あけのあかつきは神である〜自称神Vtuberにスパチャを投げたら願いがかなったんですが、もしかしてあなたは本物の神ですか?
黒瀬 カナン(旧黒瀬 元幸 改名)
第1話 神絵師、あけのあかつき
『私は神である!!愚民どもよ、我に平伏し、贄を捧げよ!!』
そう、スマホの画面越しに神の様な格好をした女の子のアバターが話を始める。
彼女は自称神Vtuber、あけのあかつきと言う人だ。
神を名乗るにしては物言いがどこか胡散臭い。
彼女の言う贄とは所謂スパチャ……、投げ銭の事で、その様な俗世に染まった神など居てたまるか!!と、配信を見ながら感じてしまう。
そうは言っても彼女は個人Vtuberとしては神レベルの存在で、チャンネル登録者数は100万人をゆうに超えているのだ。
そんな彼女の人気の秘訣は、彼女が神だから……ではない。そのパチモン臭い神々しさと独特な喋り口調、そして、雑談配信でのスパチャ読みがどこか面白おかしいのだ。
スパチャを読む時に神々しさを醸し出してはいるものの、その数が増えると途端に慌て始め、終いには素が出てしまうのだ。
そんな彼女の配信を俺、北条真夜(きたじょうまや)はいつもの様に楽しんでいた。
『さて、今日も愚民どものしょうもない話を聞いてやろうか……。気が向けば、その願いを叶えてやらんでもない』
神を気取ったVtuberがそう宣うと、コメント欄に無数のスパチャが送られる。
100円単位から1万円単位まで、スパチャを送る金額は人それぞれだ。
想定外だったのか、スパチャの数を見てあけのあかつきは『えっ?ちょっと……、まっ……』と、流れてくるスパチャの数に戸惑っていた。
「……すげぇ数。どれだけの奴が投げてるんだよ」
流れてくるスパチャの数にリスナーである俺も半ば感心してしまう。
俺が数えただけでも100はゆうに超えるスパチャに、人間の愚かさを知る。偶像(アイドル)とは言え、神の使徒と言うリスナーネームを彼女からもらった瞬間、彼らは神の奴隷(しんじゃ)なのだ。
だか、そうは言ってもあけのあかつきは神ではない。
一介のVtuberでしかないのだ。しかも個人の……。
そんな彼女に偶像以外の役割はない。
俺はふとある噂をを思い出すと、スマホの画面を弄る。その画面とはスパチャの課金画面だ。
普段であればスパチャなんて無意味な物に課金をしようとは思わない。が、この時の俺は彼女の噂が本当なのか確かめたいという思いに駆られ、スパチャの画面を開いたのだ。
その噂とはあけのあかつきのスパチャ読みで、1番最後に読まれた人間の願いは叶うと言う話……、どう考えても眉唾ものの噂だ。
だがこの日の俺はそんな噂の真意を探る為、なぜか彼女にスパチャを投げてしまったのだ。
ちゃりん!!と言う音がスマホから流れると、俺のスパチャがスマホの画面に映る。
その金額は250円。重課金者にしてみれば微々たる金額の投げ銭に、彼女が食いついてくれるかはわからない。が、ないそでは振るえない。
ただ、彼女の目に止まることを望みながら、配信を見る。
『えっと、次のスパチャで最後にします。じゃないと納まりがつかなくなりそうなので……』
と、言うと、コメント欄が阿鼻叫喚の様相を呈す。
そりゃ、そうだ。実しやかに囁かれる噂を信じるもの、彼女との交流の終わりを惜しむ者、俺の様に半ば冷やかしの様な輩まで三者三様だ。
そんな中、彼女は最後のスパチャのコメントを取り上げる。
『えーっと、しんやさん』
不意に彼女の口から自分のウェブネームが読み上げられ、背筋に緊張が走る。
まさか彼女に読み上げられると思っていなかったのだ。急に自分が何をコメントしたか不安になる。
『えっと……、いつも楽しく配信を見ています。ふむふむ、よい心がけだ。なになに……、僕は今年大学に入学したばかりでまだ友達がいません。できればあかつき様のような美しい女の子と友達になりたいのですが、どうすればいいですか……と』
あけのあかつきに自分のスパチャを読み上げられ、俺は急に恥ずかしくなる。
読まれる事はないとたかを括っていたが、まさか読まれることになるとは思っていなかったせいでネタ半分、本音半分のコメントに顔から火が出る。
あけの神の後ろで映るコメント欄にも、草!!やガチ祈願wwwと言ったコメントやぼっち童貞乙と言うコメントが並ぶ。
だが、そんなリスナーのコメントを無視する様に、彼女は『うーん』と悩む。
そりゃそうだ。この様な質問にどう答えればいいか、彼女自身も答えづらいのだろう。
デリケートな問題だし、下手に答えるとたちまち炎上しそうな話題を送ってしまった事に後悔する。
だが、彼女の返答は俺の予想だにしなかった答えを返してくる。
『……私の様な美しい女神には会えないとは思うが、しんやさんが良い女友達ができる様、祝福をしてやろう……』
と言って、彼女のアバターは両手を重ね祈る様な姿をする。それと同時に、彼女の背後に後光が指す。
その神々しさたるや、後光をパスタ扱いされるイラストレーターの後光が霞むほどだ。
そのギミックにありがたみを感じたのか、他のリスナー達は彼女の事を女神や天使とコメントで褒め称える。
そんなリスナーのコメントなんてどこ吹く風の彼女は真剣に祈ったフリをし、最後に彼の者に祝福あれと言い放つ。
だが、そんな祈祷したところで祈られた俺に何か変化があるはずもなく、スマホの向こうでは配信が滞りなく進むだけだった。
もちろん俺自身、眉唾の噂を信じているわけじゃないし、お布施のつもりでスパチャを投げたのだ。
そのスパチャを彼女に読まれた事は一リスナーとして素直に嬉しいし、こんなやりとりを俺含めたリスナー達は楽しんでいる。
これも彼女の配信の醍醐味の一つなのだ。
そして、あけのあかつきの配信が終わると、俺は動画サイトを閉じてベッドに横になる。
「やった、あけのあかつきにスパチャ読まれた!!」
初めて彼女にコメントを読まれたことに俺は満足感を感じながら目を閉じて、眠りにつく。
明日から本格的に大学生活が始まる……。
願わくば、あけのあかつきに願ったことが叶います様にと思いながら……。
※
「ふぁ〜、眠っ……」
翌朝、俺は欠伸を噛み殺しながら大学への通学路を歩いていた。
昨日、推しに自分のスパチャを読まれた事に興奮し、よく眠れなかったのだ。
しかも、昨日はそれだけではない。
なんと、あけのあかつきのスパチャ読みの1番最後に読まれたのだ。
普通の配信であればいつ読まれようが関係ないのだが、彼女の配信はそうではない。
あけのあかつきの常連リスナー、通称神子(しんし)の間では配信の最後にスパチャを読まれると、そこに書いてあった願いが叶うという噂があるのだ。
そんな噂がある中で、俺のスパチャが最後に読まれたのだから興奮しても不思議じゃない。
「ただ、あのスパチャを読まれたのは恥ずかしかったな……」
昨日のことを思い出しながら、独り言を呟く。
よりによって神に読まれたのが女の子の友人が欲しいといったような願いを書いてしまったことを恥じる。
スパチャは推しに自分を認知してもらう唯一の行為だ。それをあんなスパチャを送ってしまったことに後悔する。
だが、そうは言っても願い事が叶って欲しいという思いは変わらない。
「願い、叶うといいな」
そう言いながら、俺は大学の講義室に移動する。
講義室に入り辺りを見渡すと人ははまばらで、まだまだ席は埋まり切ってはいなかった。
俺は適当に広く座れそうな席を見つけ、そこに座ると荷物を隣に置き、スマホを取り出す。
YouTubeを開くと、昨日の配信の切り抜き動画があげられていて、それを見ながら授業が始まるのを待っていると、他の生徒たちが徐々に集まってくる。
その様子を興味なさげに眺めていると、講義室に二人の女子生徒が入ってくる。その様子は二人分の席を探しているようだ。
「もう!!月が寝坊するから、座れる席がないじゃない」
「……ごめんって!!昨日ちょっと遅くなっちゃったんだから、仕方ないじゃない」
二人はそんな言い合いをしながら講義室の中をキョロキョロと見渡していた。
だが、なかなか空いているような席はないらしく、少し困り顔を浮かべている。その様子を見ていた俺は二人のうち背の高い方の女の子と目が合う。
どうやらこの席には俺しかいない事を見越してか、こちらに向かってくるようだ。
……まじか?
その様子にドギマギしていると、背の高い方の女の子が案の定、声をかけてきた。
「すいません、ここ……、空いてますか?」
その言葉に驚きながら、俺は心の中で叫んだ。
あけのあかつきは神なのか、と……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます