕事は人力なのだ。
「んー、じゃ戦争とか起こんないかなー。そしたらダークネスドラゴンファイヤーデストロイヤー騎士団を結成し、我が絶大なる魔法で世界を征服するのだわっはっはっは!」
「やめろやめろ、そんなのつまらん。モンスターを倒すだけにしとけ、いいか、戦争なんていいもんじゃない、味方にも死人がでるし、お前のお友達とかおじさんおばさん、俺まで死んじゃうかもしれないんだぞ……」
「う……それはいやだなあ」
うんうん、いい子だ。
若干中二病にかかっているみたいだけど、そのうち収まるだろう。
俺がいまやらなければならないのは、戦争に至る悲劇の歴史を引き起こさないことだ。
「メロ、うちにさ、宝石があるだろ?」
「うん? ああ、あの我が主君の執務室に飾られているあれか?」
「我が主君とかじゃなくて普通にお父さんって呼んでやれよ……おじさん悲しそうな顔してたぞ……」
「いや、親子とはいえ、偉大なる父上は我が主君でもあり……」
「そんな人間世界の王権みたいなこというなよ、俺らただの農耕魔族だぞ。……で、宝石なんだけど」
「うむ、千年前の大戦争の時にご先祖様が人間の味方をしたゴッドドラゴンを討伐し、その右目をくりぬいたのだ。その右目こそ、いま我が家に今に伝わる秘宝、シャイニングドラゴンクリスタル!」
それだ。
それこそが、近衛師団が俺たちの一族を滅ぼすきっかけになったもの。
今から二年後、病に倒れた王にかわりデルベ王太子が
その一年後、彼がゴッドドラゴンの復活のためにシャイニングドラゴンクリスタルを引き渡すよう族長である俺のおじさんに命じるのだ。
おじさんは族長としてそれを断固拒否したため戦となった。
とはいって戦力差は圧倒的で、一方的な虐殺ともいえた、はずだ。
この事件はゲームスタート時以前の時系列だから、詳しくは知らない。
シャイニングドラゴンクリスタルは一族の統合の象徴であり、宗教的なシンボルでもある。
だから、おじさんも族長としてどうあっても引き渡すことはできないと思う。
そもそも、王太子がゴッドドラゴンを復活させる目的は魔族のジェノサイドだしな。
だから、それ以外の方法でなんとかこの虐殺を止めないといけない。
おそらく、タイムリミットは最短であと三年。
いまだ王は健在だが、二年後には病にかかり、実権を野望あふれるデルベ王太子が握る。
そしたら破滅への歯車が回りだしてしまう。
なんとかしないと……。
「そうそう、我が叔父よ、今日学校でおもしろい噂を聞いたのだ。なんと、こないだあのメイドギルドがこっちの地方に営業をかけにきたらしいぞ」
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