第84話 フュンの切り札
フュンが彼らを捕縛した後。
海上で戦っていたミランダと海賊の戦いが、洞窟内へと切り替わっていて、激しい攻防を入口で繰り広げていた所。
「なかなか強いのさ。でも、こっちは陸上になると強いのさ。そこ、右側面が弱い。押せ」
ミランダの指示は的確。
洞窟の入り口での戦いで防御陣が弱い場所があった。
一瞬で崩壊させることが出来る攻撃が通った瞬間。
「待ってください! ミラ先生。攻撃停止命令を!」
「は!? フュンか」
「はい。奥にいます」
「わかった。停止しろ。いったん下がれ」
フュンの声が洞窟の奥から聞こえてきた。
ササラ軍は攻撃を停止。
そして。
「お前たち、武装解除しろ」
「
海賊たちも攻撃を停止した。二人の指示により、海賊は武器を落として、ササラ軍に捕らえられていく。
「先生! ちょっと来てください。あと、ピカナさんもいますか」
「わかった。ピカナもいるのさ」
「はい。フュン君。僕もいます」
フュンは、捕縛した二人と、呼んだ二人を洞窟の奥にある会議室まで連れて行った。
◇
「そんで、お前はなにしてたのさ。そいつらは?」
「この子たちは、海賊のリーダーらしいです。ヴァンとララです」
「若いな。あいつらの指揮官にしちゃよ」
「それが・・・」
フュンは事情を二人から聞いていた。
ここにいる海賊たちは、御三家戦乱の前や最中でササラの町や他の港町から追い出された人々らしい。
貴族たちの圧政により解雇された軍の者や、普通に漁をしていた一般人が最初の海賊たちだったようで。
現在の海賊の中心メンバーはその二世などが活躍する時代で、ヴァンとララはその頭目として活躍していた。
盗む際に人を殺さないのは、どこかで自分たちが海賊ではないことを信じたい気持ちがあったようだ。
「ほう・・・でも世間的には海賊なのさ。んで。お前、どうするつもりなのさ。戦いをやめさせてよ。こいつらをどうするのさ」
「ええ僕はですね。仲間にしようかと思います」
フュンがこう言った瞬間。
下を向いていたヴァンとララの顔が上に上がった。フュンの顔を見る。
「お前、こいつらを仲間にすんのか?」
「はい」
「大丈夫なんか? 信じられるのか?」
「はい」
「はぁ。即答かよ・・・まあ、なんでだよ。さっきまで戦ってたのさ。無理だろ」
「大丈夫ですよ。この人たちの目は綺麗です。心もです」
「はぁ。またそれか……ほんとだろうな」
「ええ。それに先生」
「なんだ」
「元は賊なんですよ。僕たちは!」
「まあそうなのさ。そういえばそうだわな。それを気にしてもしゃーねぇってことか。なら入れちまおうなのさ」
「そうですそうです。仲間に海賊が入っても何ら変わりがないのです。どうせ僕らは、元々賊なんですから。賊の中に別の賊が入ってきてもいいのですよ。気にしない気にしない。あははは」
ヴァンとララは、眩しい笑顔のフュンの顔を見られなくなった。
頭に手を置いて照れくさそうに笑う彼の顔が、太陽のように輝いていた。
「それで、フュン君は仲間にしてどうするつもりなのですか」
「ええ。そこでピカナさんが重要です。この人たちを海兵にしませんか。ササラ軍の海軍担当にするのです。あ、でもこのヴァンとララは、大きな戦の時とかには僕の所に欲しいです。新たなフュン部隊の隊長にしていきたい」
「な!? 俺たちが」
「私も??」
「ええ。僕は君たちが、心の芯の部分から、ここにいる人たちの事を救おうと動いているのを知ってますよ。食べ物を盗むために、リスクを承知でわざわざササラまで襲撃してきたのですから」
「そ、それは・・俺たちは、親父世代にだいぶ世話になって・・・俺たちに食料を分けてもくれたんだ。自分たちが死ぬと分かっても・・・」
「そうですわ。それでだいぶ死んでしまいましたけど。あの方たちのおかげで私たちは生きてます」
「ええ。そうでしょう。でもここからは皆さんで生きていかないと。いいですか。日の光を浴びましょう。食事も食べましょう。そうすれば、本当はもっと皆さん、長生きできたと思います。ですから、あなたたちはササラで生きていった方がいい。今の領主は、あなたたちの上の世代の人たちを追い出してきた酷い人間ではなく、人格者である素晴らしい領主のピカナさんですからね。あと、盗んだ分の代金。しっかり働いてもらわないとね。しばらくはタダ働きですよ。なんてね。あははは」
フュンは最初から違和感を感じていたのだ。
この洞窟にいる人間たちが、純真である事。
そしてそのリーダーである二人の心も、悪事には手を出しても悪に染まっていない事。
仲間を守りたい。救いたい。
この思いだけで動いているのなら、仲間になってもらえれば一緒に何かを成し遂げられるとも思ったのである。
「・・い、いいのか・・あんた」
「本当に?」
ヴァンとララが言うと、フュンはあっけらかんとして。
「ええ。いいですよ。僕たちと一緒に生きましょう」
すぐに承諾。
「あ・・・あんた名前は」
「僕はフュン。フュン・メイダルフィアです」
「……フュンさんか・・・それじゃあ、俺はあなたを大将としてフュンの旦那として敬います。これからよろしくお願いします」
ヴァンはフュンの顔を見てから、深く頭を下げた。
「
ララも同じく、フュンに忠誠を誓ったのである。
「いやいや、そんな大層な・・・僕らは仲間になるだけですよ・・・って、ん!?」
「フュンさん! 三名の呼吸が!」
「わかりましたメルン。今、いきます。その人たちの所に急ぎましょう。どちらの部屋ですか」
「こっちです!」
「はい。いきましょう。あ、そうだ。ピカナさん。あとでササラの病院に何名か入院させてください。ここの人たちで重症の人をお願いします」
「……は、はい。わかりましたよ」
「ええ。その手配等もお願いします。あと、船の準備をしたいので、ヴァンとララを解放してくださいね。ここの人たちを助けます」
呼び出しをもらい、フュンはその場を後にした。
「あいつ、何言ってんのさ。助ける??」
ミランダの前にニールが現れた。
「殿下、さっきまでここの人たちを治療してた」
「は?」
「みんな、元気にしたいんだって」
「ナハハハ。そういうことか。だからここの現地の人間ともああやってやり取りしてんのさ。あの女の子もずいぶんあいつに懐いている感じだったのさ」
ミランダは腹を抱えて笑っていた。
敵の本拠地に単独で潜入して敵を仲間にする。
そんなことが出来るのはフュンしかいないと涙まで出して笑っていた。
「さすがですね。フュン君は。ミランダも面白い人を弟子にしましたね」
「ピカナも思うか……全く、前の二人の弟子とは違う男だわ・・・あいつはさ」
少し変わった王子の背を見て、二人は感心していた。
「感謝します。旦那・・・俺たちの家族を救おうとしてくれて」
「ええ。私もですわ」
二人は隣同士で、フュンに感謝を呟いて静かに泣いた。
◇
その後。海賊たちは解体となり、ササラの住民となる。
今まで盗んできた食糧分を働いてもらうために、海賊たちは各々の得意分野の仕事に就いた。
手先が器用だった者は、造船業へ。
船の操舵が上手かった者は、漁師か海軍へ。
戦いが出来る者は、海軍へ。
それぞれが自分の得意な分野へと移行していった。
ちなみに病院に行った者たち、フュンの治療を受けた者たちは皆、順調に回復していき、無事に仕事へと就くことが出来た。
「旦那! あなたのおかげで普通の暮らしが出来ました」
「私もですわ。私もあなた様のおかげで、平和な暮らしを」
「ええ。良かったですよね。皆さん、良い顔ですよ。これからはササラと自分の為に生きていってほしいですね」
第一声に褒めてくれる。
そんな男の為に二人は生きると誓った。
「それに二人がいれば、ピカナさんも安心だ……ササラの海は安全になったようなものですもんね。うんうん。あ、それと僕だって安心してますよ。君たちは僕の大切な仲間ですよ。あははは」
これがフュン部隊の切り札の一つ。
ウォーカー隊の特殊部隊。
強襲部隊ヴァン隊、ララ隊の隊長。
赤き海人ヴァンと、鬼の貴婦人ララとの出会いである。
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