第26話 聖女戦 其の1

 パーティー「臥竜天昇」は聖女戦の前日まで意見が揺れていた。その理由はフカセツさんと奴隷が掲示板で集めてきた

・護衛のレベルは推定30~40ぐらいらしい

・今回の戦いは聖女ちゃん自ら決断したらしい

という二つの情報に起因する。


 ここから導き出されることが二つ。そもそもレベル30を超えているのが私とリュティしかいないためそもそも勝率が低いということと、聖女が対PKer専用お仕置きNPCではなく聖女のAIがその判断で決めたのだとしたら、私たちが狩場を別の町に変えることで解決できるのではないかということである。

 そしてこれにより狩場の移動を申し出たのがフカセツさんと奴隷。


 「キルされたときに特別なペナルティが用意されている可能性がある以上、一度拠点を移して様子を見るのがよいのでは?」


 「そ、そうっすよ!へんた………ゴホンッ、有志が何度か戦いを挑んでますけど、いまだに護衛を突破できた人はいないんですよ!?」


 二人の心配はよくわかる。だが、そのうえで私はそれらの意見を押し切り聖女たちと戦うことに決めた。理由?特にないけど、ほら


 「急に来て邪魔してくる奴らって、ムカつかない?」








 ホーム二号(仮)の中で聖女と対峙する。フカセツさん曰く、掲示板で一通り探してみても知り合いに聞いてみても、聖女本体の強さはわからなかったそうだ。というか、聖女までたどり着けた者がいないらしい。有志という名の変態さん方にはレベリングして出直してきてほしいものである。

 護衛隊の上に立っている以上護衛隊よりも強いのか、それとも本体に戦闘能力は皆無で、サポート特化であるからこそ護衛隊に守られているのか。私たちはその両方を想定した案で行く事にした。

 聖女がサポート特化である場合、護衛隊という前衛三人に聖女という明らかに特殊なサポート職が付く強パーティーを相手にすることになる。連携攻撃なんかもしてくるかもしれない。よって分断するのが望ましい。そして、聖女が仮に相手の四人の中で一番強い場合、それは最低でもレベル40以上となるわけで、そうなってくるとこちらの最高戦力である私が相手をするのは当然と言えるだろう。



 「憤怒」


 そして、これらのことを踏まえて最初から本気で行く事に決めた私はスキルを発動し、聖女に突撃を開始する。


 「ホーリーショット!」


 聖女の手から放たれる光弾を回避し、距離を詰める。


 「ッ!」


 一瞬驚いた顔をした聖女だが、構わず岩竜のナイフを振りきる。

 しかしそれは聖女には届かず、聖女がいつの間にか持っていた銀色の錫杖で防がれてしまった。


 「なんで教会の聖女が錫杖持ってんだよ………」


 「神杖カカラ。主より賜りしこの杖は、十八の能力によりどこに居ようと私の呼びかけに答えるのです」


 「さようですかッ!!」


 錫杖と競り合っているナイフに大きく力を入れて後ろに飛び、大きく下がった私は秋月のナイフを取り出し左手に持つ。

 私は本来二刀流では戦わない。私はあまり別々の行動を同時に行うのが得意ではないので普通に戦っていると段々と攻撃が単調になってしまうからだ。しかし短時間ならば話は別。意識をすれば二刀も扱えないことはない。少し疲れるが、聖女をここでキルすることの方が大切である。


 「三の技・聖法衣」


 聖女がそう呟くと、その体が光に包まれる。光方的に恐らくバフ系統だと思うが、見たことも聞いたこともないバフだな。そういうスキルがあるのか、それともさっき言っていた十八の能力がどうとかいうやつなのか。

 両手にナイフを構え、聖女の次の行動を観察し様子見をしている私に聖女が杖を構えて突っ込んで来た。


 「近距離やれるのかよ!!」


 思わず叫びながら応戦する私と聖女の錫杖が火花を散らす。手数は私の方が上だが、リーチは相手がやや長い。そして何より聖女のパワーが思ったよりも強い。バフの効果か?

 私の攻撃が聖女に止められ、聖女の錫杖を私が受け止め、右へ左へ剣戟を交わしていると、ふいに聖女が呟く。


 「十の技・聖手」


 瞬間聖女の左手が光りだし、聖女がさらに肉薄してくる。岩竜のナイフを右手に持った錫杖で強引にはじき、光った左手で渾身のストレートを放ってきた。


 「がはっぁぁあ!!」


 吹き飛ばされる直前に放っていた秋月のナイフが聖女の肩を軽く切りつけるが、私はそのまま吹き飛ばされ、家の壁を突き破り外に放り出される。見ればHPが残り一割を切っていた。


 「ゴリラじゃないか!!!」

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