第14話 低姿勢で冒険者の妻を支える夫として

【レディー・マッスル】の面々が集まっている大広間にて、マリリンは腕を振り上げ――。



「皆の者! 我は帰ってきたぞ!!!」



 この言葉にギルドは震えんばかりの雄叫びに満ち溢れた。

 そして彼女と一緒にジャックとマイケルと並ぶ僕を見て、一部は驚愕し、一部は目を見張った。



「そして、この我の夫であるカズマだ!」

「こうして皆様に会うのは初めてですね。僕の名はカズマ。皆さんの口にしている食事に関する砂糖や塩と言った調味料及び、シャンプーなどをマリリンに手渡した者……と言えば、皆さんにも伝わりやすいかと思います」



 笑顔口にした言葉に女性陣からも男性陣からも感嘆の声が上がり、尚且つ感謝の言葉が次々に溢れた。

 それもそうだろう。

 このギルドが今までに増して注目されているのは、僕のいた世界からもたらした物による恩恵がとても高いのだから。



「この度、妻と共に僕の故郷に向かい、ギルドで不足してきていた調味料や美容に関する物の追加も大量に持ってきています。是非【レディー・マッスル】の皆さまに使って頂きたく」

「それは有難い。そろそろ在庫が切れ始めていたからな」

「僕のような若輩者が、皆さまが憧れるギルドマスターの夫では不安も大きいでしょうが、出来うる限りギルドの皆さまの為に働き、そして何より、誠心誠意、妻であるマリリリンの為に尽くしていく所存です。どうか皆さま、宜しくお願い致します」



 笑顔で、それでいて低姿勢。

 冒険者としてはマイナスだろうが、英雄の妻を支える夫という立場で言えば合格点だろう。

 一斉に鳴り響いた拍手がその答えだろうと理解すると、その日の内にマイケルさんと話し合って商品の販売に関する内容を纏め、更に明日城に着ていく服を用意され、既製品を何とかマリリンの持つドレスに合わせた形に変えて貰った。


 無論、服を扱う彼らですらマリリンの持つドレスに驚き、何処で手に入れたのかを聞いてきたが、それら全てに関してマリリンは「夫からのプレゼントだ」で通した。

 怒涛の一日だったが、此れもすべて自分の為であり、マリリンの為だ。



 さぁ、明日は城へ向かう事が決まっている。

 少しだけ暴れても問題はないだろう。



 翌朝、着替えを済ませ、マリリンの用意が終わるのを待っていた。

 暫くすると、肉体美を美しく魅せる僕の世界ならではのドレスに身を包み、この世界では余りにも希少価値が高いとされる宝石をさりげなく、それでいて存在感も放ちながら彼女自身を美しく飾り、更に言えば美しく化粧を施した彼女に、ギルド面子は言葉もなく動くことすら出来ない。



「とてもお似合いです。流石は僕の妻ですね」

「はははは! これら全てをプレゼントしてくれた夫には感謝してもしきれんよ!」

「戦う貴女も素敵ですが、美しく着飾った貴女を見たいのも夫の心理ですよ。その為に必要な物でしたら喜んでご用意いたしましょう」

「全く、照れるではないか!」

「ではそんな愛しい妻に一言良いでしょうか?」

「む?」

「……今日の貴女も、他の女性が霞むほどに美しい」



 そう言って僕は自分よりも大きなマリリンの手を取り、軽くキスを落とすと周囲からは黄色い悲鳴が上がった。



「それでは、エスコートさせて頂いても?」

「う……うむ!!」

「お手をどうぞ」



 ――このやり取りを見ていたジャックとマイケルは驚愕しながらも歩き出した。

 ギルドが保有している豪華な馬車に乗り込むと戦場となる城へと走りだす。



 マイケルさんから聞いた、この国の現状。

 一言で言えば、【レディー・マッスル】のギルドがあるからこそ、他国から攻め込まれることなく何とか成り立っている。


 言い換えれば、ギルドが別の国に移動してしまえばこの国は直ぐにでも植民地になっても可笑しくは無いのだ。

 それを理解が出来ないのか、それとも見て見ぬふりをしているのか、女王陛下とマリリンの元婚約者である王配と言うのは余りにも愚かすぎだろう。


 さて、まずは集まっている貴族がどう動くか。

 有名な商人も呼ばれていると言うし、相手次第ではあるが、交渉次第でギルドは更に潤う事になるし、マリリンの名も更に盤石なものになる。


 この国の貴族たちが集まり、その場で毎回行われてきたマリリンへの嫌がらせ。

 それも、今回で終わりにする。

 切れる縁ならばサッサと切ってしまうのが早いし、何より早朝マイケルさんの素晴らしい書面と一緒に、各国にマリリンの結婚は通達済みだ。


 無論――今から向かう場所にも通達は行っている。

「知らぬ、存ぜぬ」は通用しないのだ。


 城に到着すると、大きな門が開き馬車は城の中へと入っていく。

 此処まで来る途中の街中も観ていたが、街中の状況と城の煌びやかさが、余りにもアンバランスに感じる。

 国民からの血税で国のトップが好き勝手している……と言う典型的な姿と言えば解りやすいだろうか。



「随分とこの国のトップは愚かなようですね」



 笑顔で口にした僕にマリリンは驚き、ジャックとマイケルは強く頷いた。



「さて、城の中は敵陣と思っていいでしょうが……マリリンは幸せそうに微笑んで僕の隣に立っているだけで構いませんからね? 他は僕とマイケルさんとでやり合います」

「本当に大丈夫なのか……?」

「僕は、勝ち戦しかしませんよ」



 そう笑顔で言うと馬車は止まり、城への入り口へ到着したようだ。

 先にジャックさんとマイケルさんが降り、次に僕が降りるとエスコートするようにマリリンに手を伸ばした。

 無論、現れたマリリンに城の者たちは驚きを隠せないでいたが、マリリンは幸せそうにカズマの隣に立ち、彼女の歩幅に合わせて会場へと歩いていく。


 ――この異世界には存在しない極上のシルクドレスに身を包んだマリリンは美しく、短い髪であったとしても、その両耳には美しい宝石のついたイヤリング。

 そして、その宝石に合わせたネックレスは光り輝いていた。

 靴に関しても厳選したマリリンの足に合う光沢ある美しい物を履いており、会場に入るなり視線が一斉に集まり会場はざわついた。


 貴族たちが近寄らないのは、今までマリリンにしてきた仕打ちの性か、それとも何かしらの派閥があるのか……。それでも、一部の貴族はマリリンの許へやってきては、ドレスは何処で手に入れられたのか、その宝石は何処で? 等と、マリリン自身を褒めることは一切無く、単純にマリリンが着ている全てが羨ましくてたまらないだけのようだ。

 だが、そんな質問に対してマリリンが口にする言葉はただ一つ。



「これらのドレスも靴も化粧も宝石も、全て夫からのプレゼントですよ」

「夫……ですか?」

「あら、まだ女王陛下から通達がきていないのかしら? 早朝に各国の王家に私の結婚の報告を致しましたのに」



 幸せそうにカズマの細い腕に手を通すマリリンに、貴族の女性たちは顔を引き攣らせていた。

 無論、中には猛者もいて「わたくしにもマリリンさんが着ていらっしゃるようなドレスや宝石を紹介して頂けません?」と聞いてくる輩もいたが――。



「申し訳ありません。私は愛しい妻を美しくして差し上げたくて用意したので、他の女性を美しくする事は妻に失礼ですから出来ません。やはり夫ならば、愛しい妻を更に美しくするために頑張るものでしょうし、あなた様の旦那様はそんな事もして下さらない甲斐性なしなのですか? ……お可哀そうに」


 悲しそうに。

 憐れむように。


 そんな瞳で見られた女性達はカズマ達から去っていった。

 得てしまった悪意を知ることが出来るスキルの所為で、相手の言葉が如何に巧妙な悪意と欲が含まれているのか感じ取れるようになってしまっているようだ。

 商売するには最高のスキルだな~と思っていると、盛大なラッパの音が鳴り、女王陛下と王配が登場したようだ。


 今現在、誰よりも最先端のドレスを身にまとい。

 今現在、誰よりも優れて希少価値の高い宝石を身に着け。

 今現在、誰よりも美しさに気を使っているであろうこの国のピエロ。

 そして、そのピエロの隣で張り付いた笑顔で立っている王配。


 ――さて、どう料理をしてくれようか。

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