続 スーパーGTに女性ドライバー登場パート2

飛鳥竜二

第9話 スーパーGT 鈴鹿

※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。今回の前段を読んでいない方は「カクヨム 飛鳥竜二」で検索していただき、読んでいただければと思います。


 九州からもどってきて久しぶりに自宅で母親の家庭料理を食べることができた。と言ってもカレーライスである。母親のカレーは不思議な味である。最初は甘口だと思うのだが、食べ進めているうちに辛みを感じるのである。母いわく

「私は新潟出身だからね。バスターミナルのカレーの味がしみついているのよ」

 ということである。

 6月初め、鈴鹿サーキットにやってきた。今年はQ1・Q2の合同タイムが予選タイムとなる。予選日は快晴。コンディションはいい。Q1は山木がでていった。サクセスウェイトは18kg。50kgを越えているマシンもいるので、少ない方の部類に入る。山木は前回のオートポリスでタイヤをバーストさせてチェッカーを受けることができなかった。気合いの入った走りをしている。結果は1分46秒141で5位につけた。山木が降りてきて朱里に話しかける

「Q2はタイムが落ちるが、がんばれよ。オレから0.5秒落ちなら立派、1秒落ちなら合格。それ以下ならお仕置きだな」

 とプレッシャーをかける。タイヤは決勝までもたせないといけない。攻めの走りはできないので、周回数を減らすことにし、残り5分でピットを出ることにした。

 2周目アタック。マシンの調子はいい。S字を思うように走れる。後ろで砂煙が立っている。だれかがコースアウトしたかもしれない。前にマシンはいない。ヘアピンも思ったように走れた。それでスピードをのせてスプーンコーナーに入ることができた。コーナー出口でゼブラゾーンに乗る。ぎりぎりか? それでも130Rをノーブレーキで抜け、シケイン突入。快心の走りができた。だが、ゼブラゾーンで左タイヤがオーバーランしていたらノータイムになってしまう。あと1周は走れる。アタック2周目に入ったがS字でスロー走行しているマシンがいた。これでは自己ベストはのぞめない。そこにチームから無線が入った。

「朱里、タイムはOKだ。もどってこい」

 ということだった。そこでアクセルをゆるめ、ピットにもどった。

 ピットにもどると山木が近寄ってきて

「タイムは1分46秒798だ。0.6秒落ちはまずまずだな。それにしてもスプーンコーナーはきわどかったな。ビデオを見てみろよ」

 と言われ、モニターを見ると左タイヤがかろうじてラインに残っていた。

「後3cmだな。朱里の3cmということか」

 と、サッカーの三苫の1ミリと同じような言い方をしていた。

 予選は5位に入った。前回リタイア組としては上々のできだ。ただ、明日の決勝の天気予報はあまりよくない。ちょっと心配だが、朱里はいい走りをしたので、ゆっくり寝ることができた。


 日曜日、午前は雨だった。ウォームアップランではウェットタイヤを試した。だが、決勝前に雨はやんだ。コースは濡れている。どちらのタイヤを選択するか悩んだが、山木はスリックを選択した。山木が朱里に話す。

「今日はオレが先に行く。タイヤが心配だ。1時間もたずにもどってくるかもしれない。その時は、朱里頼むな。そして最後はオレがしめる」

 と前回のオートポリスのタイヤバーストを思い起こして、二度とそういうことを起こさないという意志の表れと朱里は思った。


 決勝スタート。スタートポジションにいたマシンの下だけが濡れている。すぐに乾くと思われた。気温24度、路面温度31度。雨が降ったせいで昨日よりは路面温度が低い。タイヤがあったまるのが遅くなる。

 山木は無難にマシンをコントロールしている。後ろにいる前回優勝のN社3番にせっつかれる。でも、むこうは重いサクセスウェイトに加え、燃料制限までかかっている。ストレートは山木の方が速い。だが、山木がタイヤで苦しんでいるのは明らかだった。

 21周目、雨粒を感じた。だが、コースが濡れるほどではない。山木はそのまま走ることを決めた。

 22周目、とうとうN社の3番と12番に抜かれてしまった。

 23周目、山木はピットインを決めた。朱里に交代だ。ピットインをしたマシンのタイヤはボロボロに近かった。このタイヤでよくぞ走ったものだと朱里は思った。ピットアウトすると14位で復帰した。GT500の中では一番最初のピットインだから無理はない。

 28周目、本格的な雨が降ってきた。観客はひさしのある場所に移動したり、カッパを着始めている。だが、路面はそれほどでもない。他のマシンは続々とピットインをしている。だが、ウェットタイヤに換えるチームはいない。皆、通り雨と判断したようだ。

 32周目、案の定雨はやんだ。全車ピットインが終わって順位が確定してきた。朱里は4位にあがっている。早いピットインが功を奏した。朱里はペースをつかみ順調に周回数をこなす。

 41周目、とんでもないことが起きた。シケイン入り口でN社の23番に追突されたのである。朱里は突然の衝撃を受けて、パニック気味になった。ピットレーン入り口は過ぎている。無線が入り、

「朱里、リアが壊れている。次でピットに入れ」

 と言われ、何とか1周走ってピットに入った。朱里がピットに入るとFCY(フルコースイエロー)が出された。ピットクローズである。

 マシンはガレージにいれられた。リアカウルだけの損傷だけかもしれないと思われたが、メカが点検するとフロアまで歪んでいる。ここで修理はできない。無念のリタイアである。山木も朱里も無言だった。

 後でビデオを見ると、N社23番はシケインで前のマシンを抜いた。抜いたところに朱里のマシンがいたのだ。オーバースピードでシケインに突入したので、ブレーキが間に合わず、朱里にぶつかったということだ。23番は後でペナルティを受けていた。

 次のスーパーGTは、8月の富士。チームは修理とテストに明け暮れる。山木が、

「GTマシンはオレが責任をもって仕上げる。朱里は思う存分ルマンを走ってこい」  と声をかけてくれた。

 翌日、朱里はマネージャーの凛とともにヨーロッパに飛び立った。ルマンは2週間後だが、1週間前からルマンウィークが始まる。世界中の人が集まる一大イベントの始まりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る