(9)――嫌な予感がした。

 それから三日分の「今日」待ち続けたが、猫塚君が河川敷に姿を見せることはなかった。

 私が軽率に吐いてしまった言葉で、どれだけ彼を傷つけてしまったのだろう。

 不安と罪悪感で喉を締めつけられているような気分になる。しかし、彼は私の言葉によって、もっと不快な思いをしたはずなんだ。

 謝らなくては。

 そう決意し、私は猫塚君の家に向かった。

 猫塚君の家には、どれくらいか前の「今日」に行ったことがある。おすすめのレトロゲームを教えてもらって、一緒にそれで遊んだのだ。

 少し迷子になりながらも、辿り着いた猫塚家。

 震える指先でインターホンを押し、しばらく待つ。

 しかし、家の中から物音ひとつしない。

 もう一度、ベルを鳴らす。

 やはり、反応はない。

 居留守されていたら、もうどうしようもないのだけれど。結構な時間を共に過ごしてきたからこそ、猫塚君はこういう状況でも、居留守だけはしないとわかっていた。だから、わかる。この家は無人なのだ。誰も居ない。

 嫌な予感がした。

 最悪の予想が、脳裏を過る。

 いつかの日に聞いた――本当に遠い過去のように思える――猫塚君の言葉が思い出される。

 ――その人たちとも、こういう交流会みたいな場を設けてたんだけど、ある日、突然来なくなったんだ。

 もしかしなくとも、猫塚君もそうなったのではないだろうか。

 脱出なのか、消滅なのかは、結局わからないけれど。

 とにかく、猫塚君はこの繰り返しの「今日」から居なくなった。

 他に、仲間は居ない。

 私だけ。

 私一人だけが、「今日」を繰り返す。

 猫塚君は、一人だけの「今日」を半年は繰り返したと言っていたか。果たして私は半年間も孤独に耐えられるだろうか。次の仲間が現れるかどうかもわからないのに。

 一人は嫌だ。

 寂しい。

 怖い。

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