第三話「レベルの概念」

 フィーレを仲間に加え、俺は宿を取る。フィーレはあのトロールのクエスト以降正式に俺の仲間になった。やっと一人旅ではなくなった。これはいい事だ。しかし、問題がひとつある。

 

「……宿だ」

「……え?」

 

 俺は今まで安い宿に止まっていた。ボロボロの一泊五百ルピの宿だ。この世界のお金の価値は前世と同じ程だ。つまり、五百ルピの宿がなぜ安いのかは想像が容易いことだと思う。

 

「…………よし、新しい宿を借りよう」

「柊さんの宿で大丈夫ですよ?」

「いや、良くない。あんな事故物件みたいなとこダメだ」

 

 女の子にあの宿は流石にキツイだろう……。床は穴が開き、壁には血のようなもので「死にたい」とか書いてある。俺も初見はビビったが慣れれば悪くはなかった。ベッドだけはフカフカだったからな。

 

「せめて五千ルピ程度のところにしよう。高い方がいいだろう」

「……五千ルピって高いんですか?」

 

 なに? お前はどこのお嬢様だよ。五千ルピだぞ! 今まで住んでた宿の10倍だぞ! てめぇナメたこと言ってんじゃねぇーぞ!

 

 とは流石に思ってても言わない……。

 

「あ、ああそうだよな。安いと思うけど、我慢してくれ」

「はい! 分かりました!」

 

 納得してくれて何よりだよ。これで「無理です☆」とか言われたら解散していたところだ。男だったら殴ってたまである。

 

 

 ***

 

 

 ということで、五千ルピの宿に来た。俺が借りていた宿と広さは同じくらいだった。なんなら、ベッドに関してはあの部屋の方がフカフカだ。おれは正直ベッドがフカフカなら事故物件だろうがなんでもいいんだけどな。フィーレは……というより、女の子はあの部屋はムリだろう。少し高いがここで我慢するしかないな。

 

「部屋はすまないが相部屋だ。二部屋取ると料金が二倍かかるからな。着替えとかするなら言ってくれ。その間出ていくから」

「あ、はい! 分かりました!」

 

 せめてシャワーでも付いていたらいいんだけどな……。五千ルピの宿にはそういうのは無いらしい。フィーレ曰く、シャワーが付いている宿は一泊で二万ルピかかるそうだ。しかし、一泊二万は高いよなぁ……前世なら結構いい部屋取れるぞ……。

 

 文句を言っても仕方ないか。この世界はそういうもんなんだろう。俺達は一息つく。

 

「はぁ~疲れた」

「……すみません、何も出来なくて」

「いや、そういうのじゃない! ……なんていうか、口癖みたいなもんだから気にしないでくれ」

 

 そう疲れてもないのに言ってしまう日本人のあるあるだ。この世界のあるあるでは無かったな。おかげでフィーレに変な誤解をさせてしまった。

 

「なぁフィーレ、この街ってなんて名前なんだ?」

「え? 柊さん知らないんですか?」

 

 この街に来てからもう一ヶ月は経っていたが、ずっとモンスター狩りをしていたしな。今まで特に気にならなかった俺はこの街の名前すら知らない。

 

「この街は『アレン王国』と言います」

「『アレン王国』か……なんだか人の名前みたいだな」

「そうですよ。王アレンが治めている国なので」

 

 やっぱりか。ゲームが好きだったからなんとなくそうじゃないかと思った。俺達はベッドの上に座り雑談を続ける――

 

「この国の王……王アレンはどんなやつなんだ?」

「えーっと……若い方ですよ。柊さんもしかしてこの国の人じゃないんですか? そういえば名前も珍しいですし」

「ああ、『ニホン』という国から来た」

「『ニホン』? ……聞いたことがないですね」

 

 顎に手をやり考え出すフィーレ。そんなに考えても多分何も出ないと思うぞ。

 

「あっ!」

「ん? どうした?」

「思い出しました! 『ニホン』! どこかで聞いたことがあるとおもったら、確か勇者の出自がそんな名前だったとか……!」

「なに!? 本当か!?」

「は、はい!」

 

 俺はフィーレの言葉に思わず驚愕する。

 まさか俺以外に転生者……? しかも勇者か。どんなやつか気になるな。もし同じ転生者なら一度話してみたいもんだな。

 

「勇者以外に『ニホン』から来たというやつはいるのか?」

「いえ、それは聞いたことがありません。でも、可能性はあると思います」

 

 勇者を探すというのも目的の一つとして、頭の片隅にでも置いておこう。しかし、フィーレは物知りだな。俺がそう言うとフィーレは懐かしむように答えてくれた。

 

「……小さい頃から絵本が大好きでして。そこに出てくるんです。勇者についても絵本で知りました」

 

 絵本に出てくるって勇者いくつだよ。もしかしてだけど四十超えたオッサンとかじゃないだろうな……?

 

「魔法使いも絵本の影響か?」

「はい! 魔法使ってみたくて! ……でも私には才能が無いのか、まだ一つしか使えなくて……」

「………一つでもあるだけマシだ。世の中にはその一つすら覚えられない魔法使いが居るんだ。使えるだけ感謝しとけ」

 

 俺はフィーレの頭を撫でながら言う。

 

「は、はい……魔法を使えない魔法使いってそれって魔法使い・・・・って言うんでしょうか?」

「……ぬっ」

 

 痛いところをついてくるな……でも仕方ないだろ。冒険者カードにも魔法使いとして登録されてるんだから。俺だって自分が魔法使いなんて思ってない。俺には『棍棒使い』とかの方がお似合いだろう。って誰が棍棒使いだよ。

 

「さて、今日は寝るか。明日はレベリングする」

「レベリング……? なんですかそれ」

「ステータスのレベルを上げるんだ」

「ステータスのレベル??」

 

 ん……? なぜ分からないんだ? 結構分かりやすい説明だったと思うんだが。

 

「いや、だからこれだよ」

 

 俺は冒険者カードをフィーレに見せた。

 

「うわぁすごい! アビリティいっぱいありますね!」

「いやそこじゃなくてここに…………あれ?」

 

 レベル表記がない。どういうことだ? 俺は今レベル三十だ。それが冒険者カードには書いてない。アビリティとかは書いてあるのにレベルがない……もしかして最初からなかったのか?

 

 俺がレベル三十と把握しているのはいつもレベルが上がった時に、画面に出てくるからか。

 

「もしかして……レベルの要素は転生者の特権かなにかか……?」

「どうかしましたか?」

「あ、いやなんでもない」

 

 となると確かにこの世界の人間が強くなるのは難しそうだな。

 俺は一人考える。すると横でフィーレがあくびをした。

 

「……眠いなら先に寝てもいいぞ」

「すみません……では私は先に寝ますね。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 

 フィーレは眠りについた。ベッドは一つしかないから俺は床でねるか。……その前に試してみたいことがある。以前俺はステータス画面を出すことが出来なかった。それから俺はステータス画面が存在しないと思っていた。しかし、レベルが上がった時に画面が出るなら、自分でも出せるはずだ。俺は一人ブツブツと呟く。

 

「……いでよ! ステータス画面! ……オープンステータス……頼む出てくれ……開けゴマ…………『マイステータス』」

 

 ――俺の前に半透明の画面が出てきた。

 

「……なるほど『マイステータス』だったのか」

 

 こんなのどうやって開けるんだよ。ほぼ当てずっぽうだったぞ……。せめて転生時に説明くらいしてほしいもんだ。

 ……さて、現状のステータスを確認だ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.30

 

 HP【3000/3000】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【50】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 スキル:【無し】

 

 

 ◇◇◇

 

 【不器用な魔法使いLv2】

 ・与える物理ダメージ3倍

 【魔法使いのとっておきLv2】

 ・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ

 【魔法使いの最終手段】

 ・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇

 

 

 ◇◇◇

 

 

 なるほど……改めて見るが、STRに振り過ぎたか? 脳筋ステータスだな。一発でも貰ったら結構なダメージになりそうだ。

 しかし、攻撃は最大の防御とも言うしな。実際まだこの世界に来てダメージは一度も食らってない。レベルを上げたいな。

 レベルが四十になればまた新しいアビリティが貰えるはずだ。

 正直スキルが欲しいところだが……魔法を使えない俺がスキルを貰っても意味が無いか。

 

 仕方ない、明日はもっと強いモンスターを狩ってレベル上げをしよう。アビリティ獲得の為に。

 

「……さて、俺も寝るか」

 

 ステータスを確認したあと俺は眠りについた。

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