第10話 心強いパートナー

 私は乙女ゲームの世界へ転移してきたことから何から何まで正直に全部彼へと話した。

 彼は終始驚いていたけど、彼自身がループした事実もあるため一切疑うことなくすんなりと信じてくれた。


⸺⸺


「あの……だから、アーサー殿下の前回のループでおっしゃっていた、印象に残っていたディアナと私は別人なんです……がっかりですよね……」

 私はそう正直に打ち明ける。

 きっと、アーサー殿下は私じゃなくて本当のディアナのことが……。


 でも、彼はこうハッキリと言い切った。

「だから何だ。俺は今のお前に興味があってここへ呼び出した、それだけだ」


「ふぇぇ……」

 あれ、おかしいな、いつまでたってもバッドエンドフラグが立たない……。


「あの立食パーティの時だって、最初はただ単に落ちていたこれを拾おうとしただけなんだ」

 彼はそう言って胸ポケットから私のタオルを取り出す。


「あっ、私があの時置いていった……!」

 私はカバンをガサゴソとあさるが、カバンの中に同じタオルは入っていなかった。


「そのタオル……持っててくれたんですね……ダメ元でも置いていってみて良かった……」

 私は嬉しくなって思わずはにかむ。

 すると、アーサー殿下はそんな私を見てたじろいでいるようだった。


「それだ……あのパーティの時もお前はそうやって頬を赤らめて嬉しそうにしていた。その、お前の……嬉しそうな表情が……忘れられなかった……」

「アーサー殿下も……顔真っ赤です……」


「仕方がないだろう……こんな気持ちは初めてなんだ……!」


 どうしよう……幸せすぎて……バッドエンドフラグが怖い……。

 そう思うと、気付けば涙を流していた。


「なぜ……泣いている? 俺の気持ちは迷惑か……?」

 彼はそう言って人差し指の背で涙を拭ってくれる。


「違うんです……アーサー殿下のことお慕いし過ぎて、前々回のループでまるでハニートラップのように殿下は出てきたんです。それで殿下に嫌われたくなくて無理してお酒飲んだら……バッドエンドだったんです……だから、今回もそうなんじゃないかって、怖くて怖くてたまらないんです……! うわぁぁん……やだよぉ、ずっとこのままがいいよぉ……」


 うわーん、と、まるで1人で抱え込んでいたものを全て吐き出すように泣きじゃくった。


 気付けば、アーサー殿下の胸の中にいた。彼はただただ強く、私のことを抱きしめてくれていた。


「これからは俺も一緒に時を戻る。だから、もしバッドエンドを迎えたとしても、その時は俺も一緒だ。一緒にバッドエンドを迎えて、一緒にやり直そう」


「でも……もし時を戻してもアーサー殿下の記憶に残ってなかったら……?」


「それなんだが……その『時戻りの懐中時計』とやらの説明書はちゃんと読んだのか? 魔具なのであれば必ず説明書があるはずだが……そこに俺も一緒に戻った根拠が書いてあれば、大丈夫だろう」


「説明書……?」

 私はカバンをガサゴソする。そして、1枚のカードのようなものを取り出した。

 そこには『時戻りの懐中時計の用法』と書かれていた。


「ほら、あるじゃないか。ちょっと見せてみろ」

 アーサー殿下はそう言って私からカードを奪い取ると、私も見れるような位置で止めてくれて一緒に眺めた。


「あっ……これだ……! そんな裏設定があったなんて……!」

「ヒロインの所持アイテムを身に着けた状態の者がいる時に発動すると、その者も一緒に戻る。以後、その者もこの時計の対象者となり、アイテムを所持していなくてもループ後の記憶も残る。なお、ヒロインと共にループできる者は1人までである……大丈夫そうだな」


「本当だ……ってかそのタオルあのダメアンに盗られなくて良かった~……!」

「ふっ……お前裏ではあの変態野郎のことダメアンって呼んでいたのだな」


「あっ、すみません……貴族としてはしたないですよね……」

「いや、俺も変態野郎と呼んだしな……ディアナ、これからは俺とお前は運命共同体だ。そんな気など使わず今みたいに素のお前を見せてくれ。俺は、もっとそういうお前が見たい」


「ふぇぇ……はい……」


 こうして私は、超絶心強いパートナーを手に入れたのであった。

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