第六章 新たなる時代の幕開けへ

第256話 王家会議で今後が分かる

 帝国統一歴524年7月25日。


 「会議を始めるぞ。よいな」

 

 ウィルベルの声と共に会議は始まった。


 「それでは今回の戦争についての論功行賞からだな」

 「ええ。それでですが、兄上はどのようにお考えで?」


 ジークが珍しく会議の先鋒を務めた。


 「私がか?」

 「ええ。アージスへ向かった兄上の軍。一兵もありませんぞ」

 「まあそうだな」

 「それとフラム閣下もお亡くなりになられて、大損失では?」

 「ああ、そうだったな。惜しい人物を失った。大きな損失だ」


 平気な顔で答えるウィルベルの顔を真剣な表情で見るのはジーク。

 それと、フュンである。

 二人で一部始終を見逃さない気である。


 「今回、ドルフィンの功績はない。何もいらんぞ。何もしてないからな」

 「そうですな。兄上の所に敵が来てませんからな」


 ジークの嫌味攻撃はチクチク言葉になっていた。

 ハスラとアージス平原にのみ攻撃が来て、リーガには攻撃が来なかった現状。

 アージスで兵が減っても仕方ないと考えてくれ。

 そういう思いがジークの中にある。


 「まあ、いいだろう。ジーク。それで今回。兄上はどういう査定をしたんだ。俺も気になる」


 スクナロが聞くと、ジークは素直に下がった。


 「今回は、スクナロとシルヴィアを、第一にして。次にジークだな」

 「ほう。俺もシルヴィアと同格だと」

 「ああ。そうだ。結果を見ればそうだろ」

 「違うな。ジークと同じが一番いい。俺はシルヴィアの下だ」


 スクナロは腕を組んでから、胸を張って答えた。


 「シルヴィアが今回の総大将だ。俺はその将になったに過ぎない」

 「ん?」

 「俺はシルヴィアの下で結果を出しただけだ。功績はシルヴィアにあるんだ。これは変えようのない事実。そして軍部としてもそのような評価でなくてはな!」

 「それは・・・・スクナロ。シルヴィアに全ての功績をやる。そう答えているのか」

 「そうだ。全く持ってその通りだ」

 「いいのか。スクナロ」

 「いい。俺はまだまだだからな。俺はあの戦争。誰かの世話になってばかりだった。特にクリスには迷惑をかけたわ。フュン。感謝するぞ」


 スクナロはいつも通りの漢である。


 「いえいえ。こちらも当然のことをしたまでです」

 「ふっ。相変わらずだな。義弟よ」

 「いえいえ。スクナロ様は、私のお義兄様ですぞ。私の部下が協力するなど当然であります」


 フュンの含んだ笑みに、満足げな笑みを浮かべるスクナロは嬉しそうだった。


 「兄様。フュンの功績は?」


 シルヴィアが聞くと。


 「ない。そういう記録になっている」

 「ないですと。なぜですか。フュンが反乱を防いだのではないですか!」

 「しかし情報部にはそのような情報が挙がってきてないぞ」 

 

 ウィルベルが読んだ情報には、フュンの記録が残っていないのだ。

 意図的に消されているのである。


 「あ、それならですね。お困りになるでしょうから。僕から報告しましょう。いいでしょうか。ウィルベル様」

 「よい」

 「ありがとうございます。では、辺境伯として、シルヴィアの夫として、王家会議に参加しているフュンです」


 今回のフュンは席に座っていた。

 ウィルベル。スクナロ。ジーク。シルヴィア。そしてフュン。

 五人での会議となっている。

 それぞれの従者が後ろに控える形となっていて、計十名が王家会議の部屋にいる形だ。

 フュンの従者は当然ゼファー。いつでも身を投げるつもりで護衛をしている。


 「それではですね。今回の僕の動きはないに等しいのです。シンドラの反乱。ラーゼの事件。双方の件は皇帝陛下と、その関わりのある者の功績であります。その結果をお伝えします」


 フュンは皇帝と共に今回の査定をすでに行っていた。

 代理の権限を持つ彼ならではの裁定である。


 「シンドラ。この反乱は大変よろしくない。かつてのサナリアと同じで。粛清しなければならない事案であります。ですが、ここに救世主が現れました。それがヒルダ姫。シンドラ王国第二王女ヒルダ・シンドラであります。彼女が軍を率いて、自国の軍と懸命に戦い勝利したのです。なので、シンドラの消滅は無くなり。シンドラを帝国に編入をさせることが決定しました」


 わざとらしい物言いは、ジークにも通ずるものがある。

 振る舞いが演技のようになっているフュン。

 ここにいる王家の皆に、わざと見せつけている独壇場の講演のようである。


 「シンドラ辺境伯ヒルダ・シンドラ。それが彼女の功績の結果であります」


 彼の言葉にスクナロ以外の皆が驚く。

 

 「シンドラ王国は、ここから皇帝直轄の領地になります。明日から、シンドラ王国は消えます。それで、属領からの解放となります」

 「な!? それを。私に内密にか」


 情報部も加味されているドルフィン家。

 自分の権限を使用していると反論しようとしたが、それも無駄である。

 その反論すら封じるための口をフュンは持っている。

 

 「ええ。そうです。ここ。詳しく説明しましょうか。そうなるとウィルベル様には不都合になりますが。よろしいでしょうかね。聞かない方がいいと思いますよ」

 「なに!? どういうことだ」 

 「ええ。まあ、納得いただけないのなら、ご説明しましょう。よいですか。シンドラの反乱。食い止める術を持つ人はスクナロ様にあります。ですが、この反乱。綿密な計画の元に行われているものでして。隠し兵力がありました。これは大将軍アステルの証言により、隠し部隊を編成していたのです。それが計二万以上。元々と足すと五万以上の兵力を持つ国でありましたよ。スクナロ様はご存じでしたか」

 「知らなんだ。それが良くなかった。俺としても反省している」

 「ええ。そうですよね。しかし、これは内密に計画を練られていたのです。もしこれをスクナロ様が知っていて、放置しているのであれば、処罰の対象となる事件であります」


 フュンは、スクナロに責は無いとした。

 実際はある。でもないとしたのだ。


 それは、属国の管理については、そもそも属国にある。

 反旗を翻しても別にいいというスタンスを持っていたのは帝国の方である。

 裏切るのであればいつでも裏切れ。

 ただしその時は国を消滅させる。

 そっちの方が国家のスタンスとして、分かりやすいだろうという考えに基づいている。

 大義名分も得られるために、戦争事由を得られる意味としても間違いではない。


 「それでいうとですね。シンドラの反乱を知っておきながら無視した場所があります。それがウィルベル様のククルなのですよ。これはどういう事でしょうか。まずくはありませんか?」

 「私が悪いと言いたいのか! 辺境伯」

 「ええ。そうです」


 フュンは、きっぱりと言い切った。


 「あそこから兵が一歩も動いておりません。これはどういう事でしょうか。あそこで、五千の兵で敵の背後を突いてくれれば、もっと楽にヒルダ姫が勝てたのですよ。それすらもククルは分からないと? 間抜けばかりですか。その都市の兵は!!」

 

 フュンたちが戦ったマールダ平原の戦い。

 実は、あの戦い。

 楽に勝てる手がもう一つあった。

 それが、ククルからの出撃である。

 たとえ、五千でもいいから出撃してくれれば、致命的な一撃を与えることが可能だったのだ。

 だからそれをしなかったククルを持つドルフィン家には、この事件を蒸し返すと不都合ですよとフュンが忠告したのである。


 「それは無理だろう。兵が五千で、予備兵だぞ」

 「そうです。ですが、絶対に勝つ場面じゃないと戦わないということですか? そんな腑抜けた連中なのですか。あなたの管理する都市は?」

 「・・・・」


 かなりの挑発文と共にウィルベルを叱責する。

 苦虫を噛んだような表情のウィルベルはフュンを睨んで黙った。


 「ええ。ですから、あなたは、この査定に口出しできないでしょう。その権利がないと言ってもいい。それとも、この結果。ご不満でしょうか。シンドラ辺境伯についてです。そうなると。こちらの査定が加わりますぞ。良いのですか。ククルの査定が加算されれば、これはマイナスとなりますでしょうに」


 単純な言葉の中に含みを加える。

 あなたの結果がまずくなる。

 なぜならあなたの軍はほぼ何もしていない。 

 それはアージス平原での戦いでも何もしていない。

 フラムが死に、ドルフィン軍は消滅しているからだ。

 だから、この裁定に口出すという事は、改めてやり直しをすると言う事だ。

 やり直しになると、ドルフィン家の立場は圧倒的に悪いことになる。

 というのを暗に示しているのである。

  

 「くっ。いいだろう。辺境伯は了承だ」

 「ええ。ありがとうございます。そして」


 フュンは改まって話し始めた。


 「ラーゼの件ですね。これもまずいことになっています。ラーゼの王。シンドラの王。双方は偽物でした。帝国にとっての天敵。そして僕にとっての天敵。夜を彷徨う蛇ナボルが関係していた事件です。これを公表することを陛下には許可して頂いたので、ここでお知らせします。皆さんと共に協力してナボルを殲滅するのです。そこで資料をお渡ししますので、読んでください」


 今までの流れの全てを資料にまとめ。それを皆に配った。

 事件は詳細に書かれていて、夜を彷徨う蛇ナボルの幹部を捕らえたことも記されている。

 スカーレット。イルカル。シス。

 この三名を捕らえた。

 しかし、ここではスカーレット以外の名称だけは伏せて三人を捕えていると書いてある。

 

 現在はある特殊な場所に閉じ込めているらしく、それを知る者はごく僅かで、帝都側で滞在しているフュンの仲間たちでも知らないらしい。


 「僕は皆さんで力を合わせていきたい。そこで、今回のラーゼの件はお詫びをしないといけないと思っています。なので、今回の出来事で、ラーゼは独立国となります。属領からの解放です」

 「なに!? 何を勝手に言っている!!」

  

 ラーゼは、ドルフィン家の属領。

 自分の領地のひとつを奪われるような形であるから反対しようとした。


 「いいのですか。ウィルベル様。ここも反論すると大変な責任を負う羽目になりますぞ」

 「・・・・・」  


 フュンの言葉にウィルベルは止まった。

 

 「もし、この裁定を覆すのであれば、一からやり直し。ここの責任がウィルベル様になりますぞ。属国の王の管理。その責任があなたのものになる」

 「それじゃあ、バルナガンはどうなった。あそこが私の属領に攻撃を仕掛けてきたではないか」

 「ええ。ですからバルナガンは粛清しました。ヴァーザック。スカーレット。スカーゼン。この三名のストレイル家を潰しました。これは、スクナロ様に責任を取ってもらいましたよ。なにせ、バルナガンは隠しで兵力を補強していましたし、それにナボルの兵の基地を作っていました。サナリア山脈。アーリア大陸北東に秘密基地がありました。これは頂けない。なので家を無くしました。そしてスクナロ様には、ここを手放してもらう許可を得ています」

 「ああ。しょうがないな。企てたことが悪質すぎる。俺はああいう事が嫌いだしな」


 スクナロは納得していた。

 それに本心としても入らない家なので、助かる面もある。

 今いる家で十分であるのだ。


 「そして今回の事件の責任。バルナガン。ここも陛下の領地にすることを認めてくれたことで、スクナロ様の罰は十分です。なので、属国ラーゼは。ラーゼ王国へと変わり、ラーゼ王国は、ガルナズン帝国の永世同盟国となりました」

 「「「永世同盟国?」」」


 これにはさすがに皆が驚いた。


 「そうです。ラーゼ。ガルナズン。両国が無くなるその時まで、この同盟関係は永遠であるとする同盟です」

  

 そんな同盟ありえない。

 その言葉が出掛かったが、この事件の陰の立役者が言うのだから文句は言えない。

 それに皇帝陛下が直々に判断を下した件でもある。


 「ラーゼ王国の新王は、タイロー・スカラ。この人との友好関係を築きます。それには、シンドラ辺境伯。ヒルダ・シンドラの役割でもあります」

 「ん? どういう事だフュン」

 

 スクナロが聞いた。


 「ええ。お二人はお互い好き同士なのですよ。でも今までの立場のせいでお付き合いなどが出来なかったので、人質から解放されたお二人は自由です。もし結婚されるのであれば、喜ばしい出来事になります。帝国の辺境伯と、友好国の王の結びつきは、良き関係になること間違いないのです」

 「そうか・・・それはいい事だな。家族の結びつきの方が強いからな。それはいい」


 スクナロは頷いてくれた。

 ジークもシルヴィアもだった。


 「ウィルベル様。これでよろしいでしょうか。今回の出来事の裁定は、このような結果となります。これでもし、この結果を覆したいとなるとですよ。とても厳しい査定が待っていますよ」 

 「どういうことだ」

 「まず。変えるとなると、ドルフィン家の功績はマイナスとなり、ターク家はゼロになります。お二人は属国の問題を抱えることになりますからね。それに加えてダーレー家は大幅プラスになります。こちらの家に落ち度はなく。シルヴィアが総大将として大戦を停戦まで持ち込み。ジーク様と顧問ミランダが王国軍八万を殲滅した功績は計り知れない。この八万もの軍を倒したことで停戦が可能となっていますからね。この功績の結果。どうでしょう。あなたは耐えられますかな」


 この言葉の本当の意味には、『これであなたは大変じゃないですか』である。

 ドルフィン家の失墜。ターク家の力が削がれて、ダーレー家が大幅上昇。

 この三すくみではとても大変な状況に追い込まれる。

 確実にダーレーが皇帝候補レース最上位になるからだ。

 

 フュンが出した提案を受け入れてくれれば、ドルフィン家はやや減少。ターク家は現状維持。ダーレー家がやや上昇で抑えられる。

 ただ、これには裏があり。真の意味で上昇するのはサナリアと皇帝であるのだ。

 二つの事件を解決した皇帝の更なる権威上昇。

 その皇帝の手足となったフュンは、シンドラ。ラーゼの友好の矛先のサナリアを保有している。

 新たな国と新たな辺境伯の二つと親しくなる形のサナリアは帝国の御三家にも負けない力を持つのである。

 

 これが、フュンの計略。

 御三家の力を崩しつつ。

 己の力を得ながらの国家を一つに持っていく。

 皇帝に力を。ダーレーに微増の力を。それで徐々にシルヴィアこそが皇帝にふさわしい人間であるとする・・・。

 それがフュン・メイダルフィアの策略である。

 彼による帝国改編は始まったばかりであった。




―――あとがき―――


ここからが、最終章です。

帝国の変革の時。

その序章がこの章から始まります。


フュンによる。

帝国の為の。家族の為の。国民の為の。

全ての人の為に頑張った結果が現れる章となります。


楽しんでもらえたら嬉しいです。

ではまた~。

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