故郷は、いつも晴れていた。

あきかん

第1話

 この街はいつも晴れている。嫌気がさす。底抜けた真っ青な空から照らしてくる日差しを浴びていると、ここに帰ってきたことを実感する。

「なぁ、10年ぶりだろ。少しは思い出話でもしてええんと違うか。」

 煙草をくわえなおす。大きく吸った。煙草の灰が地面に落ちる。

「誰のおかげでこの街に帰って来ることになったと思っとんのや。」

 情けなく女の子座りをしている九島の顔に前蹴りを見舞う。ゴツン!と後ろの壁に九島の頭が当たる。後ろで結んでいた九島の髪がほどけて、前髪が九島の顔を隠す。俺は屈んで九島の髪を掴んで顔を晒す。俺は気付けを兼ねて九島を叩く。バチン!と大きな音をたてた。

「なぁ、おい!聞いてんのか!お前は昔からそうやったな。人の話をろくに聞きもせんと1人で突っ走る。それでどんだけ周りに迷惑かけてきたか。少しは成長ってもんをせえへんのか。ボケ!アホンダラ!」

 ミーン!ミーン!ミーン!ミーン!ミーン!……。絶え間なく響く蝉時雨が静寂を告げる。

「勘弁してえな、涼ちゃん。昔からの仲やないか。ほんま頼むわ。な、見逃し……」

 俺は九島の髪を掴んだ手を持ち上げる。九島の顔が見上げる形になる。俺は空いている片方の手を握り締め振り下ろした。

 鎖骨に当たる。ミシッと擬音がしたような感触が右手に伝わった。

「お前、自分が何をしたんかまだわからんのか?助けるわけないやろ。ええ加減にせえよ。」

 九島はゴフッと息を漏らすが言葉は出さなかった。苦虫を噛み潰したような顔をしている。痛みを耐えているのだろうか。赤い筋が口元から喉にかけて伸びて行く。

「なぁ、九島。お前は俺だけじゃなくて水樹にも迷惑かけたんや。あいつがお前のせいでどんなことされたんか知っとんのか?」

「お前、水樹の、こと、好きなんか?」

 九島がたどたどしく言う。

「今、そこ関係ないやろ。」

「まぁ、そう、やな。涼、後生だから、ひと思いにやってくれへんか。いたいの嫌いやねん。」

 九島はあきらめた顔をして俺に言ってきた。俺は匕首を取り出す。


「言われんでもやったるわ。」


 


 

 

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