第5話
摘むからに 散りて過ぎゆく わすれぐさ いつかあきやと 月の霜をや
◇
「
「――そうか。こちらへよこせ」
宣耀殿女御は
しかし、それもむべなるかな。
今上帝には関白の妹である
いかに右大臣家の姫君であろうと、親子ほどに歳の離れた新参の女御が入りこむ隙は、残酷な程に狭い。
慟哭を帝に訴えることもできず、友人に歌を贈り慰めとするより他ない、やるせない女御の心中を思うと、祥姫は痛ましさで胸が塞ぐ。
自らが望んだ訳でもないのに、勝算のない戦いへと身を投じる。
権門の女は皆、その理不尽に組みこまれる定めにあるのだろう――。
◇
――――
宣耀殿女御:後宮の殿舎である宣耀殿を与えられた帝の妻
から:〜とすぐに、〜するそばから
いつか:いつのまにか
あき:「秋」と「飽き」の掛詞
月の霜をや:月の白さを霜と見誤るのは
入内:帝、あるいは東宮の妻として後宮へ入ること
中宮:帝の后。平安中期以降、皇后宮とほぼ同格となった
皇后宮(皇后):帝の正妻
本歌:今夜かく眺がむる袖の露きけは月の霜をや秋と見つらん
●今夜、このように袖が露に濡れたように涙で濡れているのは、この月の光の白さを霜なのかと見紛えて、早くも秋が来たかと思ったからでしょうか
(後撰和歌集 夏 読人知らず)
※拙作『姫君と秘密の恋人の文が見つかってから』からのスピンオフです。今回の忘れ草歌群を着想したのは、そもそもこちらが発端でしたので、掲出させていただきました。宣伝です(*ノω・*)テヘ
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