第19話 悪だくみ
「うわ、でっかい」
それがリュティとツヴァイの町に来て初めて出た感想だった。首都のようなものだと聞いていたからある程度大きな街なのだろうと覚悟していたが、それにしても想定外だ。まず目に入るのはでかでかとした城壁だ。ドゥルグ村には簡単な柵しかなかったというのにその数十倍は………いや、もはや比べるのもおこがましいレベルだろう。ところで、ドゥルグ村はレベル90のイノシシとかレベル100越えのロックドラゴンがうろうろしているのだが、それよりはるかに巨大で頑丈そうなこの城壁はいったい何から身を守るためにあるんでしょうね。え?レベル30弱のモンスターたち?………ほーん。
そして城壁をくぐった先にあったのはこれまたThe・ファンタジーの町といった中世風の街並み。ただしアインスの町と大きく違うのは大きな城とそれに負けないほど大きな建物がもう一つあるところ。リュティ曰く「宗教のなんか」らしい。リュティは意外にも聞けば色々教えてくれたりする。周りにあまり興味なさそうにしているサイコロリでもこの世界の知識に関しては私よりも数段多いということだろう。
そしてこの町に来て、さてどうしようかと考えていると何やら治安の悪そうな場所に連れ込まれた。いや、連れ込まれたというよりは案内されただけなのだが。どうやらここには大きなPKギルドが二つあるらしい。どちらかに入るかと聞かれたが、もちろん答えはノーである。
「で、どうするの?アヤ」
ツヴァイの町について一通りの説明を受け、ひとまず治安悪いエリアのNPC酒場で休憩していると、リュティからそう切り出される。
「うーん、リュティはどうしたい?というか、リュティは今までもPKをしていたんだよね?どういう感じでやってたの?」
一応何となくやってみたいことはあるのだが、リュティの意見も聞いてみることにする。
「んと、今まではドライの町で強そうな人を見つけてフィールドで攻撃してた」
まぁ、私が言えたことではないけどきっとやられた方は堪ったものではないだろう。
「それと、私はアヤのしたいことがしたい………かな?」
顎に軽く手をやりながら上目遣いでそんなとこを言うリュティは本当にかわいらしくて思わず触りたい衝動に駆られる。いや、触りたいといってもあれだからね?エッチなのではなく愛でるタイプの、なでなで的なあれだからね?
というか、ツヴァイへの道中あたりから薄々感じていたがリュティの私への好感度がやたらと高い気がする。特に何かをした記憶はないのだが………まあ、好感度が高い分には私は一向にかまわないので深くは考えないことにする。
そして、私のやりたいことがしたい、ね。では遠慮なく提案させてもらうとしよう。
「確認だけど、この町にはPKをメインにしている悪ーいギルドが二つあるんだね?」
「ん、他にもあるかもしれないけど、主には二つ」
その言葉に私は口角を吊り上げ、狙って不敵な笑みをつくりながら告げる。
「じゃあさ、そのどっちか潰しちゃおうよ」
「………正気?」
いきなり変なことを言う私に怪訝な顔で問うてくるリュティに私は至極まじめだという風な顔で………いや、すごくにやにやした顔で
「いやほら、だって悪いことをしてる組織があるのならやっぱり正義の使徒たる私たちとしては潰さないと~」
「なるほど、同業者は沢山いらない、と」
そう言いながら楽しそうに笑顔を浮かべているリュティ。私もリュティもアバターはロリ体型だから、話している内容にさえ目をつぶれば少女たちの楽しげな談笑風景である。
「で、潰すといってもどっちを潰すの?」
「ああそれね………えっと、PKギルドの名前って何だっけ?」
「「epic of murder」と「姫とナイト♡」だよ」
「よし、前者にしようエピックオブ………長いな」
「通称はエピオらしい」
「急にダサくなったな!?」
ん?前者の理由?名前がかっこよくて気に入らなかったのと、後者の地雷臭が凄まじかったからだが??なんだよ姫とナイトって、ハートをつけるんじゃないよ………。
「わかった、じゃあつぎ、どうやって潰すの?」
そう問うリュティに私は再びにやりと笑う。
「直接殴りこむに決まってるでしょ。私たちは前回イベントの二位と三位だよ??」
慢心なんてして当たり前。私の中では「私別にプレイヤー最強じゃない説」が出ていた気がするが、それはそれである。
「それにほら、私たちはいうなれば悪の組織を倒しに行く正義の使徒だからさ、正義は勝つものでしょ?」
「ん、確かに」
いや、そこは納得せずにツッコんでほしかったな………。
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