第12話 あかり、初めてゲームセンターに行く②


「ところで、全ての対戦型、easyからvery hardまでやってるけど、一向に現れないね、『ソムニウム』」

「そうだな。ガセかもしれない」


 冬夜くんは少しほっとしつつ、申し訳なさそうに言った。


「この調子だと、小野を無駄に付き合わせてしまいそうだ」

「そんなことないよ」


 夏樹くんもゲームセンターが好きみたいだし、安心して遊べるならそれがいい。

 ……正直、変な気配はしているから、気になると言えばなるんだけど。でも別に、嫌な感じもしない。

 どれも古いゲーム機だからだろうか。古い物に取りつく妖怪――付喪神とまではいかなくても、遊んだ人たちの念がこもっているのかもしれない。


「それに私、ゲームセンターとかテーマパークに来たの初めてなんだ。だから楽しいよ」

「……そう、なのか」


 今は店長が、手持ちのゲームに誘ってくれるんだけどね。

 意外と勉強になることも多いんだよね。料理するシュミレーションゲームとか、民俗学や歴史を取り扱ったRPGゲームとか。

 なんて思っていると、冬夜くんが突然、「小野は、好きな動物はいるか?」と尋ねてきた。


「好きな動物? 牛とか好きだよ」

「…………牛か」


 ものすごく悩ましい顔をして、冬夜くんは考え込む。


「多分いないだろうから……他には?」

「鶏とか、豚も好きだけど」

「なあそれ、肉の好みの話じゃないよな?」

「肉の好みも好きだけど、動物としても好きだよ? 家にいたし」


 私がそう言うと、冬夜くんは驚いた顔をする。


「……小野の家って、牧場なのか?」

「んー、まあ設備はそれっぽいけど、違うかな。別に売るわけじゃないんだよ。ほら、十二支っているじゃない」

「ああ。……そう言えば、鶏も牛も、十二支だけど……」

「中国だと、猪は『豚』だから」


 小野家は昔、子どもが生まれる度、十二支の動物を飼う習慣があった。

 と言っても、龍は飼うような存在では無いし、虎は日本にはいない上、今はワシントン条約で取引が規制されている。羊は明治になってからようやく日本で知られるようになった。なので鯉と猫と山羊で代用している。


「ということは、小野が生まれた時には、猫を飼ったのか」

「あー……いや」


 ……なんて説明しようか悩む。

 けれど、私が口ごもっているうちに、冬夜くんはクレーンゲームの方へ向かっていった。

 何しに行っているんだろう、と思っていると、冬夜くんがクレーンを動かしていた。

 アームが掴んでいたものは、猫のぬいぐるみだ。

 あっという間に、取り出し口から猫のぬいぐるみが顔を出した。


「これ、良かったらもらってくれないか」


 そう言って手渡されるぬいぐるみに、私は思わず目を瞬かせた。 


「え……なんで?」


 お礼の言葉より先に、疑問が口から滑りでる。

 

「ゲームセンター、初めて来たんだろう。なら、形の残るお土産は必要だ。……と思ったんだが」


 余計なお世話だっただろうか? と、冬夜くんがたずねてくる。

 そのぬいぐるみは、私が知っているぬいぐるみとは違い、やわらかくてすべすべしていた。

 初めてさわる感覚に、思わず顔からもふもふする。


「ありがとう。大事にするね」


 そう言うと、冬夜くんは顔をゆるめた。


「よかった」


 そのゆるんだ顔が、あんまりにも普通の男の子みたいで、思わず自分の顔をぬいぐるみで隠した。

 なぜかぬいぐるみが、ひんやりする。

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