短編ともエッセイとも説明のつかない物語集合体

アルファトオメガ

紅蓮家屋

 その日は一年で最も暑いと思える夏の日だった。

 地面に立ち昇る陽炎も、鳴き散らす蝉の鳴き声も、暑さを吹き飛ばさんと公園を駆け巡る汗だくな子どもたちの姿も、何もかもがその日の暑さを象徴していた。

 そんな夏の風物詩の一通りを一日にして全て仰ぎ見てしまったと満足が行くかも分からない気持ちに陥りながら、一人玄関の前に立つ。

「ただいま」

 鉄製のドアノブに触れた途端、背後に刃物を押し付けられたかのような、痛みとも冷たさとも形容し難い何かを感じた。

 ドアノブは燃えるように暑かった。

 そんな常識を通り越した灼熱のドアノブを再び警戒し、私は夕暮れの中、家の玄関を開け放った。

 燃えていた。

 赤色の景色と黒色の景色が混在し、大渋滞を起こしていた。

 火の手、火の手、黒い手。

 火の手はごうごうと家のあちこちに伝播し、そこら中に炎(どうし)の灯火を絶やさんとその勢力図を更新していた。

 片や、黒い手は炎の侵攻に耐えきれず、敵軍の火炙りの刑に処されている真っ只中だった。

「おがえ……り」

 家族の誰かとも判別がつかないその人型は、私の方に手を伸ばす。しばらく宙に手を掲げてからパタリと黒い手は脱力し、炎の軍隊の養分となった。

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