異世界で美少女勇者の妹(人型魔法兵器)に転生した

荒三水

第1話 美少女オタク

 小さい頃からかわいいものが好きだった。

 ゆるキャラやマスコットキャラに始まり、海外アニメのお姫様、女児向けアニメと段階を踏んで、私は順調に美少女オタクに育っていた。


 中でもお人形遊びが大のお気に入りだった。

 かわいらしい女の子の髪を整えて、お洋服を着せ替えて、きれいに着飾って。自然と美少女フィギュアなんかにも手を出すようになった。


 けれど彼女たちの体を握る私の手はふっくらと丸かった。

 同じく子豚ちゃん体型の両親は「遺伝だね」と楽しそうに笑っていた。


 朝ご飯。十時のティータイム。お昼ご飯。三時のおやつ。夕飯。食後のデザート。

 そのあいまにも間食間食ゥゥゥ! とすきまなく間接攻撃は続いた。


 私はそれが普通だと思っていた。食えるときに食うが家訓だった。家が養豚場だったことに気づいたときはすでに遅かった。デヴは甘え。

 

 いっぽうで美少女への憧れは強くなっていった。

 はじめは二次元に傾倒していたけども、次第にコスプレなんかにも興味を持つようになった。

 SNSや動画でかわいい女の子を漁っては眺めるのが癒やしだった。

 

 オタクの父親とは趣味があった。

 大量にフィギュアが飾られた部屋で一緒に美少女アニメを見てブヒブヒ言っていた。


 母親に「やせたらかわいいかも!」なんて言われて、……かも? かもとは? などと引っかかりを覚えつつ、ダイエットなど試みたことがある。

 

 無理だった。食べ物が置かれると、生存本能ならぬ闘争本能に火が付く。遺伝子レベルで食べることが好きだった。

 私は美少女への夢を諦めた。

 

 そのうちに学生生活を終え、就職活動を迎えることとなった。

 せめて仕事で頑張ろう。と思っていたが、なかなか採用が決まらず、焦っていた。


 ここでも容姿が足かせに……いや、言い訳にするのはやめよう。

 元気も愛嬌もないのは自分でよくわかってる。友達だってほとんどいなかった。

  

 遠くまで会社の説明会に行った帰り道。あたりはすっかり暗くなっていた。

 私は翌日の面接の志望動機を考えながら、急ぎ足で歩いていた。

 

 顔を上げると、目の前で青信号が点滅していた。

 ほとんど車の走っていない交差点。


 私は急いで横断歩道を渡ろうとした。

 走るのも遅かった。どすどすどす。


 アスファルトにダメージを与えながら、なんとか横断歩道を渡り終えようとしたそのとき。


 交差点を大きな影が勢いよく曲がってきた。

 トラックのライトが私の目を焼いた。その直後、ふわっと体が宙に舞った。一瞬遅れて、激しい衝撃音のようなものがした。


 何が起きたのかわからなかった。「ふぎゅっ!」みたいな声が口から漏れた。

 それが私の最後の呼吸だった。

 


 


 気がつくと、目の前は真っ暗だった。

 身動きをしようにも、体がろくに動かない。

 まるで狭い箱の中に閉じ込められているようだった。

 

 寒い。冷たい。息苦しい。

 すぐに耐えきれなくなってもがくと、ピーと変な音がして、急に目の前が明るくなった。どこかの部屋の天井が見えた。


 私はむくりと上半身を起こした。

 見渡すと、ベッド、タンス、テーブルなどの家具が目に入る。

 見覚えのない部屋だ。

 

 どれも洋式……それに少し古風な感じがする。アンティーク調っていうんだろうか。どう見ても日本家屋じゃない。

 例えるなら中世ファンタジーのマンガとか、ゲームとかで見たことがある。


 私はゆっくりと立ち上がった。

 足元には、長方形の入れ物があった。棺のようだった。  

 

 私はこの中で寝てたみたいだ。どうしてかは謎。

 まわりに怪しい冷気のもやのようなものが立ち込めているけど大丈夫でしょうか。


 棺をまたぐと、壁際に立てられた姿見の鏡に目がとまった。

 そこに映ったものを見て、私は思わずはっと息を飲んだ。


 澄んだ青空をうつしたようなブルーの瞳。

 きらきらと光をはなつ美しい金色の髪は腰まで届く。

  

 高い鼻筋と、小さめの小鼻。

 薄めの唇は小ぶりながらもチャームポイントのようにぷっくりと膨らんでいる。


 ……なんだこの子かわいいいいいい!


 私は鏡に食らいついていた。思わず目を疑うほどの美少女。コスプレ写真なら百万回いいね押したくなるクオリティだ。

 性癖どストライクの金髪碧眼美少女を発見し、興奮していた。


 至近距離で鏡の中の少女を見つめる。

 顔にはまだまだ幼さが残っていた。


 少し感情の見えない瞳は、怒っているというわけではないのだがなんだか眠そうである。

 いわゆる無口キャラというかクール系というか。ちょっと冷淡な感じもする。だがそれがいい。

 

「あれ? こ、これって……?」


 つい声が漏れた。

 私はいま、鏡を見ている。鏡に写った人影を見ている。

 マジックミラーとかそういうオチじゃなくて、正真正銘の鏡だ。


 その証拠に、今ちょっとだけ少女の口が動いた。  

 片目を閉じてみる。閉じた。開く。開いた。


「あ、あー」


 高めのソプラノボイス。声もずいぶん幼い感じがする。

 頬をつねってみた。痛みはなかったが、冷たい肌の感触がした。


「……え?」


 これって……私?

 もしかして、やっぱり、私なのか。


 自分の体を鏡越しに見下ろす。

 ネグリジェ風の薄い寝巻き一枚という格好だ。


 でっぷりお腹が出ている、などということはない。

 ほっそりとした手足が伸びている。

 

 身長は……150かそこらだろうか。

 背丈は縮んでいるけど、腰の位置は高い。  


 腕に触れてみると、冷たかった。

 肌は人形のように真っ白……だったけど、だんだんと赤みがさしてきた。


 まじまじと全身を眺める。

 均整のとれた容貌は、人間というよりか、まるで精巧に作られた美術品かなにかのようだった。

 

「あれ? でも私……どうなったんだっけ」

 

 記憶を巻き戻してたどってみる。

 光だ。ライトの光。目の前が真っ白になった。

 急に怖くなってきた。映像をかき消すように頭をふる。


 私はきっと、トラックに跳ね飛ばされてお亡くなりになったのだ。 

 そして、転生した。

 サブカル系に強い私は転生モノだってそれなりにたしなんだ身だ。理解は早い。


「そっかぁ……」


 自分でも意外なまでにあっさり受け入れていた。もとからそういう運命だったのだと思うと、あきらめはつく。

 育ててくれた両親には申し訳ないと思うけども……。


 もし今の私を見たら、「やせられてよかったじゃないの~!」なんて、案外笑って喜んでくれるかもしれない。

 私が変に落ち込むより、前を向いて元気でいる方がいいに決まってる。

 

 なによりこうして、念願の超がつく美少女になれたのだ。

 この世界で、美少女として楽しくほのぼのと生きられればそれで良し。


 そしてゆくゆくは類は友を呼び、異世界で美少女に囲まれて、夢のスローライフ……。 


「とうっ」

 

 その場で飛び跳ねてみる。

 体が軽い。どすどす言わない。


 それだけでウッキウキだ。

 鏡に向かってニコっと笑ってみた。

  

「やばいいいいきゃわいいい~~~!」


 自分で自分にキュン死した。

 鏡の向こうで身悶えている姿を見て、さらに悶える。無限ループ入った。

 鏡を見ているだけで楽しい。ずっと見てられる。


「んー……」


 体を見下ろす。胸の膨らみはあんまりない。

 けれど見るからにまだ幼い。まだまだ伸びしろはある。


「どれどれ」


 服の襟元を手前に引っ張って、のぞいてみる。

 人形のように白い肌だ。しかしこれは、なんだか他人の身体を盗み見ているようで、なんとも言えない背徳感が……。

 

 などとよこしまな考えが頭をよぎったそのとき、けたたましい音がして背後のドアが開いた。



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はるか前になろうに投稿していてエロ警告食らって消したやつです。

前に投稿していた分だけで40万字ぐらいあるっぽいですが、なんとなく直しを入れつつ飽きるまでのんびりやってみようかと思います。



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