第十六話「最終手段」

 アレン・フォールズ。真っ赤な鎧に、その上からでも分かる鍛え上げられた筋肉。

 まさに歴戦の王という風格。俺はそんな相手と戦うことになった。……杖無しで。

 

「逃げてばかりでは、罪を帳消しにする事等出来んぞ。このまま逃げる気なら牢屋に戻って貰うことになる」

「うるせー! こっちだってでけぇハンデ背負ってんだ!」

 

 杖が無いと言ったら、杖が無いと何も出来ないのか? と言われ、頭に来た俺は杖なんかなくても勝てるわボケ! ……と言ってしまった。魔法使いが杖無しで戦える訳が無いのに、だ。

 なんとかギリギリでアレンの剣を避けてはいるが長くは持たないな。俺はAGL敏捷にステータスを振っていない。むしろ何故アレンの攻撃を避ける事が出来ているのか分からない。

 

「…………いや、違う。当てていないのか」

「ハッ! ようやく気づいたか。お前が何か隠していると思ってな。当てようと思えばいつでも当てれるぞ」

 

 くそ舐めやがって……杖さえあれば……! この玉座の間にはそんなものは無い。居るのは俺とアレンと兵士達……あ、そうか!

 

「どうした? 諦めたか?」

「いいや、アレン。お前を倒す方法を見つけただけだ」

「ほう? ついに見せるか。ならやってみるがいい!」

 

 言われなくてもやるよ……!

 

「『ミスディレクション』!」

「なに……!? 消えただと?」

 

 よし、俺の姿が見えていない様だ。これは少なくとも俺より実力が上ということは無いって事だ。だが、消えただけで攻撃手段が無いのなら意味が無い。なら奪えばいい。運がいいのか悪いのか、この玉座の間には兵士達が居る。殆どが槍を持った前衛兵だが、中には杖持ちの奴がいる。俺は杖を持った兵士の元に近付いた。

 

(よし……見えていないな。悪いが少し借りていくぜ)

 

「うぉ!? なんだ! 俺の杖が無くなったぞ!?」

「何してんだよお前、おっちょこちょいにも程があるぞ? それより今はアレン様の戦いだ。相手の犯罪者の姿が消えた。……一体どこにいるのだ」

 

 ここだよ、とは言わない。俺は兵士からパクった杖を持ちアレンの元へと戻る。この『ミスディレクション』もずっと姿を消せる訳では無い。あくまで一時的だ。それにもうこいつは気付いているだろうな。『ミスディレクション』は足音や足跡、形跡は消せない。アレン、こいつは目がいいと言っていた。つまり――

 

「もういいか? 俺も動いても」

「やっぱり、見えてたんだなアンタ」

「いいや、見えてはいない。だが、俺は目がいいからな。お前が足を上げる度にほこりが舞っていた。俺の目はそれを逃さなかった」

 

 姿が見えなくても、どこにいるのか、場所がわかるってことか。

 にしても、舞っている埃すら見えるとか目が良いとかのレベルじゃないだろ。

 そして『ミスディレクション』の効果は切れ、俺は玉座の間に再び姿を現す。

 

「お、おい! それ俺の杖だ! 返せ犯罪者!」

 

 さっき俺が杖をパクった兵士がこっちに向かって叫んでいる。

 

「まだ犯罪者じゃねぇし」

「……ほう、兵の杖を奪ったか。魔法使いなら当然だな、では、ここからが本番という訳だ」

「ああそうだな。悪いが負ける気は無い」

「それは俺も同じ事。王として負けられん! フンッ!」

 

 アレンが四股を踏んだ。瞬間、地面にヒビが入る。

 

「……よしではここからは本気でいく。手加減は出来ないから降参するなら今のうちだ」

「やだね。早くかかってこいよ」

 

 地面にヒビ入れるくらい俺だって出来る……と思う。

 

「くそ……何だこの杖。もっと手入れしとけよ。虫に食われてボロボロじゃねぇか」

 

 俺が持っている杖は明らかに安物だ。仮にもこの国を守る兵ならもう少し手入れしとけよ。しかも、木製ときた。俺が殴ればこの杖は直ぐに壊れる。ボロボロ具合も相まって、殴れるのは一回だけだな。

 

「チャンスは一度きり……」

 

 だが、そんなのは想定済みだ。こんな木製の杖じゃ鎧を来たアレンに致命傷を与える事は出来ないだろう。なら俺のやる事は一つ。

 

「はああああああああああっ!」

 

 アレンが勢い良く突っ込んで来た。

 

(やっぱりそう来たか。こいつ俺の事舐めてやがるな)

 

 隙だらけの大振りな一振り。避ける事は出来る。しかし、ここで逃げてはアレンは実力不足断定し、俺を再び牢屋に入れる事だろう。それがあるから俺は避けないとこいつは考えている。でなければ、こんな隙だらけの一撃を仕掛けてくるはずが無い。

 

(だったら避けないでやるよ……!)

 

「フンっ!!」

「なっ!?」

 

 バキッという音を立て、俺は杖を折った。

 

 《【魔法使いの最終手段】を発動しました。これより十秒間物理ダメージが五千パーセント上昇します》

 

 十秒もあれば十分だ……!

 

「くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 俺は勢い良く斬り掛かるアレンの剣をすんでの所で避け、アレンの腹にボディーブローをお見舞した。

 

 《【魔法使いのとっておきLv2】を発動しました。物理ダメージのクリティカル率を百パーセントおよび十パーセントのダメージが加算されました》

 

「がはっ……なに……何故魔法使いにこれ程の力が…………」

「……舐めてかかるからそうなるんだ」

「ぐっ…………………」

 

 アレンは腹を抱えながらその場で意識を失った。

 

「アレン様ーー! 医療兵を呼べ! アレン様を今すぐ治療するのだ!」

 

 黒のスーツを着た者が声を上げた。

 

「……柊様。貴方の勝ちでございます」

「ああ」

「しかし、今回アレン様はまだ実力を発揮されておりません」

「ああ、だろうな」

 

 うちの王は舐めて掛かったから負けた、と言いたいのだろう、この金髪スーツの女は。多分執事ような役割を任された者だ。俺たちが戦っている時、ずっと無言で見守っていた。その顔は勝ちを確信した顔だった。それ故に自分の仕える王が負けたのが気に食わないのだろう。しかも俺のような例外の魔法使いに。

 

「……どうぞどこへでも。貴方の罪はもう何もありません。これより先は私達がアレン様の治療にあたりますので、ここに居られると迷惑です」

 

 なんだえらくはっきり言うなこの女。

 

「ああそうかよ。じゃあな……それと、あんたのアレン様にも悪かったと伝えてくれ」

「……ちっ……かしこまりました。申し伝えておきます」

 

 こうしてアレンとの戦いは終結した――。

 

 

 【レベルが五十に上がりました】』

 

 【スキル:『イリュージョン』を獲得しました】

 

 スキル『イリュージョン』

 ・MP消費ゼロ 使用者の望んだ事象を使用可能。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.50

 

 HP【6000/6000】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【500】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【50】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 アビリティ:【魔法使いの掟破り】

 スキル:【ミスディレクション】

 スキル【イリュージョン】

 装備:【戦士のピアス】

 

 

 ◇◇◇

 

 

 【不器用な魔法使いLv2】

 ・与える物理ダメージ3倍

 【魔法使いのとっておきLv2】

 ・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ

 【魔法使いの最終手段】

 ・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇

 【魔法使いの掟破り】

 ・魔法使いに与える物理ダメージが500%上昇し、魔法使いから受ける魔法ダメージを0にする。

 

 スキル【ミスディレクション】

 ・【MP消費0 相手の視界から一時的に消えることが出来る。

 ※ただし、相手との力量で効果変動

 

 スキル『イリュージョン』

 ・MP消費0 使用者の望んだ事象を使用可能。

 

 

 

 【戦士のピアス】

 ・物理ダメージ5%上昇

 

 

 ◇◇◇

 

 

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