第13話 いざ、僕も異世界へ!!

 大型連休の前日。

 マリリンへの新たなプレゼントと、彼女の兄であるジャックさん、そして仕事仲間になるだろうマイケルさんへの贈り物を用意し、僕はある程度の着替えを鞄に用意して納屋の二階にマリリンと共に来た。

 異世界に必要であり、足りなくなってきていた物品に関しては、数回にわけて通販で大量に買い、マリリンの空間魔法の中に入れ込んで貰っている。


 異世界の状態がイマイチ理解できていないが、この際マイケルさん達に詳しく教えて貰う予定だ。

 何より、異世界についたら色々やる事はあるにせよ、間違いなく王城へ向かう事になるだろうし、あちらで保管して貰っているお金を使い、失礼のないシッカリとした服を作って貰う予定だ。


 理想は――マリリンの隣に立っても見劣りしない服装……が好ましいが、用意できるだろうか。

 マリリンに関しては、海外ブランドのドレスと靴、そしてアクセサリー等、一通りの女性に必要な物は用意した。

 異世界で通用するのかと聞いたところ「十分過ぎて恐ろしい」と言っていた為、大丈夫だろう。僕もちゃんとしたアクセサリーというか、宝石は用意した。



「じゃあ行ってくるよ。連休終わる前には帰ってくる予定だけど、何かあったらよろしく」

「了解よ」

「シッカリと嫁さんを守るんだぞ!」



 両親に応援され、僕はマリリンと共に鏡を潜った。

 妙な違和感がしたものの、特に難なく知らない部屋に入った途端――脳に響いた声に頭を抱えて蹲った。



『スキル:言語理解を取得しました』

『スキル:交渉術を取得しました』

『スキル:悪意察知を取得しました』

『スキル:瞬時暗算を取得しました』

『スキル:読唇術を取得しました』

『スキル:超記憶力を取得しました』

『スキル:速読を取得しました』

『スキル:アイテムボックス特大を取得しました』


『称号:英雄の夫を取得しました』

『称号:国の秩序を取得しました』

『称号:国の救世主を取得しました』




 流れてきた声と内容に立ち眩みを起こしていると、マリリンはカズマを抱き上げ扉を蹴破ると何かを叫んだ。

 空を飛ぶように現れたのは――マリリンによく似た、少し年上の男性と、綺麗な赤い髪で切れ長の青い瞳の男性だった。



「大変なんだ!! 夫が!! 夫が立ち眩みを!!」

「落ち着けマリリン!! 暫く横にさせて落ち着かせるんだ」

「直ぐにうちのギルドから治療師を呼ぼう。マリリンとジャックは一先ずマリリンのベッドでカズマ様を休ませてやってくれ」



 綺麗な赤い髪の男性の言葉に二人は頷いたが、何とか振り絞って手を伸ばすと、真っ直ぐ顔を上げマリリンの腕から降りると二人に深々と頭を下げた。



「御見苦しい所をお見せいたしました。僕の名はカズマ。異世界より訪れたマリリンの夫で御座います」



 まだ青い顔かもしれない。

 けれど、シッカリと二人には挨拶をしておきたかった。



「初めての異世界でしたので、沢山のスキルと称号の情報に頭が混乱したこと、お許しいただけたら幸いです」

「マリリンが言っていた異世界の……っ! スキルは兎も角……称号だと?」

「カズマ、本来称号を貰う事は極めて異例なんだぞ? 我のように英雄を貰う事すら激レアだぞ?」

「マリリンの信頼のおける方々になら、今受け取った称号をお話しすることは可能だとは思いますが……何分、この異世界での事は全く解っておらぬものでして。本当に情けない限りです」



 僕の言葉にマリリンは何度も首を横に振って抱きしめてきたが、部屋に入ってきた二人は僕の事を馬鹿にするどころか驚いた表情をしている。

 他の者が気付く前にと一度マリリンの部屋に戻ると、扉を魔法で修復し、僕のステータスを見せて貰った。

 確かにステータス的に見れば初級冒険者レベルのモノではあったが、何よりもスキルと称号が余りにも恐ろしいと僕を含め全員が思った。

 内心「コレがチートと言うものか」と困惑はしたものの、血を見るような俺ツエー系でない事に少しだけホッとした。



「これは……我々以外に見せないほうが身の為だろう」

「ええ、僕もそう思います。冷静になれた今だからこそ解りますが、今、この国の現状を考えれば間違いなく暗殺されても仕方ないものでしょう」

「我の夫にしてこれだけ祝福された称号……やはり建国方がいいのでは?」



 真面目な顔で考え込むマリリンの肩をポンポンと叩くと、僕は小さく溜息を吐いた。



「それは追々考えるべきであって、今決める事ではないよマリリン」

「カズマ……」

「僕はまだこの異世界を知らなさすぎる。マイケルさんにお願いがあります。この世界の知識を二日で構いません。徹底的に教えて頂けませんか?」



『スキル:超記憶力』があれば二日もあれば叩き込める所は叩き込むことは可能だろう。

 異世界の事を一気に詰め込むためにも二日は欲しい。

 そして、自分が異世界人であることを出来るだけ周囲に漏らさず、この異世界に馴染むことが出来ればマリリンへの被害は最小限で済む筈だ。



「……出来るか?」

「今自分に出来るだけの事はしておきたいのです。このギルドの為にも、そして、妻の為にも」



 僕の言葉にマイケルは小さく息を吐くと、マリリンの帰宅はまだ黙っておくことにして、まずは僕に二日間みっちりとこの異世界の知識を叩きこむことを了承してくれた。

 そして勉強の傍ら、城へ赴く為の服装を急ぎ作って貰う事にし、マリリンに二日だけ待って貰うよう頼み込んでから彼女へプレゼントを手渡し、そしてマイケルとジャックと共に資料室へと案内された。


 資料室――とは言っても、このギルドで保管している他国及び、この国の機密情報も大量に入っているため、マリリンとジャック、そしてマイケルしか開くことは出来ない。


 そこでの二日間の徹底した情報収集は熾烈を極めたが――二日後、速読と超記憶力のお陰でほぼ全ての内容は頭に叩き込むことが出来た。

 軽く頭の痛さを感じたが、五日しかない連休だ。

 三日目の今日は、マリリンと共に夫である僕が帰宅したことをギルド面子に大々的に報告し、四日目には異世界全ての王国にマリリンの結婚報告及び、マリリンへ対して失礼を繰り返してきた城へ向かう事が決まっている。


 相手の出方次第だが、こちらも徹底して笑顔でやり合おうと思っている。

 マイケルさんとマリリン達が待つ部屋に向かう途中、彼から小さな溜息が零れた。



「どうかなさいましたか?」

「いや、その……異世界人とは、皆が堂々として肝が据わっているのかと思ってな」

「さぁ、どうでしょう? 僕としては願ったり叶ったりのスキル等でしたし、この力でギルドを、そしてマリリンを守れるのならば、多少なりの命の危険も構いません」

「やれやれ」

「それでは手筈通りにお願いしますね」

「了解だ」



 こうして、僕たちはマリリンとジャックさんと合流し、ギルドの一階に集められた沢山のギルド面子及び、このギルドの要ともいえる錬金術師たちと対面した。




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