ノミュニケーション
釜瑪秋摩
第1話 ノミュニケーション
私の名前は、
年齢は五十二歳。
とある企業の部長職についている。
今月はやけに仕事が忙しく、部下たちが忙しなくあちこち飛び回っている。
私自身も支社への出張が重なり、疲れ果てていることが多い。
そのせいで、ミニと遊んであげられないことが増え、毎日の圧がすごい。
今回の会議は関西支社で開かれ、私は朝から大阪へとやってきた。
前回は福岡県にある九州支社だったことを考えると、近いほうだ。
「伊達、久しぶりだな」
会議が終わったあと、私に声を掛けてきたのは、同期の
彼はこの関西支社で部長職についている。
「今日は泊まりなのか?」
「いや、私は今日は最終で帰るよ」
「ああ、そうか。伊達はペットがいるんだったな?」
「そうなんだよ。だからなるべく帰るようにしているんだ」
いつも会議が終わると、親睦会を兼ねた食事会……いや、飲み会と言うべきか。
そんな会が開かれる。
以前は現地で泊まり、翌日に帰っていたけれど、今はできる限り帰るようにしている。
大阪より西や、仙台より北ともなると、さすがに宿泊することになるが……。
今日はこのまま、会場となる駅近くのお店へ和久井が案内をしてくれた。
「こんなときでもないと、なかなか顔を合わせる機会もないからなぁ……なるべく参加したいとは思っているけれどね」
「だよな。最近じゃあ、若い社員たちと飲みに行く機会も減っているしな。伊達のところも同じだろう?」
「そうだね。今は食事会ですら、誘うのも難しいだろう? 出先で遅くなったときは、ランチくらいは一緒にすることもあるけれど」
「昼からじゃ、飲むわけにもいかんだろう? 俺たちの時代のノミュニケーションなんて、もはや通用しなくなっているよな」
和久井の言うように、今の若い子たちはプライベートを大切にしていて、業務終了後まで会社の人間とつき合うつもりは、あまりないらしい。
みんなが必ずしもそうではないけれど、多いのは事実だ。
「下手に誘おうものなら、やれパワハラだ、アルハラだ、セクハラだって騒がれてしまうんだから、たまらんよ。まったく……寒い時代だと思わんか?」
「確かにねぇ……けれどまあ、私としては、和久井やほかの同期と楽しめれば、それでいいかとも思うよ」
「俺だってそう思うよ? とはいえ、やっぱり寂しさはあるな。雑談を交わすのも面白いものなんだが」
「そう腐るなよ。こういう交流も私たちの世代までなんだろうけどね。今日も少しでも情報交換をして、次の仕事につなげていこう。私たちの出世は部下たちの生活の安定につながるんだから」
「それもそうか……そうだ、ところでU社の新しい製品について、話は聞いているか?」
「いや、それは初耳だ」
「北陸支社の
この日は飲みながら食事をし、それぞれに情報交換をし合った。
私は泊りではないので、皆よりも少し早く離席して都内へと戻ってきた。
途中、何度かアプリで見守りカメラの動画をチェックしたけれど、ミニは一人、優雅にくつろいでいるようだった。
最寄り駅を降り、一番近くのコンビニで、お留守番をしているミニのためのおやつを買い、家路へと急いだ。
-完-
ノミュニケーション 釜瑪秋摩 @flyingaway24
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