第6話 神の因縁
『その始まりはアプスー神とティアマト神、二柱は交わり、ラハム神とラフム神を…次の二柱も交わり、アンシャル神とキシャル神を…そして、この二柱は次世代の神を代表するエア神、アヌ神を生んだ…それからも多くの神々が誕生し、メソポタミアに栄華をもたらした…』
ヒヤルムスリムルがメソポタミアの創成を静かに語る。かっと目を大きく開いて、
『そんな平穏も歯車が狂い始める! それは次世代の神が非常に騒がしかったからである! メソポタミア第一の戦いはアプスー神による神の滅亡、しかし、エア神の策略に嵌り戦わずして敗北を喫し、次世代の神々の勝利!!
しかし、これに黙っていなかったのは原初神である! 彼らはティアマト神を大将とし、メソポタミアにおける最大級第二の戦いが勃発!!! ティアマト神の圧倒的力になすすべがなかった次世代の神々を救ったのはマルドゥク神であった…かの神はティアマト神を撃破!!!
ついに次世代の神々が覇権を握る!!!』
観客席の半分からは称賛が、しかし、もう半分からはブーイングがあげられる。
『しかーーし! ここは全神々の集う決闘!! これ以上に、この戦いが似合う神界はいるであろうか⁉ 長きに渡る決着を、今一度、決めようではないか!!
紹介は簡単にいかしてもらうぜ?
それでは先攻、次世代の神々の総称してのアッカド派を代表する神はもちろん、この御方!! アッカド派最強と名高い英雄神に登場していただこう!!』
砂漠の闘技場に嵐の戦車を爆走させて派手に登場する一柱。
『かの神、最も険しい山々を潰滅させ、海の波を狂い搔き立てる!! その優れた能力故の傲慢さはアッカド派の神々を鼓舞させる!!
アッカド派最強かつ最悪の原初殺しの異名を冠する!! 英雄神!
その名もマルドゥクーーぅ!!』
砂漠には似合わない雪のように白い髪と砂漠の灼熱を体現させたように真っ赤に燃えるガーネットを閉じ込めたような瞳を持つ非常に端正な顔立ちであるが、悪餓鬼のような態度なのか気だるげそう、いや、めんどくさそうな態度をとる。上半身裸ではあるが、真珠のネックレスなどの装飾品が服の役割を果たしているといっても過言ではない。
メソポタミア序列1位最高神マルドゥク
「暑っ…」
『では後攻、原初神の総称シュメール派の神々代表!』
闘技場の中心から離れたところ、砂漠を構成する砂が揺れ始めたと思うと、そこから勢いよく水が噴き出し、その中に誰かがいることが窺える。
『この神がいなければ! 今のメソポタミアは存在していなかったであろう!! 原点にして頂点!! メソポタミアすべての父!!!
アプスー神!!!!』
こちらの神も上半身裸であるが、ネックレスは1つだけ、あとは十字架のピアスを着けている。左半分を覆う入れ墨は彼の神としての強さを誇示しているようだ。マルドゥクとは相対して、澄んだ蒼い瞳を持ち、癖毛のような黒髪の神、
メソポタミア序列2位淡水の神アプスー
「下等な場所だな」
観客席の半分を占領するアッカド派の神々の中には、アッカド派の主要神である”運命を定める7柱の神々”が間近で観戦している。マルドゥクと似た容姿の神が目につくマルドゥクの父であるメソポタミア序列5位エア、序列6位天空神アヌ、序列9位真理の神ウトゥと彼の双子の妹である序列10位豊穣の女神イナンナ、序列11位月の神ナンナ、序列12位大地の女神ニンフルサグが連なっている。
またエアの妻である序列20位ダムキナもエアの傍に仕えており、序列19位の大空神キも戦いを待っている。
しかし、その反対側にはメソポタミア原始神であるシュメール派が集っている。
ティアマト神の息子にして第二の夫である序列15位魔獣の統率神キングー、ティアマトとアプスーの補佐役である序列14位ムンム…アプスーの息子である序列7位ラフム、娘である8位ラハム…その子供である序列16位アンシャルと序列17位キシャルなどなど…錚々たる原初神が相対している。しかし、権能の押し付け合いが始まっており、闘技場には苛烈な神の、神への殺意が蔓延っている。
(怖っ…)
その中間にいるヘイムダルは殺気に耐えながらヒヤルムスリムルを見ると、彼女は表情を一切変えていなかった。
『さあ、神の次は選抜人類のご紹介をいたしましょう!
選抜人類の先攻はシュメール派からいかせていただきます!
地上宇宙において代表的な文化、魔法!!それは人類誰もが知り得る理想を現実に変える憧れの存在!
その中で憧れを糧に魔法の高みへと上り詰めた猛者がここに集結!
現代の魔法使いを統率する魔塔において、現代魔法の最高峰と称される
宝石瞳を輝かせて、登場門から姿を現す。闘技場は静寂に包まれ、彼の砂を踏む音だけが響く。
『しかしながら、この者は理想を嫌い、魔法使いにはあるまじき現実を求め、高みへと昇った魔法使いである!!
彼は、この戦いで我々に如何なる現実を示すのか⁉
魔法の海より、武器魔法使い
木聯が登場すると魔法使いからは真っ黄色の歓声があげられる。
ギリシャ専用観戦室
「魔法の海?」
コレーが不思議そうに口に出す。
「
「選抜人類は10つの海を代表する強者とでも思っておけばいいよぉ、その中でも魔法の海は魔法に関して目覚ましく進歩している海だよ」
木聯がアプスーの隣に立つと、アプスーはじろじろと彼を観察する。
「あんまじろじろ見られますと恥ずかしいですぅ」
「随分と小童だな」
「そないけったいなこと言わんでや、心配せずとも、あんさんの邪魔はしませんよぉ」
『後攻!アッカド派が選びし選抜人類!
その中でも最も秘密に包み込まれている初代より人類を守護してくださっている、この御方が緊急参戦!!』
アパタイトキャッツアイの短い後ろ髪と肩にかかるまでの横髪、アップルグリーンとサルファーイエローの目に紅くラインを引いている中性的な見た目の男。
『魔法が理想を具現化させる存在であるならば、この御方は存在そのものが希望と理想そのもの!!!
今日に至るまでの任務総数は1,010件…その任務達成率は驚異の100%!!この人間は期待を裏切ったことはない!!
精霊の海より、
フォーセリアの登場に観客が沸く。フォーセリアの手には槍に似た形状の剣、柄にも刃が付いた両端双頭である。刃の形状は逆刃でロッソの刃紋が閃光のように煌く。代表者2柱と2人が対面した。
『原初の矜持か?次世代の意地か?
現実の提示か?希望を物語る理想か?
さあ、長きにわたる因縁に終止符を打つのは創始者か?革命者か?
それでは
高々と鳴り響くゴングの音色、次はどんな試合になるのかと観客が鼓動を高鳴らせていると…
「だるっ…はあ~、じいさんと殺り合うとか楽しくないでしょ」
マルドゥクからは想像もしていなかった言葉が放たれた。
「じいさん?」
木聯がマルドゥクの発言に相槌を打つと、めんどくさそうにアプスーを指さして話す。
「そこのじじいだよ、うるさいってだけで滅ぼそうとか…オレ様理解に苦しむんだけど…」
『ふざけるなよ!糞共!!』
マルドゥクの悪意に満ちた返答を返したのは、意外にもアプスーではなく、観客席にいたシュメール派キングーであった。彼の発言に続いて、ムンムなど他のシュメール派の神々も今までの不満を面と向かってぶつけた。
『じじい言ってるが、アプスーがいなけりゃてめえらはいねぇんだよ!』
『私たちを蔑むことはメソポタミアの冒涜ですわ』
『騒音だけじゃなく、汚いんだよ!!お前たちの神殿は!』
『身の回りの世話ができなくて、なにが神だ!!ちゃんとやれ!!』
『だいたい貴方たち態度がなってないんです…こちらの物を使うなら一言断りを入れてもらえます?常識は?』
「常識って、古臭いあんたらの固定概念じゃない?」
原初神の不平不満を今度は次世代の神々アッカド派が返していく。
「いいじゃな~い、ちょっと神殿汚すくらい~、元に戻せば解決じゃない~?」
『その修復をこちらに任せてるんだろうが!』
「あんたらの海でパーティーをしてはいけぬのか?子供なんだから多少の我儘には目を閉じてもらおうか」
「そうそう、ちょ~~~っと神器壊したくらい寛大な心で許してよ!」
「そのお堅い口調とか変えないの?今の時代水みたいにどこでも適応していかなきゃ…だから、俺らを参考にしてね、ジジババ共?」
『お前たちを参考にするくらいなら、ゼウス殿のおふざけを参考にした方がマシだ!』
「なんで僕巻き込まれたの?」
突然の飛び火に珍しくマジトーンになってツッコむゼウスを無視して、メソポタミアの神々の口喧嘩は熱を帯びる一方である。しかも、その内容というものが、やれ神殿をよごすなだの、やれ好き嫌いするな、壊すな、勝手に使うなだの…本当にくだらないものである。この光景を見て呆れる者や爆笑する者、溜め息をつく者など反応はさまざまであるが、試合が進まないことを危惧したヒヤルムスリムルが仲裁に入る。
『え~、とても盛り上がっているところ申し訳ないのですが…これは
『フッ、カオスが羨ましいな…あんなに良き部下を持つとは…』
アプスーがマルドゥクに向き直る。そして深く息を吸うと、砂漠を構成する砂がアプスーを中心に波紋を広げる。まるで、水のように…
「オレ様じいさんの強さとかわかんないんだよね…あんた一回も戦ってないんだろ?なら、さあ?」
マルドゥクの足元に魔法陣が出現する。
北欧専用観戦室
「英雄神マルドゥク、その権能は多岐に渡り、父であるエア同様に魔術にも長けています…」
「あれはおそらく…召喚魔法だな」
オーディンの見立て通り、魔法陣からは異形の獣が出現する。それは毒蛇の頭、獅子の上半身と鷲の下半身、極めつけには蠍の尾を持つマルドゥクの神器の一つとされるメソポタミアの霊獣ムシュフシュである。その猛々しい見た目から発された咆哮に会場全体が揺れた。禍々しい殺気を放つムシュフシュの頭を撫でて、それを装飾品のように纏いアプスーを見つめる。フォーセリアが両剣を構え、木聯も魔法を展開しようとするなかで、
『手を出すな』
「まだ出ちゃだめだよ」
「「!?」」
マルドゥクとアプスーに戦うことを制止され、木聯もフォーセリアも始めは動揺したが、その意図が分かり呆れて、戦闘態勢を解く。
「うちら要りました?」
「どうだろうね…」
わざわざ2人に制止を促したのは、神だけで戦いたかったから。しかし、その我儘も2柱の状態によって説得力が増している。
アプスーの壮烈な復讐心を糧に増幅する雪辱を果たさんとする欲と、マルドゥクの苛烈な求心が織り成す原初神でさえも掌握してやろうという傲慢な総攬が衝突する…それは原初神がずっと抱え込んでいた屈辱と、次世代の神の全てを欲する貪欲を体現しているように、その場を直接見ている者は解釈していた…
「オレ様が直々に跪かせてやるよっ!!」
『その歪みきった性根を余が直してやる!!!』
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