第一章 アレン王国編

第一話「初アビリティ」

 俺は早速ゴブリン狩りへと向かう。もちろん杖は買い直した。

 流石のギャル店員さんも買い直しの早さに最初は引いていたけど、もう何回も同じ杖を買う俺を見て――

 

「いらっしゃ――あ、はい、いつものやつですね☆」

「……はい、いつもので」

 

 俺はあの店の常連となっていた。たった五百ルピの木製の杖を買い直す。いつの間にかあの店に木製の杖が五十本ほどストックしてあった。恐らく俺専用の杖だろう。流石に五十本は………買うか。俺なら買う可能性あるな。

 

 ゴブリン狩りで重要なのはまとめて相手をしないことだ。これはゲームでもそうだが、ギルドのお姉さんにも注意された。

 ゴブリンは個々では弱いですが群れるとめんどくさいですよ、と。なるべく俺は距離を取り、注意しながら戦うことにする。

 

「居た……! ゴブリンだ」

 

 五匹か。とはいえ隠れている可能性もある。こういう時魔法があれば遠距離から殺れるんだが……ないものねだりしても仕方ない。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 俺はゴブリンの背後を取り、次々と不意打ちでゴブリンを倒していく。ゴブリンは声を上げる間もなく倒れていく……。

 

「……ふぅ。杖は……大丈夫だな。まだいける」

 

 

 杖が折れない限りは大丈夫だ。以前獲得した【不器用な魔法使い】という腹の立つ名前のアビリティだが、これが案外使える。

 与える物理ダメージが二倍になるおかげで、軽く振っただけでも敵を倒せる。それは殴る回数が減る。つまり、杖へのダメージも軽減できるってことだ。

 今までは全力で振りかぶっていたからすぐに壊れたが、これなら一日で上げれるレベルも増えそうだな。

 

 ――俺はその後もゴブリンを狩り続けた。

 

 【レベルが十五に上がりました】

 

「……ふぅ、杖もそろそろ折れそうだし、この辺にしとくか」

 

 ここ最近で変わったことがある。それはお金だ。今まで杖と宿代で全て消えていたお金だが、【不器用な魔法使い】というアビリティのおかげで杖が折れにくくなった結果、買い替える回数が減り、冒険できる時間もだいぶ増え、お金も増えた。

 

「今日は贅沢するか!」

 

 俺が向かったのはいつもの店。

 

「いらっしゃ――はい、いつものですね☆」

「いや、今日は違う」

「え……まだ在庫あるのに買わないんですか……」

 

 おいそんな泣きそうな顔で見ないでくれ。俺が買うと思って大量に仕入れたのお前だろ……。俺のせいみたいに言うな。

 

「実は新しい杖を買おうと思ってな」

「新しいのですか?」

「えっと、魔力増強とか度外視で、頑丈さがウリの杖とかな――」

「――無いです」

 

 即答かよ。

 

「いや、あるだろ? 耐久力に優れた――」

「――ないです」

 

 ………。

 

「というのはまあ冗談です☆」

「は?」

「いやぁ~いつもの杖買って欲しくてつい……大量に仕入れたので、これ減らしてくれないと柊さん以外誰も買わないから邪魔なんですよ……」

 

 お前のせいだろ。

 

「頑丈が売りというより、普通に鉱石で造られた杖ならありますよ?」

「おお! 見せてくれ!」

 

 木製より石で出来た方が強いに決まってる(物理)。

 

 ギャル店員は杖を持ってきた。

 

「んしょっと……ふぅ……これ重いんですよね……ですから誰も買わないんです」

 

 俺も一応持ってみる事にした。確かに重いが持てないほどじゃない。

 

「これいくらだ?」

「十万ルピです」

 

 高っ! いや、まぁそうだよな。俺の所持金が一万ルピだから……あと十倍か……。これはまたゴブリン狩りの毎日になりそうだな。

 

「でも、柊さんはここの常連なのでオマケしますよ!」

「おお! マジか! ありがてぇ!」

「しかもタダです!」

「……お、おお! ありがたい………けどなんか裏がありそうだな」

「う、裏なんてありませんよ!? 一応条件はありますが……」

「…………言ってみろ」

 

 俺は一応聞いてみることにした。

 

「ここに置いてある木製のもはや柊さん専用と言わざるを得ない杖五十本を全部買ってくれたらタダにします☆」

「……俺にその杖全部買えってか」

「はい☆」

 

 はぁ……でも仕方ない。いつもの杖は五百ルピだ。それが五十本。二万五千ルピか……まぁ十万の杖がそれで貰えるのなら安いもんか。

 

「……分かった」

「ありがとうございます☆」

「じゃあいつものくれ」

「毎度あり~☆」

 

 こうして俺はいつもの木製の杖を買い直した。その日からはいつもと変わらない。ゴブリンを殴って殴って殴りまくる。そんなある日。

 

 【レベルが二十に上がりました】

 

 【アビリティ:『魔法使いのとっておき』を獲得しました】

 

 レベルが十上がる毎にアビリティが貰えるのか。スキルをくれよ。アビリティばっか寄越しやがって……。俺は一応獲得したアビリティを確認する。

 

 

 【アビリティ:『魔法使いのとっておき』】

 ・物理ダメージのクリティカル率百%

 

 おいおいほんとにとっておきじゃねぇか! クリティカル百%?

 ますます杖が壊れねぇぞこれは……! 俺は杖が壊れるのを一番気にしていた。もう慣れたもんだが、買い直すのは正直だるいし金がかかる。それに杖が折れたら戦えない。それは普通の魔法使いと同じだな。

 

 よし、あともう少し頑張れば鉱石製の杖が手に入る……!

 あと十本いつもの杖を買うだけだ! ……いやまてよ? 杖が壊れにくくなったということは……鉱石製の杖、手に入るの遅くなるってことじゃねぇかああああああああ!!

 

 杖が折れにくくなったおかげで、鉱石製の杖を貰うのに三十日もかかった。

 

 ***

 

「いやぁおめでとうございます☆」

「ほんとだよ……自分で折る訳にも行かないし、折れるまでモンスターと戦いまくったよ。おかげレベル二十九まで上がったぞ……」

「それはそれはおめでとうございます! ではどうぞ! こちら鉱石で出来た杖です☆」

 

 ついに手に入れた……! これで壊れる心配はしばらく無さそうだ! あとはレベル上げだな。あと一でレベル三十だ。明日この杖を試しに行ってくるか。

 

「ちなみにその杖には魔力増強がありまして――」

「――必要ない。ありがとな~」

 

 俺は店を出た。ギャル店員はまだ説明終わってませんよ~と後ろで騒いでいるが、気にしない。魔法が使えないんだから、魔力増強なんてあっても仕方ないしな。それより俺が欲しいのは杖自体の耐久力だ。杖の耐久力があればもう何もいらない。

 

 

 ***

 

 

「はああああああああああああっ!」

 

 今回はゴブリンじゃなくトロール狩りだ。今までの木製だと杖の方がダメになっちまってたが、今回は違う。全然折れない。

 

 流石にトロールとなると一撃という訳にはいかなかった。まぁ、一撃で倒せなかったというだけで、結局はゴブリンと同じだ。

 俺の敵ではなかった。

 

「ふぅ……流石だぜ鉱石製の杖。こころなしかダメージも上がってる気がする。木製よりやっぱ鉱石さまさまだな」

 

 【レベルが三十に上がりました】

 

「お、きたきた! 今回はどんなアビリティかな~?」

 

 【アビリティ:『不器用な魔法使い』のレベルが上がりました】

 ・物理ダメージが三倍になる。

 【アビリティ:『魔法使いのとっておき』のレベルが上がりました】

 ・物理ダメージのクリティカル率百%+十%ダメージ上乗せ。

 

 【アビリティ:『魔法使いの最終手段』を獲得しました】

 

 魔法使いの最終手段……?

 

 ・杖を所持している状態から未所持になった場合のみ、十秒間物理ダメージが五千%上昇。

 

 なんだこれ? 未所持になったらって……つまり素手ってことか?

 だとしたらこれは助かるな。杖が折れても戦う手段が出来るということだ。しかし、倍率は高いが効果時間が十秒とは短いな。

 やはりなるべく杖は折らない様にしよう。

 

 明日は冒険者仲間でも探しにギルドにでも行ってみるか。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.30

 

 HP【3000/3000】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【50】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 スキル:【無し】

 

 ◇◇◇

 

 

 

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