逆行令嬢リリアンヌの二度目はもっと楽しい学園生活〜悪役令嬢を幸せにしてみせます!〜

鈴埜

プロローグ:悪役令嬢は婚約破棄される

「スカーレット•ラングウェル! 君との婚約はここに破棄された!」

 罪状をダラダラとまとまりなく述べたあと、超ドヤ顔で言ってのけた、この国の第一王子、ギルベルト殿下。そのクソ顔に拳を叩き込まずに済んだのは、今までも何度となく頭の中の妄想でそのご尊顔をボッコボコにして気持ちを落ち着けることに長けていたためだった。

 今も私の頭の中でギルベルト殿下は血反吐を吐き私に足蹴にされている。

「……陛下もご存知なのですね?」

 そんな興奮したギルベルト殿下と真逆の反応で対応したのは、我らがスカーレット様である。今日も美しい金髪にすみれ色の瞳が麗しい。

「も、もちろんだ」

 してねぇなこのクソ殿下。

 同じことをスカーレット様も思ったのだろう。形の良い眉毛を一瞬潜めたが、それはきれいなカーテシーを作り上げた。

「謹んで承りました」

 周りから小さい悲鳴があがる。

 ギルベルト殿下は満足そうに隣のピンクのドレスの少女を抱き寄せた。黒髪で小柄の可愛らしい少女だ。

「マーガレット、これで君を害する者はいなくなった」

「ありがとうございます、殿下」

 マーガレットと呼ばれた彼女はつぶらな吸い込まれそうな黒い瞳を潤ませてギルベルト殿下を見返す。

 周囲の男性陣もうんうんと頷いている。

 はぁ? である。

 スカーレット様はすでにそれでは失礼しますとパーティー会場から退出しようとしていた。

 そんなスカーレット様に声をかけたくてもかけられない令嬢たちが困惑の表情で立ち尽くしていた。

 マーガレット男爵令嬢の周りには、ギルベルト殿下の側近であり宰相の息子アーノルド、騎士団長の息子クリフォード、魔塔のトップの息子デクラン、第二王子であるオズモンド、そして男爵令息フィニアスと、彼とよく一緒につるんでいる騎士のイライジャ。

 彼らは一様にこの断罪劇に満足して笑顔を見せていた。

「きもちわるっ」

 ポツリと呟いた私の言葉は予想外にダンスホールに響いた。

 男性たちの視線がギロリとこちらを向く。

 よし、スカーレット様は退出したし、どうせいつも一緒に過ごしていた私もこの先ろくなことにならないだろう。ならば、とことん言いたいことを言ってやろう!

「僭越ながら殿下、先程罪状だとおっしゃられていた数々の悪行、本当にすべてスカーレット様がなさったことなのでしょうか?」

「なに!? 貴様……確かスカーレットの周りをうろついてる子爵令嬢だったな」

「リリアンヌ•クロフォードでございます。それで、もちろん今後のフォースローグ王国を担うギルベルト殿下ですから、どなたからかの言葉だけでなく、もちろん、もちろん証拠はございましてよね? まさか、証拠もなしに国王陛下がお決めになった婚約を勝手に破棄するなどといった愚行を……失礼いたしました。お返事を聞かずにわたくしばかりがお話してしまいましたわ、どうぞ、殿下」

 不敬! 不敬!! 不敬上等!!

「もちろん! もちろん、証拠はある」

「でしたらその証拠をぜひお見せください。こちらでも検討せねばなりません」

「なぜ貴様に渡さねばならぬ!」

「おお、まさか、聡明な殿下のことですからわかっていらっしゃると思っていましたが、まさかそのようなことを仰るなんて……国王陛下がお決めになった婚約ですから破棄ともなれば理由如何によっては賠償も伴います。先程の悪事がまさかまさか本当であれば、スカーレット様のお父君であるラングウェル公爵様から当然賠償を支払う義務がありますでしょう? 当然ですよ、もし本当にスカーレット様がそのような悪行の数々をおこなっていらっしゃったとしたら、ですが。ですから証拠をラングウェル公爵様もまた検討なさらなければならないのですよ」

 そんな証拠切れっ端もないんですよ、馬鹿殿下が。

 全部あの女が吹き込んだことに決まってる。

 二階にあった鉢植えを落としただ? 三階のスカーレット様のお部屋でお茶会の最中でしたが? 二階って落とされた側がどうしてわかったんだろう謎。

 階段で突き飛ばされた?

 いつどこで何時何分? 腰巾着の私が常にスカーレット様と歩いて回ってるのだ。そんなことしていないのは私がよぉっくわかっている。あると言って持ってきたらこっちのものだ。

 大変有能であらせられ、スカーレット様を溺愛している公爵様がそれはもう権力振りかざしてその証拠の真偽とってくる。魔法で改ざん? 魔塔の息子の親父、つまり魔塔主と公爵様はマブダチだよ!!

 意地悪を言ったうんぬんかんぬんは、婚約者がいらっしゃる方にあのような近づき方は誤解をまねきますよ、と、私が言った。多分他のご令嬢も言ってる。スカーレット様は学園は身分隔たりない場所。ギルベルト殿下は魅力的な方ですからと憤る私たちを収める側の人だった。

 というか、宰相の息子のアーノルド、騎士団長の息子のクリフォードにも婚約者がすでにいる。そこら辺からもマーガレットには苦言が呈されているはずなんだが?

「国王陛下の王命とも言える婚約を破棄するに至る証拠をご提示くださいませ」

 ここで、完璧なカーテシー。

 スカーレット様と練習しまくった。所作の一つ一つが自分の価値を上げるのよと、厳しくチェックされたのだ。

 スカーレット様、私は今最高のカーテシーを見せつけてやっています。慇懃無礼になるように!

 こちらの意図は最高な具合にダイレクトヒットしたらしい。

 ダンっ、と荒々しい音がした。少し伏せていた視線を戻すと、顔を真赤にしたクソ殿下が眼前に迫る。

 右頬に衝撃。

 痛いとかじゃない。

 衝撃だった。

 え? 淑女の顔殴った? 嘘だろ?

 ふっと足元が浮く。

 身体が後ろへ吹っ飛ぶ。

 まさか、身体強化を使って殴った?

 うーん、これはやりすぎた。追い詰めすぎた。

 やらかしやらかし。てへぺろ。

 

 後頭部に衝撃を受け、遠くに聞こえる悲鳴とともに私の意識は暗転した。

 


――――――――――――――――――――

聞こえますか、今、あなたの脳内に直接語りかけています。

この物語は、他言語で書かれたものを直接あなたの脳内へ送り込んでいます。

ですから、主人公がテヘペロとか、平気で言います。

あと、主人公の結構脳内のお口が悪いです。

合わないと思ったなら、回れ右をするのです……



誤字脱字はぜひ教えてほしいです。

ずっと三人称主人公視点を書いてきていたので、一人称すぐ忘れてしまう。地の文にリリアンヌとかあったら教えてくださ〜い!

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