第12話 事件の首謀者
すべての魔物を一掃したレリクは、力が抜けたようにへたり込むベヘモットへ近づく。
「あとはお前だけだ。それとも、まだ手はあるのか?」
「は……はは、いいえ。もはやワタクシの魔力は微塵も残っておりません」
圧倒的な力を前に、魔力の尽きた召喚士は諦めたように笑った。
「天界人とはいえ、ワタクシと同じ人間であるあなたが、どうしてここまでの差が出るのか」
「種族は関係ないし、強さの基準も色々だ。今回はたまたま俺の得意分野だっただけだよ」
「たまたま……ふふ、ご謙遜なさるな。嫌味にしか聞こえませんので」
「そうだな」
そう言って、レリクは男の前を素通りし、異形の肉塊へ歩を進める。
そして、レリクは短剣を取り出し不気味に躍動する肉壁へその刃を突き立てた。
「ゴおオアアア!!」
悲鳴のように発せられる轟音が響き、そのまま肉壁を切り裂くと。
中には五人、町の者と思われる女性と、一人の子供が現れた。
――衰弱してるけど、まだ息はある。
一先ずホッと息を吐き、女性達に付着している肉の管に目をやる。
蜘蛛の糸のように粘着質で全身に絡みつく管。
「ここから養分を吸い取っているのか」
レリクは女性達の体を傷つけないように管を切断し、肉塊の中から引っ張り出した。
「あとは服と、回復薬か」
『
一人ずつ傷や疲労を瞬時に回復させるポーションを飲ませてゆく。
「んん……ここは?」
「意識が戻ったか。動けそうか?」
「は、はい……」
目覚めたばかりで若干意識がはっきりしないものの、命に別状はない事に安堵する。
「早速で悪いけど、この中に入ってくれ」
「え……これ、空間魔法?」
レリクは『
「多少体に負担がかかるし居心地はあまり良くないけど、全員町へ運ぶにはこれが手っ取り早いから」
そう言ってたじろぐ女性達を空間の中へ入れる。
だが一人だけ、女の子のほうは未だおぼつかない様子で衰弱した様子だった。
――未発達の体で負担が大きかったか。この子はおぶっていったほうが良さそうだ。
おそらくはこの子が町で会話していた男の愛娘だと思い。
体に負荷をかけないよう、そっと背に乗せ歩き出す。
その途中、ベヘモットの横を過ぎる時、男は言った。
「トドメは刺さないので?」
「救護が最優先だからな。どのみちお前は天界に素性がバレて、奈落に再収監される」
「ふふ、そうですね」
「けどその前に、転生者達との関係性を聞かなきゃならないから、あとでまた来るぞ」
「お好きにどうぞ……。アビスゲートも、あなたのせいで瀕死の状態。もはやワタクシがこの世界で成す使命などございません」
抜け殻のようになった男を横目に、再び外へ歩き出そうとすると。
「ああ、そうそう、町へゆくならお急ぎになったほうがいい」
最後に男はレリクに捨て台詞を吐いた。
「……何が?」
「ワタクシの計画が失敗したとなれば、彼女が黙ってはいないでしょう」
「彼女って……」
「サガラ様のお付きの方ですよ。彼女は人類を心底憎んでおいででしたから」
ベヘモットと戦う前にも聞いた。ユリファと呼ばれていた女の話。
そしてクルアから聞いた情報を結合すると、自ずと答えが出て来る。
「あの女は、魔人なのか?」
男は乾いた笑いと共に「ご明察」と返した。
「この世界において、魔人族唯一の生き残りにして、魔人の女王。世界を奈落に侵食させるなどの破滅願望は、元は彼女の案ですしね」
「それで? あの女が黙ってないってのは?」
「今夜町へ襲撃に向かうはずだった魔物が現れないとしたら、それはイレギュラー。それだけで彼女は察するでしょう。緊急事態が起きたと。気の短い彼女は力ずくの暴挙に出るやも知れません。女王クラスの魔人ならば、町一つ消すくらい容易いでしょうから」
男の話を聞いたレリクは全力で駆け出した。
あの女をどう止めるか、サガラはどっち側に付くのか。
細かい事は走りながら考えようと思い。
レリクが去ったあと、男は呟く。
「行きましたか……」
ゆっくりと重い腰を上げ、膜が破れた肉塊へ向かい。
「たしかに計画は失敗。ワタクシも彼女に殺されるでしょうね」
懐から、魔力の源である魔鉱石を取り出した。
「ですがアビスゲート、あなただけは完成させたいのです。この研究はワタクシの最高傑作になるのですから」
そして、魔鉱石と共に男は破れた肉塊の中へ取り込まれる。
「さあ、奈落の瘴気そのものであるワタクシと、膨大な魔力をほこる魔鉱石、これを養分として復活しなさい。次元を繋ぐ魔龍としてね」
自らの命を擲って、世界の厄災を誕生させようとするベヘモット。
世界は程なくして、奈落の瘴気に侵される。
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