第1話 好きな乙女ゲームに転移!でも……②

⸺⸺2ヶ月後。


 せっかくなので私は“がくまどライフ”を満喫していた。

 私とエミリアは『魔道科』だから、もちろん魔法の使い方とか歴史とかを学び、立派な魔道士を目指していく。


 自分の杖から魔法が飛び出したときにはめちゃくちゃ感動した。

 私の魔法は設定で知ってたけど闇属性の魔法。黒い塊が杖から飛んでいく感じだ。


 一方エミリアの魔法は光属性の魔法で、魔法を放ったその瞬間は誰もが聖女だと思うくらいだった。


 ちょっと羨ましいけど、これもディアナの嫉妬を成立させるための設定だから、仕方がない。

 ここで私自身まで嫉妬しちゃったら、『がくまど』の運営の思う壺だ。

 私はこの悪意ある設定をぐっと飲み込んで、魔法の訓練に打ち込んだ。


⸺⸺


⸺⸺ついに大事な運命の分岐点が訪れる。


 エミリアと一緒に食堂でランチをしていると、彼女は恥じらいながら口を開く。

「ディアナ、あのね、私……バシュレ伯爵家の御子息のダミアン様に婚約を申し込まれたの……」


 ついに来た、この時が。“ダミアン・バシュレ”、私が寝取り予定の無駄にイケボの男だ。


「良かったじゃないエミリア! それで、あなたのお返事は?」

 私は思いっきり喜ぶ素振りを見せる。


「あのね、お受けしようかなって思ってるの。だって、ダミアン様……お声が素敵だし」

「それな」


「えっ、ディアナ、ダミアン様とお話ししたことあるの?」

 はっ、しまった! エミリアが最もなこと言うからついノリで本音が……。


「え、あ、違う違う。そうなんだぁいいなぁって意味で言ったのよ。ってか、OKするのね、じゃぁ、おめでとう、だね」

 私がそう言うと、エミリアの顔がパーッと明るくなる。


「うん、ありがとうディアナ! 今日ね、早速両家で顔合わせをするのよ」

「良いじゃない。楽しんで来て」


「うん……ディアナにも、今度ダミアン様のこと紹介したいな?」


 来た、私はここだと思うんだ。

「そうね……でももうすぐ中間考査だし、1つ上の学年のダミアン様もお忙しいだろうから、それはもし機会があればにしておくわね」

 ここではひとまずやんわり断るべし。


「そっかぁ、そうだよね……あれ、私ディアナにダミアン様の学年なんて言ったっけ?」

 あああ、またやってしまった。


「えっと、聞いてないけど……伯爵家の話って……ほら、なんとなく耳に入ってくるじゃない? だから、たまたま知ってたのよ……! もう、そんな有名なお家に嫁げるんだから良かったじゃない」


「そっかぁ、えへへ、そうだね」

 エミリアは照れてはにかんだ。


 ふぅー、危ない危ない。ここからはもっと慎重にいかなくては。


 でも本来ここでディアナとダミアンが会うべきだったから、確かにルートからそれたはず。これでもう大丈夫だ。



⸺⸺更に1ヶ月後、中間考査最終日。


「試験、終わったー!」

「長かったね……!」

 私とエミリアははぁっと肩の力を抜いた。


「私ね、今夜の打ち上げ立食パーティに参加しようと思ってるんだけど、ディアナも良かったら一緒に行かない?」


 打ち上げ立食パーティ。貴族の学校は3ヶ月に1度の実力考査の後、そんなことをするらしい。

 まぁ、試験勉強頑張ったし、ちょっとくらいいっか。


「うん、行く行く。一緒に行こ」

「わーい、やったー!」



⸺⸺この選択が、ダメだったのかなって思う。



⸺⸺立食パーティ会場⸺⸺


 華やかな貴族のパーティ会場。私もおめかししてこんなところに参加して、一応これでも本当に貴族なんだなと実感する。


 エミリアと2人で入るとすぐに、使用人からお酒のグラスを渡される。

 それを受け取り2人で乾杯すると、私はパーティ会場の雰囲気に飲まれていった。


 この世界ではお酒の年齢制限は特にないから、18歳でも大丈夫。それに私はお酒が強いから、ここで万一なんてこともないはず……。


 そう思っていると、ある男性がエミリアへ声をかけてきた。

「エミリア、ここに居たんだね、探したよ」

「ダミアン様! いらしてたんですね!」


 ダミアン!? 私はドキッとした。うわぁぁマジでダミアンがいる! しまった、このパーティやつも参加してたんだっけか……。


「あぁ、エミリアが行くという噂を耳にして、いてもたってもいられなくなってね……それでそちらがディアナだね? 可愛らしい女性だ……」

 ちょ、こいつの目、なんかもう私に恋してない? 大丈夫!?


「初めましてダミアン様、ディアナです……」

 私は苦笑いの営業スマイルを作った。


 その直後くらいからだろうか……。


 あれ、私こんなにお酒弱いはずないんだけど……。



 私の記憶はここで途切れた。


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