第十二話
約束を忘れるわけない。
忘れたことなど一度もない。
樋口くんの言葉から『約束』という言葉が出てくるとは思わなかった。
「うん、覚えてるよ!」
と余計な一言を言わないようにするのが精一杯だった。
「小さい頃の約束だったから忘れてるかと思った。」
と樋口くんの声が小さくなるのを感じた。
「覚えてるよー!忘れたことなかったよー」
と努めて明るく答える。
「約束がどうしたの?今日ご飯誘ってくれたのもそれが話したかったわけじゃないよね?」
と疑問をぶつける。
「いや、約束守ろうと思って!
再会した時からずっと思ってた。高校卒業する時に本当は付き合ってほしいっていうつもりだった。
でも勇気がなくて言えなかった。」
思いもよらない樋口くんから告白であった。
「うん…」
と私は相槌を打つのが精一杯であった。
「これからの人生のがずっと長い。
これから先何があるかなんてわからない。
でもその何があるかわからない苦労を倉敷と乗り越えていきたいと思ってる」
と樋口くんから告白されていることに気づく。
「とんちんかんなこと言ってたら申し訳ないんだけど!
私たち付き合うの?結婚するの?」
明らかにとんちんかんである。
「いや、結婚したいとは思ってるけど、今から急に結婚しますってわけにいかないから、付き合いたいと思ってる」
と樋口くんからちょっと重めな未来の求婚をされたところで
私は自分の置かれている立場を整理し始める。
なぜ今日お酒を飲まない約束をしたのか。
なぜ私は約束の話をされたのか?
なぜ私は樋口くんを前に動揺しているのか?
二つ返事で承諾すればいいのでは?
いや、待てよ!
これは何かの冗談なんじゃ?
こういう時、素直になるべきなのか?
『なんて答えるのが正解なの?』
と心の中でいろいろな感情がぐるんぐるんする。
「すぐに返事を貰おうと思ってないから、よく考えて!」
樋口くんはどこまでも優しい。
「わかった!
少し考えさせて!私も将来のこといろいろ考えたいから」
スマートな返事だったかはわからない。
でも今の私の精一杯の返答がこれだった。
そのあとにきた料理は味もわからない
食べ切ったのかさえわからなかったが
私は樋口くんから告白されたという事実だけ残った。
「返事は直接聞きたいから、答えが決まったら会える日連絡して」
おーい、樋口くんどこまでスマートなんだよ!
スマートすぎて今にも『お付き合いしてください』
と言ってしまいそうだったが私と樋口くんの未来を左右することだ!
そこはじっくり考えたい。
付き合ってやっぱり合いませんでしたは避けたい!
と揺れ動くシーソーのような感情を引っ提げて帰路に着くのであった。
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