第7話「劣化した神核」
ニーザに起こされた流れで、俺はそのまま来賓室へ向かった。
部屋に入るともう既に全員集まっていて、その中にはアリスもいる。
「アリス。身体の方はもういいのか?」
「はい。本当に疲労から来る物だったので、今はもうへっちゃらです!」
アリスが笑顔でそれに応える。
この様子なら問題無いだろう。元気そうで何よりだ。
確認の為、ずっと一緒にいたフェンリルを見たが、彼女も案ずるなと言うように頷いている。
「そういう汝はよいのか?かなりの強敵だったと聞いておるが……。」
俺もあの後、城に戻ってから戦闘でのダメージで少しばかり休んでいた。
まあ、大事ではなかったのだが。
「問題無いよ。俺もアリスと同じでフレスの力と神術、バフォロスの封印を解いた反動が来ただけだ。アリス程ではない。それよりも………」
「あの鎧の魔族の事ね?アタシが着いた時にはもう決着みたいだったけど……」
再び小さくなったニーザの言葉に俺は頷く。
「ああ。中々強かった。途中までバフォロス抜きでやるのはかなりキツかったよ。」
「何故使わなかった?」
「相手がスルトの神核を持ってた。元々の持ち主に攻撃するのをバフォロスが嫌がったんだよ。」
「スルト………、やはりか……。」
はじめに魔族の襲撃を感知していたフレス達が納得した様に頷く。
彼らは俺以上にスルトとの付き合いが長い。
気付かない方が無理があるというものだろう。
だが、話を聞いていたアリス達は驚いていた。
「神核を持っていた………、生きてたとは違うんですよね?」
アリスの純粋な疑問に「そうだ。」と返す。
「間違いなく死んでいる。神核は人間でいうところの心臓だ。それを抜かれるか破壊されるかすれば、如何に神といえど当然死ぬ。俺が戦ったのはスルトの神核を組み込んで作られた魔族だ。恐らくだが、奴自身が黒幕か……、そうでなければ尖兵の1人だ。マグジールと同じ、な。」
まあ、同じとは言ったがあの鎧の魔族の方が今のところ、脅威度は遥かに上だ。
ラヴァ・スライムに一瞬だけ使ったような手は使ってないとはいえ、次戦った時に同じ結果になるとは限らない。
「よく勝てたね。」
「スルトの神核が劣化してなければ分からなかったよ。」
「劣化?」
フリードが眉を顰める。
「ああ。スルトの神核は、その力の殆どを失っていた。アイツが使ってきたスルトの技も、元が同じなだけで本来の出力からは程遠い。」
「敵の仕業ですかな……?」
「いや、それは有り得ない。アレは恐らく、元から劣化していたんだろう。」
ディートリヒの問いに、俺は頭を振る。
半壊した鎧の魔族の空の体内……、そこから僅かに露出したスルトの神核は不自然な程に劣化していた。
そもそも、裏で糸を引いてるのが予想通り神であるのならば、零落して大幅に弱くなっている神の神核を自分でボロボロにして取り込む理由が分からない。
そのまま奪い取れるはずだし、似たようなモノでいいならフェンリル達を取り込むなり、0から創り出すことだって出来るはずだ。
だが、それなら何の為に……?
考え込んでいると、ニーザが口を開いた。
「ねえ、アルシア。聞きたいんだけど、スルトの神核はどう劣化していたの?」
「砕いた鎧の隙間から見えた感じだと、自分で抉ったような感じだな。あくまで身体を動かす程度にしか機能してない、そんな感じだった。」
「自分で抉った……、何かに使ったっていう事かしら?」
「………やっぱり、そう思うか?」
ニーザは俺の問いに首を縦に振った。
「その言い方だとね。それしか説明付かないもの。」
「やはり、ロキの遺体にか?」
「もしそうなら、その可能性が高いと思うわ。」
「………ちょっと待て。なんでそこでロキの遺体の話になるんだ?」
ニーザ達が急にロキの遺体の話まで始めたので、どういう事だと俺は尋ねた。
「スルトがアンタを止めに行ったあとにね。アイツがフェンリルに念話を寄越したの。『ロキの遺体を埋葬する。』って。」
「埋葬……、場所は?」
その問いにフェンリルは首を横に振った。
「奴は場所までは言っていなかった。聞こうにも、その後のドサクサで奴は死んだ。ロキの埋葬に神核を使ったのであれば、探し当てたところで本人がいなければ掘り出す事も出来ん。」
「もし、ロキの遺体に神核を使ったなら、スルトの死因は……」
「恐らくは弱体化したところを何者かに狙われたのじゃろう。いかにあやつでも、そんな状態で戦えば普通の魔導師か騎士くらいの力しか出せまい。」
「なら、敵は弱体化したスルトを襲って神核を奪い去り……、それであの鎧の魔族を作り上げた……。」
「汝が言う神核の劣化の仕方が本当にそうであれば、じゃがな。」
「あの………、」
アリスが恐る恐る手を上げたので、俺達はアリスを見る。
「どうした、アリスよ?」
「皆さんみたいな方を埋葬するには神核を使う物なのですか?」
「いや、本来は神術、又はそれに近い出力を持つ魔法を使う。ロキクラスの遺体を何もせず、下界にそのまま放置すれば何が起きるか分からんからな。」
「急だった、という事でしょうか……。」
「ロキが殺されてから異変はすぐに起きた。大規模侵攻に加えて、アレ以上の被害が起きないようにスルトが無理矢理埋葬を行ったと見るべきだろうが……」
フェンリルはそこで言葉を切って考え込んでしまった。
「……フェンリルさん?」
「スルト………。あやつが行ったのは本当に埋葬なのか?」
「……埋葬じゃない?」
「あくまで可能性じゃが、な。アルシア、頼みがある。」
何となく何を頼まれるか分かるが、一応聞く事にする。
「何だ?」
「ロキの遺体探しをしてくれぬか?」
「断る。ロキの遺体探しはお前達でやれ。」
「何じゃと?」と苛立ちを隠しもせずフェンリルが俺を睨むが、俺は「違うぞ。」とやんわり宥めた。
「すまん、端折りすぎたな。俺も探しはする。だが、別方面から攻めたい。」
「……と言うと?」
「セシャト砂漠に向かう。」
「………あー。」
行き先を聞いて全てを悟ったフェンリルは納得しながらも微妙な顔をし、フレスも珍しく嫌そうな顔を、ニーザは目を輝かせていた。
「アタシも行くわ。」
「え、いや……、それはちょっと………。」
「なーんーでーよー!?」
いきなり遠慮する俺に、ニーザが背中の翼でぱたぱた飛びながら俺の肩を掴んでぶんぶんと揺らす。
セシャト砂漠に向かうには距離の関係上、途中の村でどうしても一泊はする。
大人の方が出てくる可能性があるので、ニーザと2人はどうしても落ち着かないのだ。
主に、過去の経験のせいで。
「……まあよい。アルシア、ニーザと共にセシャト砂漠へ向かえ。何かあった際、ニーザと共におれば少しでも早くコチラに戻れるだろう。」
「………分かった。」
最早これは決まったも同然だ。
ニーザはセシャト砂漠のある場所に行ける事を喜んでいるし、これ以上ごねるとアリスにしばかれる。
しかも、今回は仕事で行くのだ。
ワガママを言う訳にはいかないだろう。
「なら私は最初に巨人族の村、ルグネット火山、アスレウム溟海を周る。君はどうする、フェンリル?」
「妾も探したいところだが……、アリスの力を鍛える。この先の戦いには、どうしても必要じゃ。」
「アリスはいいのか?」
「はい。フェンリルさんと話し合って決めてます。神術を更に使いこなすのと、私の……、神殺しの力を完全に制御する為に。」
「……分かった。フェンリル、ヘマするなよ。」
「分かっておる。危険な修行だが、危ない真似はせぬよ。」
「神…、殺し……?」
俺達が会話する中、フリード達は耳慣れない単語に眉を顰めた。
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