【10000PV突破】災い起こしのアルシア〜二つの災厄と忘れられた墓標〜

第5話「暴食の魔装具」

要塞だった広間に、ブ…ン、と不快な羽音が響き渡る。

音の発生源は俺の手の中、翅と甲殻が合わさった様な剣だ。

鎧の魔族は飛ばした両腕を自身の身体へと戻し、今度は先程よりも広範囲に地嶽炎刃を発動させる。

無数の紅蓮の刃が四方から俺を貫く為に迫るが、俺は手元の剣を地面へと突き立てた。

すると振動の波が俺を中心に四方へと広がり、振動の波が地面から生まれたそれらを喰らい削っていく。

軽く地面に突き刺しただけでコレだ。

相変わらずの破壊力を持つ手元の剣に、俺は微妙な顔を向ける。

「久々に封印を解いた気分はどうだ？ベルゼブブ。」

俺はギチギチ音を鳴らす剣を、真の銘で呼ぶ。

ベルゼブブ。それがこの魔装具の本当の名であり、正体だ。

普段のあの姿は、言ってしまえば鞘に入れているような物だ。

そうでなければ、収納魔法の中でも暴れ狂うこんな物、危なくて手元にも置けやしない。

鎧の魔族はもうあの程度の力では勝てないと悟ったのだろう。

炎閃を幾重にも束ねた高炎圧の刃を2つ生み出して構えた。

やはりと言うか、ここで終わるタマではない。

俺は鎧の魔族にベルゼブブを突き付ける。

（力を借りるぞ……。）

「召喚（サモン）―――、フレスベルグ。」

背中に魔力で編まれた純白の羽根が現れ、強大なフレスベルグの力が暴れ狂うベルゼブブの力を完全に制御化に置く。

再び俺が走り出した。

鎧の魔族も同時に走り出し、その双刃を俺に振り下ろす。

俺は振り下ろされた刃をベルゼブブで受け止めて弾き飛ばし、今度はこちらから斬り掛かるが、鎧の魔族は刃一本でそれを受け止め、もう片方の手の指で再び炎閃を放つ。

俺は避けない。避ける必要もないからだ。

炎閃は俺に当たる前に、纏っているフレスベルグの斬撃の権能によって斬り刻まれて打ち消されていく。

「…………！？」

「……今度は俺の番だな。」

俺は強引に鎧の魔族の炎刃を砕いたあと、雷纏をベルゼブブに纏わせた。

暴食の魔装具は俺が放った雷を喰らい、雷の音と羽音が混ざり合った音を立て始める。

俺は手の中で凶悪に暴れる刃を無理矢理握り込んで、羽音の顎（あぎと）を眼前の敵へ振り下ろした。

鎧の魔族が再度手元に剣を、更に地嶽炎刃で壁を作り攻撃を受け止めようとするが、ベルゼブブはそれらを意に介することなく砕き食らっていく。

雷を帯びたベルゼブブの振動の顎、「雷噛」は炎刃を持った腕ごと喰らい、噛み砕くが、俺はそれでも止まらない。フレスベルグの力をダメ押しとばかりに鎧の魔族に叩きつけた。

「――――――――――ッ！！？」

鎧の魔族は俺の攻撃を受けて、衝撃で大きく後退する。

片腕と身体の半分、顔の半分が消し飛んだ伽藍洞の魔族は、膝をついた体勢からよろよろと立ち上がり、炎閃、地嶽炎刃、紅蓮陣の3つを同時展開しようとした。

俺はそれを纏めて屠るべく、再びベルゼブブを構える。だが、そこで空から赤黒い雷が鎧の魔族目掛けて無数に降り注いだ。

「グガァアアァァァアアアッ？！！！」

ここに来て、初めて生き物らしい断末魔を上げた鎧の魔族はそれに耐えることが出来ず、今度こそ倒れ伏した。

それと同時に黒髪の少女が俺の隣に降り立つ。

「アルシア、無事！？」

ニーザが俺の腕を掴んで、本気で心配してくれたので、俺は苦笑いしてゆっくりと頷いた。

「……大丈夫だよ。そっちこそ、向こうは大丈夫だったのか？」

「うん。あっちは平気。大した被害になってなくて、ひと仕切り暴れたらフレスがこっちに行ってくれって言うから来たの。というよりか……アイツは？」

ニーザはその心配そうな目を殺気の籠もった鋭い物に変え、先程まで俺が戦っていた相手を睨みつける。

彼女が言っているのは、恐らくはヤツ自身ではなく、ヤツの力の事だろう。

だが、倒れ伏していた鎧の魔族は隙を付き、転移魔法を起動して俺達の目の前から姿を消した。逃げ足の速いやつだ……。

「奴は………、スルトの神核を使って作られた魔族みたいだ。」

俺はボロボロの身体で召喚、魔眼を解除し、最後にベルゼブブに再び封印を施しながら答えた。