第4話 思わぬ出会い
⸺⸺パーティ会場⸺⸺
私は形だけお酒のグラスをもらい、エミリアと乾杯をして一口だけ飲んだ。
これでこのグラスを持ったまま一口も飲まずに突っ立ってればいいんだ。
グラスが空かなきゃ次も注がれない。
「エミリア、ここに居たんだね、探したよ」
「ダミアン様! いらしてたんですね!」
来たな、ダミアンめ。前回と全く同じやり取りが始まる。
「あぁ、エミリアが行くという噂を耳にして、いてもたってもいられなくなってね……それでそちらがディアナだね? 可愛らしい女性だ……」
「初めまして、ディアナです……」
私は今回は営業スマイルも送らずにスンッと澄ましていた。
前回はここで酔いが回ってきてしまったけど今回は大丈夫だ。
でも事ある毎にダミアンは私へ話しかけてくる。エミリアの側を離れないほうがいいって思ってたけど、これだと逆にエミリアの嫉妬買わない?
寝取らなくても険悪なムードになるのはごめんだ。
私はここでエミリアにこそっと耳打ちをすることにする。
「私、あっちのお料理いただいてくるから、2人きりで頑張りなさい」
「ディアナっ。ごめん、気使わせちゃったかな……」
「親友に上手くいってほしいんだもの。気くらい使うわよ」
私は慣れないウインクをしてその場を去る。
ふぅ、なんとか裏切る気なんてありませんよアピールはできたかな?
これで後は適当にお料理をいただいて、いい感じのところでスッと抜ければ万事解決。
そう考えながら美味しそうなお料理をいただく。
ん~、美味しい。めちゃくちゃお上品なお味。
「失礼、これはお前のか?」
「ん?」
私はお肉にかぶりつきながら差し出されたタオルに目を向ける。
あ、私のだ。いつの間に落としちゃったんだろう。
「すみません私のです。ありがとうございます」
私は急いで肉を飲み込んで、そのタオルを受け取る。すると、拾ってくれた彼と手が触れてしまう。
「あっ、ごめんなさい……!」
「いや、こちらこそ」
慌てて手を引っ込めるが、そんなことより……この声ってまさか……。
恐る恐る顔を上げると目の前に立っていたのは、私が最強のハピエンとして鬼推ししている“アーサー・フロイデン第二王子殿下”だった。
銀の短髪にキリッとした鋭い眼光。はぁぁ、かっこよすぎ……。
しかも冷徹と名高くゲームのヒロインにしかデレることのない彼が、ほんのり顔が赤くなっている。
「あっ……アーサー殿下……!?」
私は思わぬ出会いにプチパニックになりまたタオルを落としてしまう。
「「あっ……」」
そして2人一緒にタオルを拾おうとして、また手が触れる。
「ひゃぁっ、ごごごめんなさいっ!」
「こ、こちらこそ、悪い……!」
そして、あろうことか一緒にタオルを拾い上げる。
何なのこのボーナスステージみたいなやり取り!
しかもアーサー殿下、顔赤くなってんだけど何で!?
「あー……エイデン男爵のご令嬢だよな……名前は確か……」
え、アーサー殿下ともあろう方が貴族の底辺の
「あのっ、ディアナです……父の事をご存知だなんて驚きました……」
「そうか、ディアナか……お前のお父上とは貴族会議で何度も顔を合わせているから分かるさ。お前も何度か顔を出していただろう? その時に、5人もの弟や妹を上手にあやしていて、それがとても印象的だったんだ」
アーサー殿下は照れくさそうに頭をかきながらそう言った。
ここへ来て
ちなみに姉弟のことはしっかり調べてあるから大丈夫だ。
「そんな、見て下さっていたんですね……嬉しいです。ちなみに去年、4人目の弟が生まれて全員で7人姉弟になりました」
「そうだったのか! 7人……それはすごいな」
アーサー殿下はそう言って爽やかに笑った。
ぎゃー! 笑顔が素敵すぎるー!
私もつられてえへへ、と笑う。
「そう言えばさっきからグラスが進んでないようだが……酒は苦手なのか?」
「あの、えっと……」
え、ここなんて答えるべき!?
素直に「苦手なんですぅ」って言ったらノリ悪いって思われるかな……。
無理して飲むべきかな……今なら酔ったらアーサー殿下に介抱してもらえるんじゃない!?
「緊張してて飲むの忘れてました。お酒は好きです」
私はそう言ってグラスにあったお酒をくいっと飲み干した。
⸺⸺翌朝。
「うーん……」
私の部屋だ。あれからどうなったんだっけ……。って、また裸! ってことはまさか隣にはアーサー殿下が!?
恐る恐る布団をめくってみると……。
「ディアナ……昨日は最高だったよ……」
ダミアンだった。
何でっ!?
「何であんたがここにいるのよっ!?」
その瞬間、昨夜の記憶が蘇ってくる。
飲んで酔ってしまった私はアーサー殿下に支えられる。それに気付いたエミリアが私を心配して駆け寄ってきて、ダミアンもついてきて「俺が責任を持って彼女を部屋に送り届けます!」と半ば強引にさらっていったんだ。
「何でって……昨日はあんなに熱い夜を……」
「だぁー! うるさーい!」
私はベッドから飛び出ると、すぐにカバンにある懐中時計をポチッと押した。
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