おばあちゃんのリズム

ろくろわ

夕方五時に音楽は鳴る

 おばあちゃんにも名前はある。

 だけど昔から、おばあちゃんはおばあちゃんだったから、僕はおばあちゃんと呼んでいた。いや、僕だけじゃなく、家族は皆おばあちゃんと呼んでいた。

 おばあちゃんだって、自分の事をおばあちゃんと思っているのか、それに返事をしていた。そしておばあちゃんもやっぱり歳を取る訳で、粗相が増えたり昼と夜が逆転したり、そしてよく眠るようになった。


 そんなおばあちゃんには昔からの日課があった。

 夕方五時の防災無線から流れる音楽を聞くと玄関に向かい、ちょこんと座って帰ってくるであろう家族を待つのだ。多分、公務員だったお父さんの仕事が夕方の五時に終わり、家に帰ってくるのがその後すぐだったから。それに僕も学校が終わって家に着くのが同じくらいだったから。だからおばあちゃんにとって、幾つになっても夕方五時の音楽を聞くと家族を迎えに行くのは、至極当然の生活のリズムなのだろう。

 だけど、もう五時に家に帰ってくる家族は誰もいない。父は仕事を退職し今はずっと家にいる。僕も学校を卒業して五時に家に帰ることはない。今は家で在宅ワークをしている。それでもおばあちゃんは、夕方五時のリズムを守っている。


 僕達にも夕方五時のリズムがある。

 防災無線から流れる音楽を聞くと、家の裏口から出て玄関に向かうのだ。そして玄関をあけ、出迎えてくれるおばあちゃんを抱き上げるのだ。


「おばあちゃん、ただいま!」

「にゃーん」


 おばあちゃんはいつも、満足げに喉を鳴らすとゆっくりと寝床に戻り小さく丸まるのだった。


 これがおばあちゃんの、僕達の夕方五時のリズムなのだ。



 了

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おばあちゃんのリズム ろくろわ @sakiyomiroku

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