処刑器具は語り合う
あらすじ
自我のある処刑器具であるギロチンが、他の処刑器具、拷問器具が並ぶ収納室にてそれら器具たちと会話する話
最後は器具たちが満場一致で、「結局自分たちなんか使わず、安らかに逝ってくれるのが一番だよねー」と言いながら終わる
背景
世界崩壊後の違反者や犯罪者を罰する道具たちの話
真っ暗な部屋の中に佇む器具。
それは人の首をたやすく切り落とし、数多の受刑者達の命を刈り取ってきた。処刑、という違反者を断罪する席にて使われる断頭台。
そう、その名は――
「しっかし、今日もよく働いたねー、ギロチン君」
薄暗闇の部屋に並べられた拷問器具や処刑器具。
人間には聞こえるはずもない、彼ら道具たちが織りなす会話の中、話題に上がったのは本日の功労者、ギロチンである。
とある王族の女性を処刑する際に初めてお披露目された道具の彼だが、今日の疲れに比べたら昔話などどうでもいい話であった。
「いやでも君、すごいよ。俺なんかずっと焦げ臭い人間の匂いを嗅いでなきゃならないんだからさ」
ギロチンを褒めちぎるのは、隣に立つ機械的な意匠が目立つ椅子の電気椅子である。
「……よく喋るね。まるで舌でも痺れたみたいにさ」
ギロチンは他の器具たちの前では滅多に話すことはないが、この時ばかりはさすがの電気椅子のトークにしびれを切らしたようだった。
「お、うまいこと言うねー。ギロチン君、君ってクールに見えて実はじわじわと殺す道具に転職したかったりして?」
「うるさいわね。アンタの声で体が錆びたらどう責任とってくれるのさ」
「おやおや、これは失敬失敬、鉄の姉さん」
電気椅子の目の前、倉庫の入り口付近に立て掛けられた金属の棺のようなビジュアルを持つそれの腹には、いくつもの棘が見え隠れしていた。
閉じ込めた人間を体内の棘にてじわじわと苦しめ、やがてその瞳からは受刑者の赤い涙を流すとされる鉄の処女。アイアンメイデンである。
「まったく、私は滅多に使われないってのに、アンタたちは人間様から贔屓にされてるそうじゃないか」
「そりゃあだって鉄の姉さんはさ……ほらその、掃除とか大変そうじゃん」
「電気椅子、もう一変言ってみな! その全身この棘で揉み解して、二度と使い物にならなくしてあげてもいいんだよ?」
「か、勘弁してくれよ姉さん……ほら、ギロチン君も何か言ってやってくれよ」
ギロチンは話を電気椅子から振られると、
「今のは君が悪い」
振り下ろされた刃のようにあっさりと返すのだった。
「なんやなんや。お前ら自分の殺傷力とかでもしかしてタメ張ってる口か?」
倉庫で話す三つの器具に新たな器具が参加する。
そのフォルムは何重にも巻かれた紐。その明るい見た目とは裏腹に、見る者を恐怖と絶望に突き落としてきた。
作ろうと思えば一般人でも可能な自殺道具として有名な彼の名は――
「相変わらずね、吊り縄。アンタの傲慢な口も、絞めてきた人間同様に黙っちまったのかと思ってたよ」
鉄の処女がケンカ腰にそう呟く。
吊り縄は自分がどこにでも普及するセルフな自殺道具であり、処刑道具だということをとても誇らしげに語る。
必然そこに生まれる器具たちからの視線は、呆然か無視の二択であった。
「がっはっはっはぁ! お前らなんぞより、ワシの方が人間共をあの世に送りまくっとるんや! えらい差を感じるなあ!」
鉄の処女は相変わらず言葉によるマウント合戦を試みていたが、吊り縄の勢いは止まらない。
電気椅子に関しては吊り縄と張り合いたくないのか、「いやあ、そうですよね吊り縄さーん!」などと褒め讃えている。まるでヤクザの弟分のような態度だ。
「どうやギロチン。お前が今までに殺した人間の数を話すところを、ワシは見たことないな。もしかして興味ないんか?」
ギロチンはしばらく黙っていると、ゆっくりと話しだした。
「吊り縄。君の言う通り、俺は自分が殺した数に興味はない。ただ――」
「ただ?」
吊り縄がギロチンの返答を待つ。
「結局自分たちなど使わず、安らかに逝ってくれるのが一番だと俺は思っている」
すると次の瞬間、扉の方から音が立つ。
軍服に身を包んだ警官が2名倉庫に現れると、ギロチンを両手で持ち、外へと持ち出す。
またも誰かの罪を、裁く時間だ。
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