僕という花は
塚野真百合
第1話
僕と言う花に注がれた水と言う愛情は、とても苦くて甘くはなかった。
アイツが、僕にくれた水は最初こそ甘く染み込んだけど、今の僕には味を変えても、染み込んではこない。
もうこの部屋にも、花と花瓶にも似た僕らの関係に未練なってない。
「別れようと思う」
ポツリと、誰も居ない空間に呟いた。
もうさぁ…
持ち続けるお人好しにも、疲れた。
マジで素に戻って、何でも許せてしまう自分が、アホ過ぎだと笑うしか出来なくて最終的には、泣けてきた。
そう言えばアイツとは、どんな出会い方だったけ?
些細なことだったと思う。
まだ学生の頃に受けた講義で、たまたま隣同士になったとか…
そんなオチだろうけど、もう色々有りすぎて忘れた。
多分。
思い出せないのは、出会ってから今までの間に12回も別れては、また寄りを戻すを繰り返してきたからだと思う。
何だよ。
12回目って…
流石にアホ過ぎるだろ? 自分…
もしかして、謝っておけば許してくれる…チョロいヤツ的に思われてた?
それに、よくもまぁ…12回も別れては、また付き合うを繰り返して許してきたものだ。
ただこの頃、互いに好きとか愛してるとか言う前の肝心な気持ちが、だいぶ薄れてきたように感じてた。
それでも僕は、無意識に好かれようとアイツが、少しでも居心地よく過ごせる空間を作っては、『仕事が、忙しくて』と、ちっとも戻ってこないアイツに腹を立てた。
「いい加減に気付けよ。ロクでもないヤツなんだって事に…」
僕は、アイツの身内でもないし。
世話する義理もない。
それでも、待っている間や帰ってきた瞬間のアイツの顔を見ると…
全てが、どうでも良くなって…許してしまう。
典型的なダメ男と、そのダメ男を待つアホになる。
アイツは、自他認める程に私生活は、だらしなくて1人では、生活水準なんって保って居られない。
年中誰かに寄生しては、衣食住の食だけを養おってもらおうとする意外は、自分で学生時代に立ち上げたシルバアクセの仕事で工房兼お店で、一応真面目に仕事をこなしては、常に自分の利益になることしか頭にない。
「気付くの遅すぎ…」
アホらし次いでに…泣けた。
一頻り泣いて、踞って寝落ちして…
それから一晩経って、妙にスッキリと目が覚めた。
自分でも、ちゃんとバカだと気付けたことが、デカくて、こんなヤツのドコが、好きだったのか?
何で好かれようとしたのか、冷静さを取り戻した僕には、アイツがチラつかせてい幻滅と交互にやってくる心地よさに侵食されていたんだと、改めて気付かされた。
用意された水 ー 愛情 ー は、程よく甘く。
いかにも、その水が素晴らしいと信じ込まされていた。
こんなに味の酷い水は、ドコにも無いって言うのに…
笑い話にもならない話しを、放り投げて僕は、その場から立ち上がる。
屈伸運動でもするようにして、大きく伸びをする。
「…さてと…」
幸いここは、自分の部屋じゃないから荷物なんってないし。
あって、少量の服ぐらい?
学校帰りに立ち寄ったに過ぎないから。
ノートや筆記用具や数冊の参考書が、入れられただけのリュックの中に小さく畳んで、少量の衣類を詰め込む。
ほら。
涙なんか、出ない。
寧ろ。
笑みが、溢れるぐらいだ。
痩せ我慢かなぁ?
冷静な自分が、考える。
答えは、出てこない。
それでも、いいよ。
後は、この部屋を出るだけだもの…
玄関に目をやる。
昨日は、午後から受けるはずだった講義が、突然なくなり。
暇を持て余して、この部屋にいつ居ていたんだっけ?
ご飯に何を作るかとか、考えて居たら。
アイツは、帰ってきた。
それも、かなりの可愛い女の子と…
「…えっ~と?…」
困惑する僕と、キョドるアイツと連れの子は頭に ? マーク。
必要以上に、密着するよう組まれた腕。
知らないふりして、笑うしか出来ない僕は、惨めだった。
「あっ…ゴメン。勝手に入ってた。他のヤツらは…先に帰ったから」
何って、作り話にも程がある話を、さも本物のように語った。
良かった。
夕飯とか…作っていたら入り浸ってる “ トモダチ達 ” には誤魔化せないから。
「あの…ちょっと、待ってて…」
アイツは、連れてきた女子を一旦、玄関から出してドアを閉めて、僕に向き直す。
「えっと、今日来る予定だっけ?」
僕は、静かに首を振る。
「なに? 新しい彼女? 見たことない子…可愛い子だね…」
通算13回目の浮気発覚。
内訳。
今みたいな鉢合わせが仕事場と部屋の計3回。
即修羅場に突入が、2回。
今の逆が、2回で怒鳴られたのが、1回。
街中で、見かけて気が付いた相手が、僕を殴り付けるが、1回。
あの日は顔、腫れたっけなぁ…
同じ日の同じ時間で、同じ待ち合わせ場所での未知との遭遇が、4回。
内、3回は、素通りしてやった。
後の3回は、何だったかなぁ…
多分。思い出したくないのかも知れない。
それで、僕を本命とか言うけど、他の子に本命って言っている事は、容易に想像ができる。
僕以外の誰かと修羅場っている可能性は、有り得るわけだ…
相手が、男であろうが女だろうが、相手にとっも僕にとっても、浮気は浮気だ。
昔のじいちゃん世代の修羅場ソングって言うか、浮気ソングって言うか…
そう言うのあるらしいけど…
冷静に考えれば、3年? 3回…だろうが、13回目だろうが、許せるかよ。
ホント。
今更だけど…
僕は、アイツにも自分にも、甘過ぎた。
あぁ…
本当に、好みな顔に見境ないと言うか、バカ正直と言うか…
僕も、人のこと言えた義理ないけど…
こう修羅場を、何度も体験していると修羅場が、遊園地のアトラクション並みの感覚になるから不思議だ。
昔みたいな驚き方は、もうしない。
「あの。あの子は、その仕事で紹介された子で…会うのも、数回目? 本当に何も無い。本当に仕事の延長で、俺の描いたアクセのデザイン案を見たいって…」
「店の方にじゃなくて…」
「えっと?…そのプライベートな…案件で…」
疑問系の上に、早々にお持ち帰りしたと?
大胆だねとは、言わないけど…
最早、ここに居る意味ない僕にアイツは、自分が相手の子に適当に言い包めて、今日は別の所にでも行くよ。と気まずそうに、振り向きもしないで僕に言い放ち。
そして、止めの一撃。
「帰ってきたら。その話したい事があるから。ちゃんと話そう!」
…で、出ていった。
“ 何を、話すんだろう? ”
僕と違って、男でも女でも、どちらも選べるアイツと、好みがあっても同性しか選べない僕とでは、最初から釣り合わなかったんだ。
アイツにとって、今の相手が最後になるのか…
それとも、また別の誰かを連れてのか…
他人事の僕は、僕の知らない所でアイツらが、修羅場を迎えて欲しいと切に願った。
気持ち的に全部今日で、終わらせてやるって思えたら。
胸が、締め付けられた。
気持ちに、酔っていたんだろうな。
失恋でもしたかのような、この場の雰囲気と自分にもさぁ…
僕は、不幸なヤツだとか…
都合よく。
なんで、こんなヤツに好かれて、自分も好きになったのか…
今、思えば、初カレに近いものがあったから。
周りがよく見えてなくて、初めての事だらけの駆け引きも、うまくなくて…
でも、昔みたいに追ってばかりでも、悪い方に勘違いされるだけだから。
今は、このまま乗り切ろう。
無かった事にして…
それなのにアイツは、僕を好きだと言い。
アイツは、居心地がいいと、思わせてくれる人に思えた。
でも、違った。
僕って言う花を側に置いたのは、殺風景な部屋を飾るため彩るためと言う事よりも、なんって言うか…
自分を、かまってくれる人で、無償の愛情をくれる人…
その上で、自分の好みなら尚更いい。
そんな感情だけで言えば、本音は薄くなり。一時の思いと行動は、人を平気で裏切る。傷付けるなんって言葉は、まだ優しいのかもしれない。
じゃ本音は?
言えた試しがない。
怖くて、言えなかった…
それもまた…
こうなった原因かも、知れない。
素直になれば、良かったのかなぁ?
素直さを、否定するようなヤツじゃないと、分かっているけど…
それこそ本音は、アイツを愛してた。
自分が思い付く限りの優しい言葉は、その一言。
過去形なのは、もう側には居たくないから。
とっくの前から。
未練なんってなくなってて、誤魔化して見ない振りして、一緒に過ごしてた。
僕にだって、この恋愛を振り返ってみて、恥ずかしいぐらいの気持ちや感情はあるよ。
最初のうちは、どう想いを表現していいのか分からなくて誤解したり。されたりで、そこから1つづつ作ってきた想いなだけに何か複雑で、納得したはずの別れなのに今一…
現実を、飲み込めいなくて…。
恋人と言えば、恋人。
友達と言えば、それ以上の想いがあって。
何だったのかなぁ?
僕達の関係は…
なんって他人事に思うは、僕だって他の誰かよりも、アイツの愛情が欲しかったのかもね…
干からびたくない花の僕と、そんな花達を飾りたがるアイツとは、自分で作り続けた甘い水を満たし行き場を制限された花瓶みたいな関係だったと思う。
自分が居ないと、枯れちゃうよ。
みたいなこと、言われていたのかなぁ…
ベタだよね。
あぁ言う人が、マジで格好いいとか本気で思ってた自分が、バカみたい。
ホント。
冷静になれば、成る程に積み上げたものとか…
どうでも良くなって…
誰も帰ってこない部屋に1人取り残されて、フト目についた窓から見上げる空が、広い過ぎるのに僕が居る場所は、ドコよりも狭いアイツの手の内なのだと、思い知らされた。
あれは、いつだっけ?
数ヶ月前。
僕もアイツも、花に花瓶に水にと散々文句を言い。
不貞腐れたアイツが、半月も自分の部屋にも寄り付かなかった時が、最初。
今思えば、店の奥にある住居スペースて寝泊まりしてたんだろう。
で、その頃からだ。
どうでもいいと、ハッキリとした言葉が、思い浮かんだのは…
おそらく。
店か、それとも誰かの所にでも、行っているんだろうって…
付き合った最初の頃は、繋ぎ止めようと何でも必死になった。
掃除に洗濯。
アイツが、食べたいと言っていた料理に整理整頓された居心地の良い部屋。
全部。アイツのためにと思ってやった事が、全部無駄だった。
本当にバカだなぁ…
そんな事で、アイツを繋ぎ止めるなんって、出来るわけないのに…
アイツは、僕の目が変化した事に気付きもせず。
他の花に目移りしては、僕を花瓶から追い出し、甘い水を満たした誰も居ない花瓶に招き入れる。
そして、申し訳なさそうに僕の前に現れては、ゴメンと甘い顔で謝ってくる。
“ 誤解されるような事は、もう二度としない ”
毎回、似たような文言並べて…
ホント。
懲りないなぁ…
だから…
あの日の朝、慌てて部屋に戻ってきたアイツの顔を見るなり。
別れようって言ったんだ。
“ えっ ” みたいな顔して、目が泳いでた。
多分。
アイツは、僕がいつもみたいに許してくれるって思っていたと思う。
ショートでもした様な頭のアイツは、泣きそうな顔してた。
あぁ…腹が立つ…
最初に浮気したのは、そっちだろ?
それともこれが望んでいた日常的な馴れ合いとか…思ってる?
一緒に…向き合うのも、
一緒に…何かを分かち合うのも、
一緒に…過ごすことも、
僕の方から。
嫌になった。
そんなに、向こうがいいなら。
“ 他の花が、いいのなら ”
こっちに来るな…
偽善者顔して、僕の方がいいとか言わないで欲しい。
それで、そのまま姿を消した。
他の存在を匂わせて…
僕は、自らの花を枯らし…
水を捨てた。
13回目は、僕が振る番。
でも、アイツには、僕以上に苦しんで欲しい。
僕は敢えて悪者になって、その花瓶から追い出される様にアイツに仕向けたんだ。
別れ方が、最悪かもしれなくても、キレイな花ばかりに目が行くアイツは、僕と切れて楽しそうにやっているのかなぁ…って思っていたら。
共通の友達? 知り合いっての?
その人に、聞かされた。
って言うか、なんか…
その人達にさぁ…
やり直せとか、寄りを戻しなって言われた。
それって、なに?
友人や知り合いも、僕が別れないでモヤモヤしているのを見て別れちゃえって言っていたのに…
えっ…
コイツら。何考えてんだろ?
今回は僕が、悪者だから?
いや…
もう。
面倒見切れないし。
勘弁してくれって…
僕は、もう無理だと悟ったから花瓶と張られた水を捨てれたんだ。
そんなに心配しなくても、大丈夫。
直ぐに、僕みたいな花なんって見付かるよ。
『…そうなの?』
「そうだよ。見てなよ。直ぐに見付かるからさぁ…」
『ふ~~ん…』
「……………」
『アナタからしたら13回分の…恨みは、深そうね…』
「だね…」
そんな分かりきった事…
「もう、僕には関係ないよ」
にっこりと笑う僕。
でも、僕は知ってる。
魅惑的なその花達に飽きたり。
振られりしたアイツは、間違いなく僕を探しに来て、僕がアイツを無条件に向かい入れてくれると…
皆もそれを、見越しているから。
僕にそう声を、掛けていたんだろうけど、僕的には、もう無理だから。
この際とばかりに、ここから姿を消したんだよ。
「無茶言わないで、僕にだって選ぶ権利はあるよ」
自分を、キレイで甘い水の張った花瓶と思っているアイツは、また僕が戻ってきて慰めてくれると思ってる。
ホント。残念。
僕は、もうそこには戻らない。
あんまりにも、周りもアイツも、うるさいから。
見せしめに解約したスマホを、冷蔵庫の透明なウォーターピッチャーの中に水没させてきた。
散々。
僕を探し回って…
走り疲れて、渇きを潤せるはずのモノからソレが、見付かったら…
「アイツさぁ、どんな顔したのかなぁ…」
僕は、いつか遣り返した今を、後悔する事があるのかな?
いや…
後悔は、しない。
だって、もう会わないしい。
会う気もないから。
新しく買ったスマホを、握り締め僕は、一人歩き出す。
僕はね。
満たされただけの水は、要らないんだよ。
13回目で、終わりにしよう。
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