第162話 続 お久しぶりです皆さん!

 帝国歴520年7月下旬。


 「あれ? 皆さんじゃありませんか!?」


 臨時の職場で書類関係の仕事をしていたフュンの元に彼らがやってきた。


 「フュン様。あなた様の計画。私どもも参加させていただきます。これからは、ウォーカー隊ではなく。フュン様についていきます」


 最初の挨拶はミシェルから。

 彼女は爽やかな笑顔で挨拶をしてきた。

 

 「俺もだ。サブロウとミラから、話が来たんだ。お前の計画。俺たちは黙ってるぜ。あと俺はサブロウの片腕として付き合うぜ。いいだろ」


 カゲロイの影の成長が凄い。

 何もない所から出現して、余裕の態度でいる。


 「あたしも。殿下の力になりに来たよ・・・どうせ、ゼファーが迷惑かけるから、私が補佐した方がいいでしょ。ゼファーのせいで色々失敗しそうよ」


 ゼファーへの悪態を忘れないリアリスも、しっかり挨拶をしてきた。


 「殿下」「我らも」

 「「お役御免だ」」

 「姉ねも」「おじじも」

 「「バッチリダーレーに守られているぞ!」」


 双子も影から出現。

 かなりの成長をしたらしく、フュンの実力では感知できないほどであった。


 「僕も来ました。王子の役に立ちたいですからね。何か補佐的な仕事をしますよ。お任せください」


 タイムも王子の役に立ちたくて来たらしい。

 素直にそのことを言うあたりが、タイムの人の良さが出ている。


 「そうですか。皆さんが・・・僕の為にですか」


 皆が素直に頷いた。

 あの生意気女のリアリスでもフュンの前だと素直になる。


 「そうですね。皆さんは僕の大切な仲間。ここは素直に頼りたいですね。これから先の戦いに勝つためにも。皆さん。僕に力を貸してください。いいでしょうか!」

 「「「はい」」」「おう」


 カゲロイ以外が『はい』と返事をした。


 「で、ゼファーはどうしてんの。殿下。あいつがそばにいないの。珍しいじゃん」

 「ふふっ。リアリス、一番最初にそこが気になりますか?」

 「べ、別に。なんとなく聞いただけ」


 横を向いたリアリスの顔が少しだけ照れた。

 彼の事が好きなんだな。

 と思ったフュンはこれ以上何かを言ってからかうのを止めた。

 

 「リアリス。ここにゼファーもいますよ。ただ今は、兵士訓練をしてもらっているので、一時的にここにはいません。今、そちらにも案内しますから、安心してください。リアリス。会えますからね」

 「だ、だから、別に会いたくて言ったわけじゃないし」


 リアリスがさらにそっぽを向いた。

 彼女が恥ずかしさを隠そうとしている間に、ミシェルが前に出てきた。


 「そうですか。ゼファーさんが兵訓練ですか。どのような成長を兵にさせるのでしょうか。興味がありますね」


 見たことのない笑顔。

 これはまさか・・・。


 「ミシェル。君も気になりますか」

 「ええ。ゼファーさんは強くて面白い方ですからね」

 「そうですか……それはそうでしょうね。僕も面白いと思ってますからね」


 と言ったフュンは、結構大変なことになるなと思った。

 リアリスより分かりにくいのだが、ミシェルもまたゼファーの事が好きなのではないかと思ったのである。

 会話の隙間を縫ってカゲロイが出てきた。


 「んじゃ。サブロウは? あいつ、一人で何かやってるんじゃないのか?」

 「そうですね。カゲロイにも手伝ってほしいですね。今のサブロウは忙しすぎて手が回らない事ばかりでしてね。あなたが来てくれたなら助かります」

 「そうか! ならよかったぜ。じゃあ、俺はサブロウだな。この双子もか?」

 「ええ。そうですね。ニールとルージュもサブロウの所に行きましょう」

 「「えええええええ」」


 双子は不満そうな顔をした。


 「せっかく」「殿下の所に」

 「「来たのに!!!」」


 二人同時に地団太を踏んだ。

 不満が爆発していた。


 「大丈夫ですよ。君たちはいつでも僕のそばに来れるでしょう。ただ、今はサブロウが忙しいのです。手伝ってください。そうなると僕も助かりますから」

 「むっ」「しかたない」

 「「殿下がそういうなら」」


 フュンが二人の頭を撫でると、二人はムスッとした顔のまま了承した。


 「それじゃあ、皆さん。夜にでも会食しましょう。その前に、それぞれの配置を今決めます。そこからそれぞれの場所を案内しますね。では、さっきと同じでカゲロイたちはサブロウです。ミシェルとリアリスはゼファーの訓練を手伝ってください。あなたたちは純粋な兵ですからね。あ、待ってください。リアリスは変えます。あなたはフィアーナという女性に指導をもらいなさい。彼女は弓の名手です。あなたの師になってもらいましょう」

 「え? あたしがその人の弟子に?」

 「ええ、そうです。彼女は矢を三本同時に射出できる。凄腕の狩人です」

 「狩人!?」

 「ええ。だから、彼女の手ほどきをもらえれば、相当強くなるでしょうね。あなたならね」

 「わかった。会ってみるよ」

 「ええ。会わせてあげますからね」


 彼女がとても嬉しそうな顔をしたので、フュンも喜んだ。

 元々ラメンテの里でも狩人の真似事をしていたので、本物に会えるのがまた嬉しいようだ。


 「あとはタイム。君はクリスに会ってもらいます。僕よりも彼を成長させるカギになるのは、タイムだと思いますので、そこをお願いしたい」

 「え、僕が? その人を指導しろということですか?」

 「ええ。君は、僕らにとって稀有な人だからね。お願いします」


 フュンが言ったとおりにタイムは貴重な人材なのだ。

 このメンバーの中で唯一の平凡な能力を持つ男。

 それゆえに彼には他にはない別な能力がある。

 それは調整能力だ。

 クリスにもその素養はあるが、タイムの能力は別にあって、純粋な力を持たないのに、この一癖も二癖もあるウォーカー隊のメンバーをまとめ上げることが出来るだけでも、素晴らしい調整力を持つと言えるのだ。

 だからその力をクリスには間近で感じてもらい、成長してもらおうと思うフュンであったのだ。


 「それでは皆さんを案内しますね。僕の大切な仲間ですから、僕が直接案内しますね」


 そう言われてしまえば、皆は笑顔になるしかない。

 強固な信頼関係がある六人は、フュンの腹心たちである。

 

  

 ◇


 数日後。

 タイムとクリスの二人が、戦術の教科書を一緒になって読んでいた。


 「クリスさん。こちらはどうお考えになりますか?」

 「えっと……それはですね。挟撃で、高速戦闘ですか?」

 「それもありです。ですが、こちらの包囲の考えはどうでしょうか」

 「な、なるほど。そんな考えがあるのですね」


 クリスは、タイムの考えの方にも納得した。

 自分では気づかなった作戦だったらしい。


 「ええ。クリスさん。軍を指揮する際ですね。時には平均的な強さの人に合わせて、考えを柔軟に持っていくのも大切です。今のあなたの考えは、こちら側の実力が、相手側の実力を上回っている際に行える作戦であります。その場合は良しですが、もしこちらの実力が下回っていた場合は、こちら側の敗北が決定します」

 「な、なるほど。兵の力量ですか。そこは盲点ですね」


 タイムは一兵の強さも重要であると教えていた。


 「ええ。ですから。相手の実力を見極めるのも大切です。こちらの力とあちらの力。双方の力量の差も読み取って戦うんですよ。それで取れる手も変わります。あと、これも忘れないで、弱いからと言って、負けるのではありません。強いからと言って勝てるわけではありません。兵の強さが必ずしも戦場の勝ち負けに繋がるわけではありません」


 タイムの教えは、大切な事だった。

 ミランダらの天才の教えでは、教わらない事だ。


 「わ、わかりました。肝に銘じておきます」

 「それと、あとは突拍子もない作戦を考える人を補完する動きも必須なんです。こういう補佐的な考えは、あらかじめ持っていないと戦場では、置いてけぼりになることもあります。僕は能力がありません。戦う能力も、何かを考える能力もです。ですが、僕は誰がどう動くかだけは見ているつもりです。敵と味方の配置についてもですよ。戦場は盤面以外にも動きとか流れとかで対処できることがあるのですよ」

 「なるほど。わかりました。貴重な体験を教えていただきありがとうございます」

 「いえいえ」


 タイムは平凡。ゆえに考えも平凡。

 だから、クリスの考えにはないものを持っていて、クリスと同じく戦闘の能力がない分、頭を働かせて戦わなくてはならないのだ。

 ミランダは、武も知も両方が天才の部類なので、フュンの睨んだ通りにタイムの方が、クリスの師としては的確なのである。


 「ではタイムさん。こちらは?」

 「ええ。これはですね」


 戦闘の資料集などの読解が主な修行方法であった。

 色々な戦場を記憶しているタイムは似たような事例を多く学んでいるのだ。

 基本形態のような戦闘形式はほとんど答えることが出来る。

 これにより、さらなる成長を遂げるクリスをタイムが支えていた。



 ◇


 サナリア軍の三軍の内の一つゼファー軍。

 その前にいるのは、ゼファーとミシェル。

 二人は一緒に軍の訓練を見ていた。

 ゼファー軍は、ロイマン軍の兵三千とゼクスの兵らとサナリア軍の生き残りで編成された混成軍である。

 今現在は兵五千が彼の軍となっている。


 「駄目です。まだまだ休憩はいけませんぞ。ここは限界の先へ行かねば、帝国で一番になれないのです」


 ゼファーが兵の前で鼓舞した。

 へとへとになっている兵らは、息も出来ないくらいに疲労している。


 「ゼファーさん。いいでしょうか」


 優しく諭すような言い方のミシェル。


 「はい? ミシェル殿?」


 疑問で返したゼファー。


 「ここで無理はいけませんよ。よく見てください。皆さんの体力を。限界を超えて修行をするのはあなただけの特権です。あなたは体が強い。鍛えれば鍛えるだけ、血肉となる殿方です。それは天性のものなんですよ。ですが他の方たちもあなたと同じとは限らないのです。いいですか。皆さんにこれ以上の訓練を強要してはなりません。それと、この人たちはまだ基礎がありません。基礎訓練から始めねば、応用訓練も意味を持ちません。あなたの訓練は、応用と基礎が混じり合い。兵が混乱してしまいます」

 「・・・そうなのですか?」

 「ええ。そうです」

 「ですが、鍛えねば、強くはなりません!!!」


 ゼファーとミシェルの言い合いは、冷静な話し合いである。

 ゼファーの強気な姿勢の言葉を兵たちが聞くと暗い顔をして、ミシェルの物腰柔らかい意見が出る際には明るい顔となる。

 天国と地獄の意見に、板挟みになった兵士たちは振り回されている。


 「そうですよ。鍛えねば強くはなりません。ですが無理もいけません。それとその人たちの特性に応じた訓練にしなければ効果を発揮しません。無理に訓練を行う。合わないもので訓練を行う。そうなると非効率です。訓練の効果が半減以下になります」

 「んんんん」

 「納得していないようですね。では、ゼファーさん。勝負をしましょう」

 「はい?」

 「私が、こちらの左半分の方々を訓練します。あなたはそちらの右半分の方々を訓練してください。それで、二週間。両部隊がどれだけ成長したかを、勝負しましょう。模擬戦闘です」

 「・・・んんん。面白い。やりましょう」

 「それでは、こちらの方々をもらい受けます」


 と言ったミシェルに選ばれた兵たちは、救われたと思い喜びで泣きそうであった。

 そして、ゼファーに選ばれた兵士たちは、ここから地獄になるのだと覚悟したことで涙が流れたのであった。




―――あとがき―――


ヴァンとララも、仲間に加わる予定です。

ですが、彼らはまだまだ合流できません。

なぜなら、彼らは、ササラではなくハスラで水兵を一から鍛える任に着いたのでした。

彼らを育てるのに数年を要するために、フュンのそばにはまだ来ません。


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