第17話 PK

 「っぐ!!」


 いきなり何者かに攻撃を受けた私は全力でその場から飛び退き、攻撃を受けたであろう方向から距離を取る。ちらりと自分の体力を確認すると八割ほど減っていた。路地裏とはいえここはもちろん街中なのでモンスターの襲撃ということはないだろう。であるならばNPCか───


 「プレイヤーか!!」


 そう結論付けて襲撃者の方向を確認すると、美少女がその体には少々不釣り合いなほどのサイズの大剣を担いで立っていた。いやはや、それにしても助かった。まさか大剣で奇襲を受けるとは思っていなかったが本来ならこの一撃で終わっていたのだろう。ここに今私が立っているのはひとえに高レベルによるHPの暴力ゆえである。体力にもそこそこポイントを振っておいてよかったと安堵しながらナイフを握りしめる。すでにお互いに姿を現しているため「隠密」は使えないが、どれくらいあるかわからないレベル差を頼らせてもらうとしよう。


 「あれ?死んでない?」


 「残念ながらね。ところで、私が襲われた理由なんかはあるのかい?」


 「んー、特にない?………しいて言うならさっき秋月のナイフ?を持ってたから………?」


 口元に一刺し指をあて首をコテンとしながら答えるその少女にサイコロリの空気を感じながらも気になったことを問う。


 「秋月のナイフって、あれ限定品じゃないの?なんでわかったんだい?………他にもあるの?」


 「………多分、秋月シリーズってデザインは一緒なんだと思う。私の秋月の大剣も同じような柄だったし」


 おぉう。今結構なカミングアウトがあったな。つまりなんだ?この推定サイコロリも前回のイベント五位以内だと?あれかな?もしかして世界って狭いのかな?


 しかしあれだ、であるならばプレイヤーの中でも割と強い部類の人間だということだが………あれ、これ勝てるかな?一気に自信がなくなってきたぞ。


 まあやるしかないのであれば仕方がない。相手は大剣だから取り合えず何とかして肉薄して、近距離戦に持ち込む方針で行こう。「憤怒」は………まだいいや。


 「「ヒール」「ヒール」「ヒール」」


 「ヒール」を三回も使って何とか体力を全快させる。私のヒールのスキルレベルは5だった気がするのだが………やっぱりすごく効率悪いなこれ!?INTにもステータスを振っておくべきだったか………。そしてこの一瞬で私のMPが半減してしまった。


 「付与エンチャント:速度強化」


 例の微妙強化を施しつつ横薙ぎに振るわれた大剣を体を地面にほぼ密着させるほどに屈ませて回避する。そして大剣が私の頭上を通り過ぎた瞬間。


 ドンッ!


 一気に加速して距離を詰める。踏み込みの音が想定外に大きくてびっくりしたが、距離を詰めることには成功した。


 「ッ!?」


 私の速度が想定よりも速かったのか、踏み込みがうるさかったのかはわからないが驚いた顔をしている少女に向けてナイフを振るう。


 「ふぉ、「フォースウェイブ!!」」


 少女がそう叫ぶと、大剣から衝撃波のようなものが生まれ横からの衝撃に私は吹き飛ばされるが、すぐに立て直し再び突撃を敢行する。少女は一度振り切った大剣を再び私の方に振り始めているが、距離と時間的に私が少女に肉薄する方が数瞬速い。そう判断した私は踏み込み、距離を詰める。

 おおむね想定内な状況に、迫る大剣を視界の隅におさめながら私は少女の首を掴み路地裏の壁に叩きつけた。


 「っぐぅ!!」


 そう声を上げながらも大剣を振り抜こうとする少女。しかしその不完全な態勢と踏ん張りのきかない状況から放たれた大剣など私の高レベルのSTRによってナイフでも止めることができる。

 ギャリィ!!という音とともに大剣を止めた私はとどめを刺すべく動こうとして。


 「こ、こう、さんっ!!」


 動きを止めた。


 「へ?」


 こうさん?高3?………降参?そっちから仕掛けておいてそんなことが成立すると思っているのだろうか?そう思い少女の顔を見ると、少女は少女で私の動きが止まったことに驚いているようだった。いや、自分で言っといて驚くのか………。


 「えと、降参?そんなことが成立するとでも………。」


 「うん、こうさん。あなたが思ったより強かったから」


 左様でございますか。うーん、どうしよう。一応倒しておこうか?でも仮にも美少女アバターにここまで素直に話をされるとどうにも、いやしかし………。


 「というか、そんなに強いなら一緒にPKするべき」


 少女のその言葉は私に衝撃をもたらした。PK、そうだ。PKだ。そういえば私のはじめのコンセプトはそんな感じじゃなかっただろうか?他のゲームでのプレイスタイルと違うし、何よりあの時は変なテンションで決めてしまったので若干後悔をしてしまっているが、確か美少女暗殺者を目指していたような気がする。


 「でも今はもう若干どうでもいいんだよなぁ」


 「?」


 私のつぶやきに首をかしげる少女に向けて問を投げかける。


 「君はなんでPKとかやってるの?………そういうコンセプト?」


 「うーん、なんとなく?ほら、リアルじゃ人を殴ったら怒られるけど、ゲームだと人を殺しても大丈夫でしょ?だから、せっかくならやろうかなって。………ちょっと楽しいし」


 うーん、このサイコロリ。大丈夫かな?ちょっと危険なにおいがしてきたぞぅ。


 「ふふふ……でも、まあいいか。うん、いいよ。一緒にいっぱい悪いことしようか!!」


 「?うん!」


 そうだ、どうせならリアルじゃ絶対にできないことをやろうじゃないか。


 「じゃあフレンド登録でもしようか。私はアヤ。君は?」


 「リュティ、よろしく。アヤ」


 そう言いながら手を差し出してくるリュティ。今ここに美少女PKerコンビが誕生したのであった。

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