第8話「神殺し・「静止」」

「神…殺し……。」

「その名の通り、神と、神の力を殺す事が出来る力だよ。俺達非力な人間が持つ、ある種最強の可能性だ。」


ぽつりと呟くフリードに、俺は簡単に説明する。

神を殺す力。開眼条件含めて殆どが謎に包まれた力だ。

何せ、これを持ち得た人間は長い歴史で見ても殆ど存在しない。

用途の関係上、持っていても気づかないのかもしれないし、公言してない可能性もあるかもしれない。

俺も色々と調べたが、分かったのは所持者が殆どいない事と、その能力自体にも個人差があるという事だけだ。


「神の力を殺す………。じゃあ、アルシアが僕の神の刻印を破壊したのも……」

「そうだ。俺も使えるよ。もっとも、アリスのそれとは間違いなく性質が違うし、危険な物だ。神と相対する事が無いのもあって、基本的には使わないようにしてる。」

「たしかに、私の力と違うみたいですよね……。」


アリスが先日の事を思い返しながら言うので、俺は頷いた。


「アリスの力は恐らくは「静止」の力だろう。フェンリルの「静止」の権能と同質の力だな。」

「……たぶん、そうだと思います。あの子が言ってました。力を使う時、もっとも信頼している誰かを思い浮かべて使え、と。」

「…………あの子?」

「アリス曰く、シギュンと名乗っていたそうじゃ。妾達の事を知ってる様な口ぶりだったらしいが………、汝ら、心当たりは?」


フェンリルの問い掛けにニーザもフレスも頭を振る。勿論、俺もだ。

そんな名前は聞いたことがない。


「……フリード、先生はこの名に覚えは?」

「すまないが分からない。アルシア達の名前を出したなら、僕とディートリヒは関係無いと思う。」

「私もフリードと同じ意見です。遺跡調査などで出掛ける時、現地民とも話しますが、その名前には心当たりが無い。」


やはりと言うべきか、先生達も知らない様だった。


「アリス。その子の特徴は?」

「私と同い年くらいの真っ白な女の子でした。あそこにいるのが不思議なくらい……。あ、でも耳に付けてる羽飾りだけは黒でした。」

「白くて………」

「黒い耳飾り………」


やはりと言うか、全員首を傾げた。

心当たりが無い。フェンリル達は知らないが、俺の知り合いにはアリスと同い年くらいの女の子という所で該当する人物が一気に居なくなる。

居たとしても、それは2000年前の話だろう。


「………その少女の事は一度置いておこう。無関係とは思えないが、用があれば向こうから来るだろうし。アルシアの言う鎧の魔族も、いつ動き出すか分からないからな。」


フレスの言葉に、俺達全員は頷いた。

奴がいつ動き出すか分からない以上、早めに動く方がいい。


「アルシア。一応聞くが、その鎧の魔族はどの程度消耗している?」

「………バフォロスの封印を解いた上で、ベルゼブブで雷噛を叩き込んだ。それに加えてニーザが追い討ちを掛けてる。完全に修復するだけでも、スルトの神核の劣化具合、あの傷付き具合から見て10日は掛かるはずだ。もっとも、奴らにソレを即時修復する手が無ければ、の話だがな。」


フレスはそれだけ聞くと、無言で頷いて剣を掴んで背を向ける。


「私は先に行く。アルシア、ニーザ。セシャト砂漠………の方は任せたぞ。」

「分かった。フレスも気を付けて行けよ。」


そう返すとフレスは「分かっている。」と答えて部屋を後にした。


「って訳で、俺達も行ってくる。何かあったら念話で教えてくれ。」


フェンリル達が頷いたのを確認して、俺とニーザも出かける準備を始めるのだった。

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